5月31日(木)曇り晴れ
雨で昨晩はひんやり。
テュイルリー公園を横切ってルーヴル美術館へ。混雑を避けられるというライオン門から入る。意気揚々と開館前に着いたのに、チケットオフィスが時間になっても開かない。中で職員がごそごそしている、やれやれ、ここはフランスだ。様々な美術館や教会などに入れるミュージアムパスを持つ方がいいらしい。あれは値段うんぬんより時間を買うものだったのだ。
まずモナ・リザへ。防弾ガラスに守られた名画の小ささには驚かなかったけれど、その顔色は中年男性のように見えた。混む前に有名どころを見るべくミロのヴィーナスに行ったら、東洋人の集団が(僕も東洋人だけれど)周りを押しのけ延々と入れ替わり立ち替わり記念写真を撮っているので、さすがに僕は怒ってしまった。
8年前パリに来たときは、東洋人と見るとそれは日本人だったように思う。今回驚いたのは日本人の少なさと、中国人らしい人たちの多さとそのパワフルさだ。これがそれぞれの国の今の勢いだろうか。
それからリシュリュー翼の2階へ。うってかわってここは静か、ゆっくり絵を見る人ばかりのようだった。クラナッハ、ホルバイン、ファン・エイク、フェルメール、ゴヤ、レンブラント、・・・、中世の宗教画、どれも素晴らしかった。
各所で子供向けのプログラムが行われていた。音楽を浴びるように聴いてきたように、絵もまず浴びるように見るべきかもしれない。しかもそのスタートがルーヴル美術館だとしたら羨ましいかぎりだ。僕はこれまでそれなりに美術館に行ってきた。でももっと若い時にこの美術館を訪れていたら、と思う。
午前中だけでぐったり疲れて昼ご飯。1階のカフェ・リシュリューへ。食事もコーヒーも美味しかったし、大きなモンブランも忘れがたくよかった。外側の栗の感じが、恵那や中津川の栗菓子の上品な味ととてもよく似ていた。
昼食後はマルリーの中庭、ピュジェの中庭で彫刻を見る。空間を巧みに使った展示に感心するばかりだった。彫刻は理屈抜きに楽しい。
フランスの古い彫刻にぞっとしてから、ハムラビ法典へ。「目には目を」が彫ってあるあれだ。背面にもびっしり楔型文字があった。
それからようやく中央部のピラミッド下に行ったら、大変な人出と反響する声と暑さに退散した。ピラミッド下にある売店は広いスペースで美術書をたくさん扱っていた。
その後ドゥノン翼へ。
最初飛ばして見た19世紀フランス絵画の大作を見る。日本ではあまり見たことのないような大きな絵がどかんどかんと置いてある。しかも、絵の前にはガラスもかけられず、自然光の差し込む明るいスペースで見られる。どうして日本の美術館は薄暗い照明で、しかもきっちりガラスで覆ってしまうのだろう。そしてここにはペンだったり絵具だったり、模写をしている人たちもいる。 美術館はこんなに自由でいいんだと思った。
再び中世のイタリア絵画に到達した頃、モナ・リザ前は大変な混雑で始終あちこちでアラームが鳴っていた。人の多さに辟易して退出しようとしたら、ライオン門手前のプリミティヴアート部門に気付いた。
ここが滅法おもしろかった。小さなものから巨大なものまで、なぜか親近感のわくものが多かった。
ルーヴルの展示は、多くの絵画は、日本の感覚からするとかなり高い位置に掲げられていて、小柄な人だと首が疲れてしまうかもしれない。それは洋服屋でも同じで、商品はやはり高いところにかけてある。
美術鑑賞も体力勝負脚力勝負、まるで壁に名画の飾ってある長大な迷路を歩くようだった。もちろん見られなかった場所はたくさんある。また来よう。
再びテュイルリー公園を経て金色のジャンヌ・ダルク像のあるところに出たら、また交通事故の現場だった。
一休みして買い物に出かける。オペラ駅前のカンペール(靴店)に入ったら、日本の半額くらいでびっくり。それからギャラリー・ラファイエット(大きなデパート)へ。なんと立派な天井のステンドグラス、地上階には有名ブランドの化粧品がぎっしり。
僕は旅先では四の五の言わず現地のものを食べるようにしている。しかしなんとも情けないことに、炒め物の匂いに強くひかれて入ったギャラリー・ラファイエット6階の中華のコーン入り玉子スープは、あぁ五臓六腑にしみ渡る。
建物を降りていく時に買ったピエール・エルメのマカロンは、ふわっと香りが立ち昇りさくさくとしてしかもジューシー、僕の知らない味だった。
オペラ駅前には全身銀色の大道芸人がいた。
強烈な西日の下、ホテルに戻る。今日は19、857歩。