こちらの心まで
パリの何が良かったのかと聞かれれば、その空気だったのだと思う。人々は感情を露わにし、それぞれの流儀で動き、思い思いの格好でそれぞれの言葉を話している。こちらの心まで解き放たれるようだった。
街中にカフェがあり、たくさんの人たちがカフェにいる。人間同士の触れ合い、付き合いは濃く、そういう意味ではとてもシンプルな国だと思った。子供や若者も多い。
17年前初めて行ったフランスで、モンペリエからジュネーヴまでTGV(フランス版新幹線)に乗った。途中、駅ではないところでなぜか停止し、フランス語のアナウンスがあり、皆車両から降りた。僕は今一つ事情が飲み込めず、周囲のフランス人に片言の英語で尋ねても答えてくれない。ようやく教えてくれたイタリア人によると、車内に爆発物があるかもしれない、ということだった。
当時フランスは太平洋で水爆実験をしていて、それに対し環境保護団体が強硬な反対運動をしていた、そのことに関係があったのかもしれない。
とにかく非常事態に外国人に英語で教えてくれないなんて、ひどい人たちだとその時思った。
実は今回のパリ行きにあたり、一念発起してフランス語の勉強を始めた。NHKラジオのフランス語講座。4月から始めたばかりで本当にたかが知れているのだけれど、ずいぶん世界が広がる感じがした。少し触れてみて、確かにこの言葉をしゃべっている人たちは英語をあまりしゃべりたくないかもしれない、と思った。
果たして、覚えたてかじりたてのフランス語を話してみると、すぐフランス語で「*#%¥~+&$!?」と返されるか、発音を直されるかして、うろたえるばかりだった。
薄暗くきれいとは言えない地下鉄は、被写体としても魅力的だった。ぼんやりとしていてはまずい、と感じさせる雰囲気がある。
地下鉄の素晴らしい音楽家(オーディションがあるそうだ)の演奏は何人か耳に入ってきたし、おそらくもぐりでギターやアコーディオンを弾く人たちもいた。
街を歩いて楽しい理由の一つに色使いの美しさがあると思う。教会のステンドグラスの色彩が大本にあるのだろうか。
パリは一つ一つの通りが個性的で、生活感にあふれ、その上歴史を感じさせるから街を歩くのが楽しく無いわけがない。全ての路地をくまなく歩いてみたくなる魅力があった。
6泊の日程の中で1日くらい遠出を、と思っていたのだけれど、結局ずっと中心部にいた。1週間足が棒になるまで歩いても、パリの表面をかすったことにもならない感じがした。
パリで売っているものの多くは東京でも買える。でもあの空気は持って来れそうにない。(時々ある臭いをともなっていたけれど)
また訪れることがありますように。