カザルスホールでのボザールトリオ
ショスタコーヴィチのトリオを弾いて、ボザールトリオの演奏会を思い出した。10数年前カザルスホールが主催公演を活発に行っていた頃だ。
僕は当時学生か出たてで桐朋とカザルスホールにはつながりがあったから、演奏会のゲネプロから聴かせてもらった。NHKのテレビカメラが入っていて、リハーサルが始まってからチェロの譜面台が画面の邪魔だから低いものに変更できないかと演奏者に言った。ずいぶん強いことを言うものだと思ったけれど、折りたたみの背の低い譜面台にしたらチェロの音が通るようになって驚いた。以来僕もできるだけ低い譜面台を使うようにしている。
初日のプログラムはブラームスの1番とシューベルトの1番だった。ブラームスの終楽章でチェロは、最後のページをわりと際どいタイミングでめくらないといけないのだが、そのあたりでチェロのピーター・ワイリー(だったと思う)が慌てているので何だろうと思ったら、A線(1番線)を切っていた。でもとにかくD線(2番線)のハイポジションを駆使して(!)彼は弾き切った。
演奏会の2日目はショスタコーヴィチのトリオ。
白熱した素晴らしい演奏だった。ピアノのプレスラーが第3楽章のコラールを存分に気合の入ったすさまじい音で弾いている時に(ピアノはひたすら8小節のコラールを繰り返す。このフレーズが終楽章でもう一度現れ、曲の結尾に重要な意味を持つ)ピアノの弦を切った。すごい音がしたはずだが演奏は続行し、そのまま終楽章に入って音楽が激しくなったところで今度はチェロのワイリーがまたA線を切った。さすがに弾き続けるのは無理で演奏は中断した。弦を換えて仕切り直し、終楽章の冒頭のピアノの八分音符から再開したのだけれど、それまでの白熱した勢いは消え失せてなんだか気の抜けた炭酸飲料のようだった。
多くの音楽体験をさせてくれたカザルスホールはもうすぐ閉じられる。
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