今日のベートーヴェンプログラムでインバルの公演は一段落。
彼を見ているといくつも感心することがある。まずとにかく元気なこと。80歳近いのに一時間以上かかるマーラーの交響曲を、素晴らしく広い腕や肩の可動域を使って振り続けること。振り間違えることが本当に少ないこと。迷ったり躊躇したりすることがないこと。いつも即決する。多少強引な気がすることもあるけれど、その一切の責任を彼は負っている。
それから、リハーサルやゲネプロをする時の時間の感覚(職業オーケストラのリハーサル時間はとても厳密だ)。手元に時計は置いていないはずなのに、今日の公演でも、先日のサントリーホールでも、普段のリハーサルでも、例えばその楽章が終わった時や曲が終わった時には、秒単位でまさにぴったり終わるべき時間になっている。
先日読み終わった「カラマーゾフの兄弟」、光文社文庫版の5巻目には訳者亀山郁夫さんの長大な解説(ドストエフスキーの生涯、解題)があり、ちょっと長いぞ、と思ったけれどとてもよかった。うぅむ、なるほど、すごい小説だなぁ。目からうろこが落ちるようだった。しばらくしたらまた読み返そう。
ジョイスの「ユリシーズ」も、丸谷才一さんの解説を読んではじめて、なぜこの小説が20世紀を代表するものなのかよくわかったもの。先達の文章はありがたい。
今読んでいるのは栩木伸明著「アイルランド紀行 ジョイスからU2まで」。アイルランドの街が、様々な歌や伝承、W.B.イェイツ、シング、ジョイス、ベケット、・・・様々な文学と結びつけられて語られる。僕も旅に出たくなる。
仕事の帰り、本屋に寄った。B.リッツマン編「クララ・シューマン ヨハネス・ブラームス 友情の書簡」を求めるためだ。もともと、みすず書房のホームページでは昨年11月の刊行予定となっていたのに、遅れに遅れてようやく。とても凝った函つきの製本だ。
http://www.msz.co.jp/book/detail/07727.html
もしブラームスが同時代人で、何月何日に彼の交響曲第3番が初演される、とかヴァイオリン協奏曲が初演される、とかだったらどんなだっただろう。ブラームスの音楽はよく知っているつもりだけれど、彼の文章は初めて。楽しみ。
書店の音楽書のコーナーで見つけたのは古屋晋一著「ピアニストの脳を科学する」。この本のことは人から教えられていた。手にとったら想像以上におもしろく、荷物が増える結果となった。帰宅してからあっという間に半分近く読んでしまった。
研究はまだ始まったばかりのようだけれど、楽器を演奏したり、音楽家が音楽を聴いたりする時、脳の中はどうなっているのか、という話だ。例えば、数日ぶりに楽器に触った時の他人の手のような感覚は、とか、弾いたことのある曲を聴いている時、脳の中では楽器を演奏するための領域が活性化している、とか。なるほどなるほど。最近うすうす感じていた、楽器を弾く音楽をするということは多分に頭の中でのこと、ということが書いてある。やみくもにさらうのではなく、きっと上手なさらい方がある。楽器の演奏で苦労したことのある人にはよくわかる話しではないだろうか。
もう一冊、丸谷才一さんの文章が読みたくて(僕は丸谷節、と思っている)「快楽としてのミステリー」も。
本が読めるのは幸せなことだ。
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