強い言葉
最近続けて読んだヨハン・ブリュニール著「ツール・ド・フランス 勝利の礎」と、山野井泰史著「垂直の記憶」、どちらもおもしろかった。特に山野井さんの本は独特の文体で言葉も強く、気持ちがまっすぐ伝わってくる。ギャチュン・カンから奇跡的に生還したことを書いた最終章は圧巻だった。
マナスルで雪崩に襲われた時の描写を引用させていただく。
「・・・体が止まったと気がついたときは、コンクリートのような雪と氷が全身を覆い、腕、足、頭、いずれも動かすことのできない闇だった。生き埋めになった自分の体がどのような姿勢でどのくらい雪面の下にあるのか。一メートル下か、それとも二メートル下か、今の自分になにができるか。どんなに体に力を入れても動かなかった。顔の前にあるわずかに動く中指で、口の前にエアーポケットを作るが、喉の奥に氷が詰まっていて、すでに呼吸困難に陥っていた。・・・」
僕はノンフィクションも小説もどちらも好きだ。
村上春樹さんのエルサレム賞受賞のスピーチの中にこんな部分もあった。
「・・・小説家はうまい嘘をつくことによって、本当のように見える虚構を創り出すことによって、真実を別の場所に引っ張り出し、その姿に別の光をあてることができるからです。真実をそのままのかたちで捉え、正確に描写することは多くの場合ほとんど不可能です。だからこそ我々は、真実をおびき出して虚構の場所に移動させ、虚構のかたちに置き換えることによって、真実の尻尾をつかまえようとするのです。・・・」