2023年8月18日 (金)

耳を開く

教えている大学オーケストラのチェロパート(いま夏休み中で、しばらくすると合宿があります)に向けて書いた文章を下記に。少し手を加えてあります。


・・・・・・・


チェロの皆様


今回は少し専門的なことを書いてみたいと思います。興味の持てるところまで読んで頂けたら幸いです。

ご存じの通り、管弦楽作品には多くの楽器が使われ、多くの音があります。
同時に多くの音が鳴っている時、その多くの音をどうとらえて、どう聴いているのか、きっと人によって驚くほど、違うと思います。
ピアノの経験がある人は、より多くの音を同時に聴けているのではないか、と思います。あるいは、たくさんの楽器の中で1本の旋律線だけ、好きな楽器の音だけ、自分の楽器の音だけ、聴いているかもしれません。

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音楽はどのように聴いても自由ですが、オーケストラの中でチェロを弾く時には、周りで起きていることをできるだけ正確に把握し、それに対して適確にふるまうことが大切と思います。
急にはできませんが、時間をかけてこつこつ続けると、少しずつ同時に耳に入る楽器の数が増え、同じ曲が違って聞こえてくるのではないか、と思います。是非それを経験して頂きたいです。

最初から耳だけで多くの音を聴き分けるのは難しいので、目の働きを借り、スコアを開いてみましょう。
楽器が多すぎず、少なすぎず、構成の見えやすい曲、例えばベートーヴェンの交響曲第5番(「運命」と呼ばれます)、ブラームスの1~4番、ドヴォルザークの8、9番、チャイコフスキーの5番などが良いのでは、と思います。
図書館などで借りるか、それほど高価なものではないので、好きな曲を見つけて買ってもよいかもしれません。知っているつもりの曲は、数年たってもう1度触れると、まるで違った顔で現れます。1冊のスコアは長い時間、輝きを保ち続けます。

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交響曲1曲の中には本当に多くの音が書かれています。1度に全部を見るのはなかなか大変なので、まず一つの楽章を読んでみましょう。できるだけ丁寧に、時間をかけて。頭ではなく体に取り込むように。1日に一つのパートで充分かもしれません。
広く浅く、多くのことに触れるより、一つのことを徹底して身につける方が、結局早いと思います。

音を聴きながら、スコアを眺め、まず耳に入ってくる主要な動きを追いましょう。第1ヴァイオリンやオーボエ、フルート、といった楽器が担っていることが多いです。その主要な動き(旋律)は様々な楽器に移り変わっていきます。

その曲の外観を眺めたら、次は5部の弦楽器を見ましょう。
オーケストラは4つの楽器群、弦、木管、金管、打楽器に分かれていますね。人数の多い弦楽器は、オーケストラの母体を形成しています。まず弦楽器の中で主要な動きを担っているパートを追いましょう。根気と時間のある人は第1ヴァイオリンから順に、全てのパートを追うと、きっと様々な発見をするのでは、思います。

第1ヴァイオリンは何と言っても花形です。第2ヴァイオリンとヴィオラは旋律の3度音程下で支えたり、ハーモニーを構成したり、リズムを作ったり、フレーズの変わり目で次への橋渡しをしたり、目立ちませんが、とても興味深いパートです。作曲家の考えに触れられる気がします。
チェロを聴く時は同時に、コントラバスの動きも追いましょう。コントラバスと同じ動き(ユニゾン)の時は、オーケストラ全体のバス(低音)を担っています。その時はコントラバスの響きの中に入り、オーケストラを支えるイメージを持ちましょう。そうでない時は輝かしい高音で旋律を弾いたり、対旋律を弾いたり、ヴィオラのように中声部を担当したりしています。ドヴォルザークの「新世界より」ではコントラバスとチェロの役割が逆転しているフレーズがあります(珍しいケースと思います)。全体の中の、自分の立ち位置を把握してみましょう。

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次は木管楽器を。
オーボエ、フルート、クラリネット、ファゴットの4つの楽器があります。音域で言うと、オーボエとフルートはヴァイオリン、クラリネットはヴィオラ、ファゴットはチェロに重なります。
弦楽器群と木管楽器群は似た使い方をされることも、違う使い方をされることもあります。同じ高音楽器のオーボエとフルートが、音色によってどう使い分けされているのか。ピッコロフルート、Esクラリネット、バスクラリネット、コントラファゴットといった高音、低音楽器がどのように使われているのか(重要な部分を強調しているかもしれません)も聴いてみましょう。

西洋音楽の重要な要素の一つに和音があります。
和音は3つ以上の音から構成されますが、基本となる三和音も、さらに一つの音を重ねて、4つの音で鳴らすと(例えば、ド・ミ・ソをド・ミ・ソ・ドに)、充実して安定した響きになります。
弦楽四重奏、混声四部合唱、4種類の木管楽器、ホルンも4本のことが多いです。

ホルンを聴いてみましょう。
4本の場合、この楽器の中でハーモニーが完結することがあるかもしれません。旋律や対旋律など重要な役割を担うことも多く、またチェロとユニゾンのこともあります。

トランペット、オーケストラの花形です。1番トランペットはよく聞こえます。2番3番が重要な働きをしていることがあります。注意深く聴いてみましょう。

トロンボーン、オーケストラで最も音の大きな楽器の一つと思います。大音量は自然と聞こえてきますが、例えばドヴォルザーク8番の冒頭のように、中声部で美しいハーモニーを作っていることもあります。表に出ていない時にも着目してみましょう。

ファゴット、ホルン、トロンボーンはチェロと音域が重なる楽器です。チェロと同じ動きをしているのか、違うのか、違う時はどう違うのか、そうしたことに興味を持って聴いても、楽しいかもしれません。

チューバ、ここぞという時に使われる印象があります。もちろん、静かな場面でも効果的に使われます。
例えば、「新世界より」では、静かな第2楽章にだけ、出番があります。また、ブラームスの2番の第1楽章、ヴァイオリンの主題で音楽が動き始める直前に、トロンボーン、バストロンボーン、チューバ、チェロで和音を構成します。その時のそれぞれの楽器の使われ方はとても興味深いです。

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打楽器、ティンパニを始め、様々な楽器がありますね。
ティンパニが使われるのは、曲の鍵となる場面が多いです。大音量の時はもちろん、小さい音で使われている時にも着目しましょう。作曲家がその音楽をどうとらえているのか、骨組みが見えるようです。

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例えばブラームスの4番ではトライアングルが絶妙な感じで使われます。作曲家の音のイメージが見えるようです。
「新世界より」やブルックナーの7番では、全曲中で1回だけシンバルの出番があります(版にもよります。ブルックナー8番では2回)。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番では、終楽章のシンバルの使われ方が印象的です。
打楽器の一音がオーケストラ全体の雰囲気を一変させることがあります。(チェロにはなかなかできないことです)

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ハープが使われている時は、もちろん注意を向ける必要があります。

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多くの人が参加し、多くの楽器から音が出るオーケストラでは、お互いの音をよく聴き、できるだけ速く、柔軟に反応することが必要と思います。
オーケストラを自動車に例えてみます。良い自動車とは何でしょうか。多くの部品で構成されていますが、全体が調和し、スムースに快適に動くものではないか、と思います。

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他の楽器の人には怒られるかもしれませんが、チェロをエンジンに見立ててみましょう。自分の技術を磨き上手になることは、エンジンを高性能にすることに似ています。でもそのエンジンが周囲と調和していなければ迷惑にもなります。
雨や雪の日は、エンジンのパワーはゆっくり慎重に上げなくてはなりません。難しいカーブを曲がる時も、アクセルの繊細な操作はきっと重要です。一方、リスクを背負い先頭に立ち、全力でオーケストラを引っ張らなくてはならないときもあります。
チェロ、という楽器からの視点ではなく、離れたところからオーケストラ全体を見ると、今自分が何をしなくてはならないのか、見えやすくなると思います。

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おそらく授業で習ったのでは、と思いますが、西洋音楽にはソナタ形式、という形式があります(乱暴に言うと起承転結のようなものです)。このことを理解しておくと、長大な交響曲でも、自分の現在位置がよりつかみやすくなります。

長くなりました、その話はまた別の機会にしましょう。

2023年8月16日 (水)

4月の日経新聞から

4月を振り返ってみる。

 

4月18日日経朝刊から、
『タイヤ世界大手の仏ミシュランのフロラン・メネゴー最高経営責任者は、タイヤの摩耗により生じる粉じんが規制される見込みの欧州連合の新たな排ガス規制に関して、「我々が長年取り組んできた課題だ」との認識を明かした。タイヤ業界では事業への懸念もあがるが、粉じん抑制をめぐる規制のあり方について、同社がリードしていく考えも強調した。』

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4月20日日経朝刊から、
『国連人口基金は19日、インドの人口が2023年半ばに中国を抜いて世界最多になるとするデータを公表した。インドは14億2860万人、中国は14億2570万人と推計しており、インドが約290万人上回る。』

4月27日日経朝刊から、
『国立社会保障・人口問題研究所は26日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。2056年に人口が1億人を下回り、59年には日本人の出生数が50万人を割る。』

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4月10日日経朝刊から、
『東京都が新型コロナウィルス感染症に関して都内に住む20~70代にアンケートを実施したところ後遺症を疑う症状が2カ月以上あったとする回答が25.8%に上った。割合は若年層ほど高かった。』

4月13日日経朝刊に掲載された、英国薬剤耐性特使サリー・デイビスさんの記事から、
『薬剤耐性(AMR)関連の死者数は世界で年間400万人以上に達する。心臓病、脳卒中に次ぐ死因の第3位となっており、「静かなパンデミック」とも呼ばれる。新型コロナウィルスの感染拡大に気をとられている間に抗菌薬の使用が韓国などで劇的に増えた。結果として病原菌の耐性は高まり、状況は悪化したと考えられる。』

4月1日日経夕刊から、
『内閣府は31日、自宅にいる15~64歳のひきこもりの人は、全国に146万人との推計値を公表した。半年以上、家族以外とほとんど会話をしないなどの人と定義。5人に1人が新型コロナウィルスを原因に挙げた。』

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4月18日日経朝刊から、
『人工知能開発スタートアップのアラヤとホンダ子会社の本田技術研究所は自動車運転時の脳活動の分析に成功した。運転が得意な人は物体の位置や動きを把握する能力が高く、危険予測が早いことがわかった。・・・
 ・・・運転が上手な人は空間認知をつかさどる脳の部位が一般の人よりも早く反応していた。』

4月24日日経夕刊から、
『国立障害者リハビリテーションセンターによる発達障害者の感覚をめぐる調査で、特定の音が苦手といった聴覚過敏が「最もつらい」との回答が53.7%を占めたことが分かった。複数人の会話が苦手な人も見られる。』

4月5日日経夕刊から、
『氷で患部を冷やす「アイシング」は、けがの程度が軽い場合は筋肉の回復を促すとの研究結果を神戸大の荒川高光准教授らのチームが5日までに発表した。チームによると、これまでアイシングの効果について十分な科学的根拠は示されていなかった。』

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4月22日日経夕刊から、
『地球の約6分の1である月面の重力があれば、体を支える筋肉の量が減るのを抑えられる一方、持久力が弱まるといった筋肉の質的な変化は抑えられないとの研究結果を、筑波大と宇宙航空研究開発機構のチームが21日、発表した。将来の有人月探査などに向けた基礎データになるとしている。』

4月19日日経夕刊から、
『脳は、目で見た物から刺激を受ける。その反応を分析し、人の手ではなくコンピューターによって、見た物を画像にする研究を大阪大の高木優助教(システム認知科学)らが進めている。・・・
 まず見た刺激を受け取るのは後頭部にある初期視覚野。この反応から粗い画像を作り出す。
 次に見た情報を解釈するのが脳底部の高次視覚野。この反応から「クマ」や「空を飛ぶ飛行機」などの意味を読み取る。2つを組み合わせて画像化する。』

4月23日日経夕刊から、
『京都大病院の池口良輔准教授らのチームは25日までに、細胞を材料にして立体的な組織をつくる「バイオ3Dプリンター」で細かい管を作製、手の指などの神経を損傷した患者3人に移植する治験を実施し、神経の再生を確認したと発表した。副作用や合併症はなかった。』

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4月2日日経朝刊から、
『探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」から持ち帰った試料を調べた初期分析が完了した。液体の水やアミノ酸といった生命の起源に迫る物質を見つけたほか、太陽系の成り立ちを知る手がかりを得た。』
『東北大学などの研究チームは森林の地面に生えたキノコに電極を取り付け、会話とも思える電位の変化をとらえた。雨をきっかけに電位が大きく変化し、隣のキノコに伝わっていた。』

4月9日日経朝刊から、
『長崎大学などの研究チームは海底に生息する甲殻類の一種である「オオグソクムシ」が1回の餌で約6年間生きられるだけのエネルギーを摂取できる可能性があることを突き止めた。最大で体重の45%にあたる量をとるという。・・・
 水温セ氏10.5度で、一般的な大きさの体重33グラムの場合、1年間のエネルギー消費量は約13キロカロリーだった。ご飯に換算すると10グラムにも満たない。』

4月26日日経朝刊から、
『災害時に飛行機型ドローンを飛ばし、被災状況を高速撮影する活動を続けるNPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」。古橋大地理事長は撮影した地図データを国や消防などに提供、救助活動を後方支援する。』

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4月27日日経夕刊から、
『身長約6.1メートルの巨体とまっすぐに伸びた白い手足、無表情の顔。名古屋駅前の巨大マネキン「ナナちゃん」が今月28日、50歳の誕生日を迎える。百貨店の宣伝のために建てられたが、やがて駅のシンボルに成長した。』

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4月25日日経夕刊から、
『月刊音楽誌「レコード芸術」が7月号(6月20日発行)で休刊すると発表し、波紋が広がっている。・・・
 ピーク時には月間約400作品のクラシックCDが発売され、批評の対象となっていたが、現在は100作品ほどまでに減り、レコード会社からの広告出稿が落ち込んだという。読者の85%が50~70代で高齢化も進む。』

4月18日日経夕刊から、
『時間貸し駐車場(コインパーキング)の駐車料金が上昇している。新型コロナウィルス下で駐車場数が減った中で利用が回復し、東京23区では平均料金がコロナ流行前を約1割上回る。』

4月30日日経朝刊から、
『ChatGPTなど話題の生成人工知能(AI)は人間のような自然な文章やイラストをつくりだす。脳の神経回路の働きをモデルとする「深層学習(ディープラーニング)」と呼ぶ技術が基盤となる。登場して20年近くたつが、なぜ優れているのかはわかっていない。数学や統計学を駆使して謎解きに挑む研究が進んでいる。
 「深層学習はなぜうまくいくのか。正直に言えば、よくわからないところがある」。深層学習の原理解明に取り組む東京大学の今泉允聡准教授はこう話す。』

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4月29日日経プラス1に掲載された小説家、小川洋子さんの記事から、
『「物語は世界のどこかに、ひっそりとあらかじめ存在しているのだと思います」。例えばそれは、はるか遠い場所にある太古の時代からの洞窟の壁画のようなもので、誰かが見つけてくれるのをひそかに待っている。「自分はなんとか洞窟にたどり着いて、それを描写するだけ」』

4月3日日経夕刊に掲載されたハイデイ日高会長、神田正さんの記事から、
『私も中学生と偽り、小学6年生から4年間、週末はキャディーをして家計を支えた。・・・
 貧乏暮らしでツイてない人生だと思ったが、人を見極める目を養えたのは収穫だった。クラブの受け取り方などちょっとしたしぐさに人格は表れる。飲食店を出店するときには大家から多額の保証金を求められる。返還されるとは限らないのだが、大家を見る目には自信があった。これまで一度もだまされたことはない。』

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4月13日日経朝刊に掲載された、村上春樹さんの記事から、
『「・・・僕自身は意識と無意識を行き来するうちに立体感をつかむという方法論をとっており、それまでの日本文学の流れとは異なる。・・・」
 「影というのは潜在意識の中の自己、もう一人の自分なのですね。相似形であると同時にネガでもある。それを知ることは自分を知ることになる。とりわけ長編小説を書く場合は(潜在意識を)深くまで掘っていく必要がある」
 「40年でフルマラソンを40回走った。体力は大事。もし走っていなかったら人生がどうなっていたかわからない。・・・」』

2023年7月 9日 (日)

3月の日経新聞から

3月を振りかえってみる。

3月21日日経朝刊から、
『国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した報告書は、各国の温暖化対策の遅れに危機感をにじませた。産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達すると予測した。温暖化が進むほど水不足なども深刻になる。』

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3月1日日経朝刊から、
『厚生労働省が28日に公表した人口動態統計(速報)では、2022年の国内の死亡数、前年比の死亡増加数共に戦後最多となった。新型コロナウィルスによる死亡に加え、心不全などで亡くなる高齢者が急増している。
 22年の国内の死亡数は158万2033人で、前年より12万9744人(8.9%)増えた。』
『厚生労働省は28日、2022年の出生数が外国人を含む速報値で前年比5.1%減の79万9728人だったと発表した。80万人割れは比較可能な1899年以降で初めて。』

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3月21日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの抗体保有率が全国で42.3%に上ることが、厚生労働省の調査で分かった。2月19~27日にかけて実施し、献血した人のうち一定の条件を満たした全国1万3121人から協力を得た。2022年11月に実施した調査から13ポイントほど上昇した。
 ・・・・・
 都道府県で結果に差がみられた。最も高かったのは福岡県で59.4%。沖縄県が58.0%で続いた。最も低かったのは岩手県で27.4%だった。』

3月26日日経朝刊から、
『米マッキンゼー・アンド・カンパニーは新型コロナウィルスによって2022年に米国の労働力が0.8~2.6%損なわれたとの試算をまとめた。』

3月30日日経朝刊から、
『会計検査院によると、新型コロナウィルスのワクチンの国内の接種実績は2023年1月時点で約3億7900万回分に上った。
 一方、有効期限切れによる廃棄や、需要減によるキャンセルも相次いだ。・・・21年度までに確保した8億8200万回分の3割が使われなかったことが判明している。』

3月6日日経朝刊に掲載された、モデルナ、ムーア最高科学責任者の記事から、
『人が感染しうるウィルスとして特定されているのは225あるが、ワクチンの開発されたのは25にとどまる。我々は全てのウィルスに対しワクチンを開発していきたい』

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3月11日日経夕刊から、
『気象庁は11日までに、東日本大震災の余震域で、昨年3月11日から今年2月28日までの約1年間に震度1以上の有感地震が計510回あったと明らかにした。マグニチュード4.0以上は計240回だった。
 ともに直近2年よりも増えたが、気象庁は全体としては減少傾向とみている。』

3月11日日経朝刊から、
『東京電力福島第1原子力発電所の事故処理費用が膨張を続けている。会計検査院によると2021年度までに約12兆円が賠償や除染、廃炉作業などに措置された。賠償や除染などの費用は22年度までに年1兆円規模となった。東日本大震災から11日で12年を迎えるが、廃炉や除染の道筋はなお見通せない。』
『東京電力は核燃料が溶けて固まった溶融燃料(デブリ)について、23年度後半に福島第1原発2号機からの取り出しに着手する。・・・
 東電などによると、事故で燃料が溶けた1~3号機全体でデブリは推計880トンある。』

3月17日日経朝刊から、
『ドイツが4月に「脱原発」の目標を達成する見通しになった。ショルツ首相は日本経済新聞の取材で、国内に残る原子力発電所3基の稼働を完全停止する方針を示した。「延長の選択肢はない」と明言し、脱炭素社会の実現に向けて風力などの再生可能エネルギーで国内電力を賄うと強調した。』

3月27日日経朝刊から、
『環境省は日本海溝・千島海溝沿いで想定されるマグニチュード9級の巨大地震に伴う住宅がれきなどの災害ごみは最大で2717万トンに達すると推計した。処理完了に3年かかった東日本大震災の約2千万トンを上回る。』

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3月3日日経朝刊から、
『政府による通信遮断や検閲によってインターネットの世界が分断する「スプリンターネット」が深刻になっている。米人権団体のフリーダムハウスが2022年にまとめた報告書によると、世界のインターネットの自由度は12年連続で悪化した。』

3月29日日経夕刊から、
『米国務省のパテル副報道官は28日の記者会見で、ロシアとの核軍縮条約に基づく一部の情報提供を停止すると明らかにした。ロシアが条約の履行を停止し、米国も対抗措置をとる。』

3月17日日経朝刊に掲載されたUSナショナル・エディター、エドワード・ルースさんの記事から、
『少し頭の体操をしたい。もし台湾が存在しなかったとしても米国と中国は対立していただろうか。筆者の直感では「イエス」だ。覇権国と新興勢力が対立するのは人類の歴史の一部と言っていいからだ。』

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3月29日日経夕刊から、
『名古屋大などのチームは、石川、三重、鳥取の3県の海で青紫色に発光するゴカイを新たに3種発見したと29日付英科学誌に発表した。青紫に光る生物は世界的にも珍しいといい、名古屋大の自見直人助教(分類学)は「発光のメカニズムを明らかにしたい」としている。』

3月5日日経朝刊から、
『日本で将来のノーベル賞候補となる先端研究人材が減っている。世界で注目される論文数はピークから2割近く減り国別順位で12位と2000年代前半の4位から後退した。』

3月25日日経朝刊プラス1に掲載された、デジタル認知障害の記事から、
『専門家が注目する原因の一つは01年にワシントン大学のマーカス・レイクル博士が発表した研究成果だ。レイクル博士は脳の活動を画像化する研究で、脳は「ぼんやり」しているときも相当なエネルギーを使っていることを解明。このとき脳は何もしていないのではなく、入力された情報を整理し、最適な答えを出したり重要なことだけを記憶したりする。これを「デフォルト・モード・ネットワーク」と名づけた。
 常にスマホを使っていると脳の中を整理する時間がなくなり「脳の中がゴミ屋敷のよう」になる。認知障害だけでなく「興味のないことには意欲がわかない」新タイプの「うつ」の原因にもなっているという。』

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3月10日日経夕刊に掲載された、オリックス山本由伸投手の記事から、
『不安を感じる中で個人的にトレーナーに師事。ウエートトレーニングに頼らず、ブリッジに様々な動きを組み入れた体操や、やり投げのような器具を使った遠投を練習メニューに採り入れた。体の深部から鍛え、全身の筋肉や骨の連動性を高めるトレーニングを継続してきたことが、今の飛躍につながっている。』

3月30日日経朝刊から、
『慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授らによる研究チームが、箱根駅伝などで活躍する青学大陸上競技部(長距離ブロック)の男子学生48人と同年代の一般男性10人の腸内フローラの比較調査を行ったところ、学生たちには「Bacteroides uniformis(バクテロイデス・ユニフォルミス)」という細菌が一般男性に比べ、約10倍多く生息していることが明らかになった。学生のうち25人の3000メートルの記録を比べると、上位者ほどこの細菌数が多くなる傾向も分かった。』

3月29日日経夕刊から、
『ギターを弾く際に重要なのが、利き手で弦をはじく動作の「ピッキング」。この軌道や良しあしについて、腕時計のような形の装置を使ってパソコン画面上に表示する方法を、東京都在住のロックギタリスト、加茂フミヨシさんが考案した。「これまで説明困難だった『暗黙知』の技術を可視化でき、演奏習得の効率化につながる」と説明。ギターレッスンなどに活用したい考えだ。』

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3月23日日経夕刊に掲載された宮大工、小川三夫さんの記事から、
『「未踏に挑むからこそ、そこに知恵が生まれます。力のある人は力で物を動かそうとするので、力以上の物を動かすことはできません。力のない人はそこで知恵を働かせ、工夫をするから力以上のものを動かすことができるようになります。私はそのことの方が大切だと思います。飛鳥時代には材木を山から切り出して、現場まで運ぶだけでも大変なことで、多くの知恵を働かせなければできませんでした。」』

2023年6月12日 (月)

役所広司さん、シュタルケル、F.P.ツィンマーマン

第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した役所広司さんについて、6月7日の読売新聞朝刊に映画監督黒沢清さんの記事が掲載された。その中から、

『それにしても役所広司は不思議なスターです。日本映画の歴代の男性スターを思い出してみると、高倉健にしろ三船敏郎にしろ笠智衆にしろ、どんな作品でもみな演じるキャラクターは同じで、彼らはそのただ一種類の強烈な個性で際立った印象を観客に与え、それがスターの資質と呼ばれるものでした。ところが役所広司はそれを根底からひっくり返したのです。サムライから清掃員まで難なくやってのける彼の役柄の多彩さは、もちろんその並外れた演技力からくるものなのですが、それは本来バイプレーヤーの資質というべきものです。
 僕も役所さんの目つきが優しさから突然狂気に変わるところや、活力のある男が急に虚無の人へと豹変する瞬間を現場で何度も目の当たりにしていて、現代の日本人なら誰でも持つ弱さ、曖昧さ、不健全さといったものの的確な表現にいつも驚かされるのですが、そういったリアリティーはスターが演じる健全さや庶民性とは実は縁の無い要素のはずです。ところが役所さんは、複雑怪奇な人間の本性を、堂々たるスター性をもって体現することができてしまうのです。』

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確かに、高倉健さん主演の映画を観ると、高倉さんの存在感がその映画を占めていることを強く感じる。そして、その高倉さんの魅力を他の映画でも感じたい、と思うかもしれない。

最近はあまり映画を観なくなったけれど、洋画を観ていると、しばらくしてから、この俳優はあの映画のあの役を演じていた人だ、と気付いて驚くことがある。その時とはまるで違う今回の役を見事に演じていて、ぼんやりした僕はなかなか気付かない。

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以前、音楽プロデューサーの中野雄さんがラジオ番組でチェリスト、ヤーノシュ・シュタルケルを取り上げた時、ベートーヴェンやバッハや、様々なレパートリーを弾いても、演奏を聴くとすぐシュタルケルとわかる、と話され、印象的だった。彼独特の節回しにも言及されたと思う。
後に中野さんにお会いした際、そのラジオ番組のことを伺うと、何を演奏してもシュタルケルだとわからなければいけない、と本人が言ったことを教えてくださった。

シュタルケルに限らず、カザルス、フルニエ、トルトゥリエ、ロストロポーヴィチ、シャフラン・・・、そうした人たちの演奏を聴くと、一つのフレーズを聴くまでもなく、たった一音でその人と分かる時がある。

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少し前にM君と話していた時、ヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマンが、演奏家は演奏する曲によってカメレオンのように変化する必要がある、ということを言った、と教えてくれた。

演奏の仕事に携わっていると、様々な曲を演奏する。作品に触れるごとに、作曲という営みのすごさを感じ、圧倒される。
残された楽譜に対して、演奏家の個性や主張はさほど大きなことではなく、楽譜には何が書いてあるのか、どのようにしたら楽譜に書いてあることを実現できるのか、そうしたことが大切ではないか、と思うようになった。

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2023年6月 8日 (木)

プロフィール写真を

時の過ぎるのは驚くほど早く、そろそろ替えなくては、と思っていたプロフィール写真をようやく撮ってもらいました。

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前まで使っていた写真は2006年のもの。若い頃、先輩の演奏家が古いプロフィール写真を使い続けているのを不思議に思っていましたが、いつの間にか、自分がそうなっていました。

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2023年5月20日 (土)

2月の日経新聞から

2月をふり返ってみる。

2月6日日経朝刊から、
『東南アジアの最貧国、ラオスで不発弾による事故が後を絶たない。8000万発が残ると推定されており、政府が統計を取り始めた2008年から22年までに累計1000人以上の死傷者を出した。ベトナム戦争を終結に向かわせたパリ和平協定から50年を迎えた今もなお、ラオスの経済発展を妨げる「負の遺産」となっている。』

2月23日日経朝刊から、
『ロシアはウクライナ侵攻で、2022年3月までに占領した土地のおよそ半分を春以降に失った。欧米の武器供与を受けたウクライナが奪還した。ロシア軍と民間軍事会社の死傷者は20万人規模との推計があり・・・。
 侵攻は24日に1年を迎える。ロシア軍による支配・侵攻地域は現在、ウクライナの東部・南部を中心に全土の18%を占める。』

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2月8日日経朝刊から、
『国内で報告された新型コロナウィルス感染症の死者が7日、累計で7万人を超えた。1月上旬に6万人を超えたばかりで、1カ月で1万人増えた。』

2月12日日経朝刊から、
『人間活動の影響によって、生物多様性が損なわれ、感染症の脅威が増すとの報告が相次ぐ。ウィルスなどの病原体を持つコウモリの生息域が変化したり、病原体を媒介するネズミやダニが増えたりするからだ。』

2月1日日経夕刊から、
『福島大などの研究チームは紀伊半島に住む野生のニホンジカの遺伝子を調べた結果、このうち奈良公園のシカが独自の遺伝子型を保っていることが分かったとする論文を米哺乳類学会の学会誌で発表した。
 園内にある世界遺産・春日大社の神の使い「神鹿(じんろく)」として千年以上前から人間の保護を受け、集団を維持してきたことを示している。』

2月27日日経朝刊から、
『東日本大震災で津波が襲った仙台湾沿岸の干潟の生態系が、ほぼ震災前の姿に戻ったという。東北大学などの研究者の調査に延べ約500人のボランティアが協力。約10年間、生き物の採取を続け「巨大津波の自然界での意味」の一端を明らかにした。』

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2月19日日経朝刊から、
『80億人に達した人類の影響はあまりに大きかった。その活動で世界はプラスチックやコンクリート、温暖化ガスであふれかえり、地球の環境は激変した。人類の行き過ぎた振る舞いを地球史に記す必要があるとして、新たな時代「人新生(じんしんせい)」を定めるべきだとの声が強まっている。
 人類が残した爪痕は深い。イスラエルのワイツマン科学研究所は人類が生産した人工物の総量が生物の量を上回ったようだと2020年の英科学誌ネイチャーに発表した。』

2月1日日経夕刊から、
『米航空機ボーイングは31日、ジャンボ機「747」を米貨物航空アトラスエアに引き渡し、同機種の生産を終了した。ライバルの欧州エアバスも「A380」の生産を終えており、超大型機の時代が名実ともに幕を閉じる。』

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2月9日日経朝刊から、
『1964年の東京五輪・パラリンピックの開催に合わせて整備した道路や施設などのレガシー(遺産)に老朽化の波が押し寄せている。急ピッチで整備された数々の施設は今なお現役で、改修を重ねながら当時の姿を保っている。・・・
 「崩壊するシナリオに乗っており、科学的にはいつ崩壊してもおかしくない」。コンクリート工学に詳しい横浜国立大学大学院の前川宏一教授は羽田トンネルの現状について、こう指摘する。』

2月8日日経朝刊に掲載された関東学院大学教授、島澤諭さんの記事から、
『2023年度予算案は一般会計総額が114.4兆円と、当初予算としては初めて110兆円を超えた。税収は過去最高の69.4兆円を見込みながら、国債発行額は35.6兆円と依然高水準を維持する。政府は税収が増えても巨額の債務残高を減らさず、その分歳出を増やすだけで財政健全化は進んでいない。
 日銀が実質的な金融引き締めに転じるなか、毎年30兆円超もの新規国債発行を伴う赤字財政運営をいつまで続けられるのだろうか。』

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2月7日日経朝刊から、
『先進国で最も短い日本人の睡眠時間。・・・総務省の社会生活基本調査によると、新型コロナウィルス下の2021年に平日の睡眠時間が1976年の調査開始以来初めて増えた。・・・
 2021年の平日の睡眠時間は10歳以上男女の全国平均で1日462分(7時間42分)と前回の16年調査より13分増えた。』

2月14日日経朝刊から、
『総務省の社会生活基本調査によると、平日の1日のうち食事に充てた時間は平均96分だった。1日3食とすると1食あたり30分強。働いている人に限ると89分となり、調査が始まった1976年以降で最も短くなった。』

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2月20日日経朝刊に掲載された池上彰さんと、ノーベル賞受賞者スバンテ・ペーボ博士の記事から、
『ペーボ「新型コロナの重症化リスク要因には高齢者、既往症、男性などがわかっていました。でも、それだけでは説明がつきませんでした。ネアンデルタール人に由来する遺伝子があると重症化して亡くなるなどのリスクが2倍になることがわかりました。その遺伝子は欧州の人の約16%、南アジアの特にインドやスリランカでは最大50%の人が持っています。一方、日本や中国の人々にはほとんどないことが興味深いです」』

2月6日日経夕刊に掲載された小説家、高瀬隼子さんの記事から、
『自分で書いた小説を後で読み返してみた時、われながらこのシーンはいいな、このセリフや描写はよく思い付いたな、と感じる部分は、ほとんどが膝を曲げたときに書いた箇所だ。曲げれば曲げるほど、言葉が出てくるような気がする、というのはさすがに思い込みがすぎるかもしれないが、冷えたつま先を両手で包んで温めると、冷え切った一行の代わりに熱のこもった一文が書ける、気がする。脚と手はわたしの体でつながっている。』

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2月27日日経夕刊に掲載された東大寺別当、橋村公英さんの記事から、
『種をまき花が咲くまで早くて3年。8年ほどかかることもある。植物を前にすると人は観念的な時間ではなく、生物本来の時間に引き戻される。日常の中で大切にしているひとときだ。』

2月4日日経朝刊に掲載されたレオス・キャピタルワークス会長兼社長、藤野英人さんの記事から、
『カミュの『シューシポスの神話』が示す通り、賽の河原で石を積み上げているのが人生です。目標に達したと思った瞬間、スタートに戻る。無限の罰を生きることこそが無限の命であり、徒労の中に輝きがあるのだと思います。』

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2月7日日経夕刊に掲載された翻訳家、斎藤真理子さんの「銀行員の詩集」という記事から、
『読むたびに尽きない発見がある。そして随所に戦争の匂いが漂う。
「これが正しい事だと云つて / 戦争が起こつた / これが正しい事だと云つて / 終戦になつた」(「その眸」)
と振り返るのは住友銀行の深山杏子さん。この詩集には従軍、抑留、戦災、引き上げの記憶と共に、朝鮮戦争の勃発と日本の再軍備という現実が書かれている。』

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2月12日日経朝刊に掲載された詩人、和合亮一さんの記事から、
『筆を折って半年ほどが経った。一通の手紙が届く。「あなたの詩に心が動かされました。他にも掲載されているものがあれば、ぜひ」。それを読んでくれたのだ。困った。他に雑誌は無い。言い訳の返信を添えながら、捨てずにしまっていた大量の生原稿を丹念にコピーして送らせていただく。
 御礼の手紙が。「私は長距離トラックの運転手をしています。本日も新潟から雪道を戻ってきました。家に帰り、とっぷりとコタツに入り、すっかりと眠たくなるまで、詩をあれこれ読みふけるのが何より好きです」。丁寧な文字だ。「あなたの作品を繰り返し読んでいます。実は内容はあまり理解できてはいないのですが、とても元気が湧いてきます」。見つめる。穴が空くほどに。はらはらと見えない何かがこぼれそうになった。』

2023年5月14日 (日)

ありがとうございました

5月6日プリモ芸術工房での演奏会、多くの方々にお越し頂き、また、配信でも多くの方々にお聴き頂き、本当にありがとうございました。

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この1年も本当に多くの、主にオーケストラのレパートリーですが、曲を演奏しました。どの曲も高くそびえる山や、分け入っても分け入ってもまだ入り口でしかない深い森のようで、作曲という仕事のすごさに嘆息するばかりです。
作曲家はいったい何を書こうとしたのか、スコアを開き、足りない頭を使って、読み解こうとしてきました。

マーラー、ブルックナー、シェーンベルク、マデトヤ、シベリウス、シューマン、シュミット、ショーソン、ベルリオーズ、サン・サーンス、リャードフ、ストラヴィンスキー、バルトーク、ラヴェル、ドビュッシー、リゲティ、ブラームス、ルトスワフスキ、エルガー、・・・、様々な作品が自分の体を通り抜けた後、今年の4月久しぶりにメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲や交響曲第3番「スコットランド」を弾いた時、こんなに素晴らしい曲だった、と驚きました。
一つのフレーズを弾く度、一つの音から次の音へ移る度に、動きやその音の持つ強さ、必然性を感じ、メンデルスゾーンさん、まさにこれが音楽ですね、と心動かされました。
知っていたつもりの曲の素晴らしさに改めて気付く、演奏の仕事をしていて、本当に良かったと感じる瞬間です。

5月6日のプログラムも全て、過去に弾いたことがあり、どの作品にもその奥深さを初めて知るような感覚を持ちました。

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どれほど入念にその曲を準備しても、本番で弾いてみないとわからないことがあります。何十年もつきあってきた自分の体と心は、舞台の上でいったいどう振る舞うのか、実際に足を踏み出してみないとわからず、本当に興味深いです。

オーケストラの仕事をしていると、多くの演奏家の音に接します。その人の立ち居振る舞いと同じように、音にもその人そのものが現れます。楽器や体格も左右しますが、その人の体の使い方や使い方の癖(くせ)のようなものが音やフレージングに大きく影響している、と感じるようになりました。自分に対しても同様です。

演奏会の前、久しぶりにまとまった時間、自分が弾くということに真正面から向き合いました。
僕のチェロはストラディヴァリウスやゴフリラのような銘器ではないし、僕自身ももちろん超人的な演奏家ではない。重要なことは自分の中で体と心がどうつながっているのか、自分自身に耳を澄ませ、どう体と心を使えば、その音楽の表現にかなうのか、ということだと思います。

ちょっとした自分の癖があり、それが表現に大きく影響していることがある。癖、というのは無意識にしていることで本人は気付いていない。その気付いていないことが意図していない音を出す、表現をしている。思ったように弾けていない、上手くいっていない、漠然とは感じているのだけれど、原因がわからない。うまくいっていないことが習慣化し、癖が強化されてしまう。
一つの癖が他のことに影響することもあります。自分ではなぜそうなるのかわからず、頑張ってしまうとさらに悪くなる。
癖に気付き、癖だから変えるのは大変なのだけれど、気付くことによって一つ結び目をほどくことができる。すると次の結び目が見えてきて・・・、という時間を過ごしました。長い年月をかけて複雑に絡み合ってしまった糸を、辛抱強く丹念にほどいていくように。

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楽器を弾いてきて良かったことの一つは、自分の体と心が意識の表面で考えるようには動かない、と身にしみて知ることだと思います。(100メートルを10秒で走りたい、とどんなに強く念じても、それはほぼ不可能なことを考えて頂いたらよいでしょうか。)
その思い通りにならない体と心に、いったいどうやったらアクセスできるのか。今、初心者のような心持ちで、チェロを弾くことが楽しいです。

5月6日の公演、お聴き苦しいところがあったと思います。でもあの場を経ることで少し前に進むことができました。本当にありがとうございました。

2023年4月22日 (土)

1月の日経新聞から

1月をふり返ってみる。

1月13日日経朝刊から、
『2022年までの8年間が記録上最も暖かかったことが複数の研究機関の調査でわかった。大気中の温暖化ガス濃度が記録的な水準に達しているためだ。』

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1月11日日経朝刊から、
『今シーズンの高病原性鳥インフルエンザによる鶏などの殺処分対象数が10日、全国で計約1091万羽となり、1シーズンとして初めて1千万羽を突破した。』

1月8日日経朝刊から、
『北海道大学などの研究チームは、2022年4月に見つかった北海道内のキタキツネとタヌキから高病原性鳥インフルエンザウィルス「H5N1」を検出した。哺乳動物から見つかったのは国内では初めてという。』

1月7日日経朝刊から、
『国内で6日、新たに20万人超の新型コロナウィルス感染者が報告され、累計で3千万人を超えた。2020年1月に国内で感染者が初めて確認され、約3年で人口の4分の1近くが感染した計算になる。』

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1月4日日経朝刊から、
『米政治リスクの調査会社ユーラシア・グループは3日、2023年の世界の「10大リスク」を発表した。1位に「Rogue Russia」(ならず者国家ロシア)を挙げた。』(2位「最大化する習権力」、3位「テクノロジーによる社会混乱」)

1月18日日経朝刊から、
『2020年に世界の貧困層の比率が25年ぶりに上昇したことが国際非政府組織オックスファムの経済格差に関する報告書で明らかになった。21年末までの2年間で上位1%の富裕層が得た資産が、残る99%の獲得資産の約2倍にのぼるとも指摘した。』

1月8日日経朝刊に掲載された、「分断の先に」という特集記事から、
『なぜ人々は刹那的な主張と政策になびくのか。世界価値観調査で「他者(周囲)を信頼できるか」の問いに北欧諸国は6~7割がイエスと答えた。北欧より富が偏る米国や日本でイエスは4割を切り、ポピュリズムに流れたチリは12%だ。』
『代償は大きい。独キール世界経済研究所のマニュエル・ファンケ氏が20世紀以降のポピュリスト政権を調べると、政権誕生から15年後の1人当たり国内総生産(GDP)は各国平均で、従来の成長トレンドが続いたと仮定した場合に比べて10%も下回っていた。』

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1月10日日経夕刊から、
『災害や北朝鮮のミサイル発射といった緊急時にSNSに虚偽の情報が投稿される例が後を絶たない。人々の混乱に拍車をかける悪質な行為で、消防や救急など防災関係機関の業務を妨げれば罪に問われる可能性がある。』

1月30日日経夕刊から、
『第2次大戦中のナチス・ドイツによるホロコーストについて、オランダの若者世代の約4人に1人が「作り話」だと認識していることが、米NPOの調査で明らかになった。』

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1月1日日経朝刊から、
『総務省は31日、2023年1月1日時点の人口推計を発表した。・・・このうち18歳の新成人は112万人(総人口に占める割合0.89%)と、少子化を反映して過去最少だった。』
『「おひとり様」が増えている。国勢調査(2020年)によると単身世帯は38%を占め、ひとり暮らしは現代日本で最も多い世帯の形となった。』

1月31日日経朝刊から、
『人口の東京への集中が再加速している。総務省が30日発表した2022年の住民基本台帳人口移動報告では、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が3万8023人となり、超過幅は3年ぶりに拡大した。』

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1月11日日経朝刊から、
『東北大と東京大、京都大の研究チームは10日、南海トラフ沿いで巨大地震の発生後、1週間以内に同規模の後発地震が起きる確率は2.1~77%と、平時の99~3600倍に高まると英科学誌に発表した。』

1月15日日経朝刊から、
『かずさDNA研究所などのチームは、不老不死で知られるベニクラゲのゲノム(全遺伝情報)を解読した。通常のクラゲは老いると溶けて死んでしまうが、ベニクラゲは大人になっても若返る。若返るときに働く遺伝子を解析して、老化の解明に役立てる。』

1月11日日経夕刊から、
『アトピー性皮膚炎のかゆみは、皮膚組織で作られるタンパク質が知覚神経を刺激して引き起こされると、佐賀大学や富山大学などの研究チームが10日、発表した。このタンパク質の作用を抑制すれば、かゆみを抑える効果も判明。』

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1月18日日経夕刊に掲載された、「無意識が見つけ出す物語り」という記事から、
『「わたしはプランするのではなく、潜在意識をさぐって物語を見つけ出す」(「夜の言葉」、1979年)とル=グウィンは言う。真の物語は頭で作り出すものではなく、人類の古い集合意識から出てくるものだ。彼女は老荘思想にひかれていたし、両親が文化人類学者であったこともあり、「無意識」の根源的な力こそ、現代のファンタジーが、テーマとして見直すべきものとした。』

1月11日日経夕刊に掲載された、クライミング、森秋彩(もりあい)さんの記事から、
『「クライミングは正解がなく、自分らしさを登りで表現できる。指先や足先までしっかり理解していないといけないから自分と向き合えた」。』

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1月20日日経夕刊に掲載された、ジャパンディスプレイ会長CEO、スコット・キャロンさんの記事から、
『日本のバスや鉄道といった公共交通機関をとても気に入っている。車内で感じるのは日本社会のコミュニティだ。乗るとたちまち人々の小さな絆のようなものを感じる。
 手ごろな値段で、誰もが格差なく良い移動サービスを受けられる。その平等さが日本らしい。駅や車内は世界一清潔で、何より治安が良い。子どもを一人でバスや電車に乗せられる安心感も日本ならではだ。』

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1月28日日経朝刊に掲載された画家、野見山暁治さんの記事から、
『「絵描きを職業とは考えていないんです。自分が世の中に貢献して、それによって報酬をもらうのが仕事だとすれば、僕は人を喜ばすために絵を描いていないし、自分の絵に反響があろうとなかろうとかまわない。人や世の中を対象に仕事をしていないのに、それを職業といえるのだろうか」。そう考える野見山さんは、「絵は生涯の道楽」と語る。』

2023年4月14日 (金)

5月6日の演奏会

今年も洗足にあるプリモ芸術工房で、ピアノの長尾洋史さんとの演奏会をさせて頂くことになりました。5月6日15時開演、プログラムは

L.フォス:カプリッチョ
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第2番
メシアン:イエスの永遠性への賛歌
ブラームス:チェロ・ソナタ第2番

です。


フォスのカプリッチョは30年以上前、今はパリに住んでいる酒井淳君が弾くのを聴き、魅せられた曲です。
名前の通り、気まぐれに走り回る一方、教科書通りの和声進行があったり、ミニマルミュージックのようだったり、と予想を裏切る仕掛けがそこここにあります。
この作品の持つジャズやポップスに通じるグルーヴを出せたら、と思っています。

 

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今年の初め、若い二組のチェリスト、ピアニストが弾くベートーヴェンのソナタを聴く機会がありました。
恥ずかしながら最近ようやく、ピアノという楽器の素晴らしさに気付きつつある僕は、彼ら彼女たちの優れた演奏を聴きながら、ピアノと一緒にソナタを弾くとき、チェロはどのように音を出したら良いのだろう、どう発音するのがピアノにフィットするのだろう、と思いました。
アンナー・ビルスマは、ベートーヴェンの当時、ピアノよりチェロの音が大きいことが問題だった、と言っていました。今は力関係が逆転していますが、現在のピアノとチェロでいったいどのような響きをつくり出すことができるのか、様々なことを試みたいと思っています。

 

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メシアンは第2次大戦中、ドイツ軍に捉えられます。その収容所内で作曲され、初演されたのが「世の終わりのための四重奏曲」、「イエスの永遠性の賛歌」はその中の第5曲です。
極端に遅いテンポの指定があり(16分音符=44)、独特な緊張感があります。高音域のチェロで始まり、その旋律がピアノのホ長調の響きに包まれる瞬間が美しい。

 

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ブラームスの2番のソナタは学生時代、よく弾きました。当時二重奏を組んでいた健太郎と、さぁ今日は3回通してみよう、そんな練習をして、くったり疲れていたことを懐かしく思い出します。熱意だけで生きていた、そんな時代でした。
習っていた倉田澄子先生のところで、先生の師であるポール・トルトゥリエの弓使い、指使いを写した当時の楽譜は今もそのままあります。

 

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オーケストラの仕事をするようになり、ブラームスの4曲の交響曲、2曲のピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、二重協奏曲、ハイドンヴァリエーション、悲劇的序曲、大学祝典序曲、など様々な曲を弾いた後、久しぶりにチェロソナタの楽譜に戻ると、以前弾いた時とはかなり違う曲のように見えました。トルトゥリエの弓・指使いはそのままとっておいて、新しい楽譜で始めることにしました。
つい先日、ブラームスのドイツレクイエムを弾いたのは、素晴らしい経験でした。器楽曲や交響曲には見られないブラームスの素晴らしい世界がある。今年は7月にブラームス後期の名曲、クラリネット三重奏も弾きます。
知っていたはずの作品が、まるで別の曲のように、はるかに大きく素晴らしい姿で現れ、驚くことがあります。この後期のソナタをまるで初めて弾くように、その素晴らしさを少しでも実現できるように演奏したい、と思っています。

 

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連休の後半、お忙しいと思いますが、プリモ芸術工房までお越し頂けたらとても嬉しく思います。
詳細はこちらをご覧下さい。https://primoart.jp/event/event-124572/

 

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2023年4月11日 (火)

マーラーの7番

バーンスタインが指揮したウィーンフィルのマーラー5番をあまりによく聴いて、僕は曲とこの演奏が不可分になってしまった。音色、リズム、そして何より、腐る寸前まで熟した果物や肉のような濃厚な何かがあり、本当に素晴らしいと思う。

でも実際に演奏をする時には、たとえどれほど素晴らしくても、一つの演奏に縛られない方がいい、と思うようになった。今は大きなレパートリーに取り組む時は、できるだけ複数の演奏に接するようにしている。

マーラーの交響曲第7番は、もともとバーンスタインの全集で持っているのだけれど、見通しが良いとは言い難く、図書館やストリーミングサービスで様々な演奏を聴いた。

クリーブランド管弦楽団、と言えばジョージ・セルの指揮を連想する。ブーレーズの指揮で最近のこのオーケストラの音(1994年録音)を聴き、力で押し切るのではなく、品があって、改めて素晴らしい団体と感じた。バーンスタインの演奏からすると、客観的過ぎると感じるかもしれない。
(ジョージ・セルが指揮した録音は、どれも磨き抜かれた演奏だけれど、ある録音は、ある楽器の奏者の演奏が明らかに不調のまま入っていて、オーケストラ弾きとして聴いていて辛くなる。指揮者はとても厳しい人だったのだろうか・・・。)

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学生時代、前述のように5番の交響曲は聴いていて、では7番でも聴いてみよう、と求めたのがクルト・マズア指揮ゲヴァントハウスのCD。聴いてはみたものの、5番とはまるで別の曲で、ぼんやりした僕にはとらえどころがなく、30年くらい棚で眠っていた。
つい先日聴き、驚いた。1982、83年、ドイツが東西に分かれていた時代の録音。見事に引き締まったオーケストラの音で、それぞれの楽器のソロも素晴らしい。ホルンはヴィブラートがかかり、旧ソビエト連邦のオーケストラを彷彿とさせる。バーンスタイン&ウィーンのマーラーが官能的なのに対して、こちらはショスタコーヴィチのような厳しさがある。
僕は83年と85年の2回、当時の東ドイツに行った。壁の向こうの国は、日本にいては想像もできない世界だった。(「37年前の演奏旅行」をご覧下さい。)
また、オイストラフについてのドキュメンタリーの中で、ロストロポーヴィチが、当時の体制の中で、音楽だけが太陽に向かって開かれた窓だった、その気持ちは西側の人にはわからないだろう、と語ったことを思い出す。
壁があった時代、ライプチヒの音楽家たちが、このように素晴らしいマーラーを演奏していたことに、心動かされる。

現代のオーケストラの素晴らしさを堪能できるのは、マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の2016年の録音。
高級スポーツカーに乗っているよう(乗ったことはないけれど)。高性能で、奥行きがあり、官能的で豪華、どこにも不快なところがない。聞こうとしたらできたのに、マリス・ヤンソンスの演奏を実際に聞かなかったことをとても残念に思う。

 

5番はよく聴いたけれど、7番は馴染めない、とこぼす親に書いたのが下記の私流聴き方ガイドのようなものです。読み飛ばして頂けたら、と思います。言及しているCDや分数はヤンソンス&コンセルトヘボウの演奏です。
終楽章の説明の中で、空耳できらきら星変奏曲が聞こえる、と書いていますが、今日のリハーサルで大野さんは、その部分はオッフェンバックの引用、と仰っていました。


・・・・・・


マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
5つの楽章から構成され、第1楽章の規模が最も大きく、真ん中に速い3拍子の第3楽章、その第3楽章を挟むように「夜の歌」と名付けられた第2、4楽章が置かれています。終楽章はロンド形式、主題が形を変えて幾度も現れます。


第1楽章
付点音符のリズムに乗って現れるのが、「テナーホルン」によって奏されるゆっくりとした旋律、すぐ木管楽器、チェロ、トランペットと次々に受け継がれます。この流れを追いましょう。
だんだんテンポが速くなり、お送りしたCDで3分45秒頃に主部に入ります。チェロが弾くモチーフが重要です。このモチーフをよく覚えておいて、様々な楽器、拍子に変化して現れるのを追っていくことが鍵になると思います。


第2楽章「夜の歌」
4拍子、2つのホルンが1つの旋律をかけ合います。この旋律が他の楽器、木管、弦楽器、金管楽器に受け継がれます。この流れを追いましょう。時々ヴィオラのソロがあります。
途中、鈴(カウベル)が鳴ります。これは家畜の群れを模しています。弦楽器のコル・レーニョ奏法(弓の、木の部分で弾く)の叩くような音が聞こえます。
中間部は暗い響きになり(7分40秒頃)、まずオーボエが旋律をとり、その後2本のチェロが加わります。物憂げで、美しい。


第3楽章スケルツォ
速いテンポで目まぐるしく動きます。一つながりの旋律線に聞こえますが、細かく様々な楽器が受け継いで行きます。実際の演奏を目にすると、きっとそのことがよくわかると思います。オーケストラの能力が問われる部分です。
2回、コントラバスとチューバが絡むソロがあります。低音楽器のソロは、とても個性的です。


第4楽章「夜の歌」
ゆったりとした2拍子、独奏ヴァイオリンのオクターヴの跳躍で始まり、ギターとマンドリンが加わる大変珍しい編成です。それまでの大規模なオーケストラが急にこぢんまりとして、親密な感じになります。こうしたコントラストのつけ方がマーラーの巧みなところと思います。
ヴァイオリンソロの旋律はチェロソロやヴァイオリンtuttiの形でも現れます。

第4、5楽章の特徴として、同じ音程で構成されるモチーフがよく現れます。このモチーフを追うことも、作品後半の鍵になると思います。


第5楽章ロンド
ティンパニで勇ましく始まり、華やかな旋律がトランペットに、さらに弦楽器に受け継がれ、オーケストラ全体の強い音楽になります。この時ヴァイオリンの旋律の裏で、木管楽器が演奏する名人芸的な16分音符の細かい動きも、重要なモチーフです。
ハ長調の響きに、遠い変イ長調の和音がかぶせられ(1分38秒)、曲は次の部分へ進みます。
ロンド、同じ旋律が幾度も回るように現れる形式です。最初の旋律が様々に形を変えて(楽器を変え、拍子を変え)現れるのを追いましょう。
弦楽器の力技が求められるのが、7分35秒頃と11分7秒頃から始まるフレーズです。特にそれぞれ7分52秒頃と11分30秒頃からの八分音符の連続はとても技巧的です。弦楽器セクションの力量が問われます。

本筋ではありませんが、12分53秒頃からの、同じ音のモチーフが続くフレーズは、きらきら星変奏曲の主題のようにも聞こえます。

曲の最後はハ長調(ド・ミ・ソ)の輝かしい響きに包まれます。ただ、最後から2小節目だけ、ソが半音上がり、配置も変えられて(ソ#・ド・ミ)、一瞬不思議な響きがします。見事なひねりの加えられた着地と思います。

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