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2013年10月24日 (木)

音色が見える

帯広への演奏旅行中に読んだのはレイチェル・ジョイス著「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」だった。旅に出ている時は物語を読みやすい。旅という非日常に、さらに非日常の小説世界が重なるからかもしれない。そして気流が安定していれば(帰りはけっこう揺れたけれど)、飛行機は読書に最適だ。電車や車のようには揺れないし、本を読むためのまとまった時間になる。

僕が唯一定期購読している雑誌が岩波書店の「図書」。自然科学からダンテの「神曲」まで様々な専門家の文章が小さな冊子に詰まっていて興味深い。数か月分たまっていたのをまとめて拾い読みした。7月号に小嶋稔さんの「天然原子炉と福島原発事故」という文章が掲載されていた。その中から

『・・・同位体地球化学を専攻する者の多くは、福島第一原子力発電所一号炉のメルトダウンした核燃料が再臨界を起こし、大規模な核分裂連鎖反応を起こすのでは、との危惧を払拭しきれない。・・・・去年7月に経済産業省で行われた「福島第一原子力発電所事故に関する技術ワークショップ」での報告は、たいへんなショッキングなものであった。
 このワークショップでは、2011年3月11日の原発事故の直後にウランの核分裂連鎖反応の再臨界が起きる可能性があったことが議論されている。綿密な計算結果から連鎖反応の可能性が高かったにもかかわらず、なぜか大規模なウランの核分裂連鎖反応が起きなかった。しかしこの幸運は、海水の注入により、予想もしなかった塩素(正確には塩素系同位体のひとつ塩素35)の中性子吸収効果という、まったくの偶然に助けられた結果だったと結論している。・・・・』

『1972年フランス原子力庁は、かつてフランスの植民地だった赤道直下のアフリカにあるガボン共和国のオクロ鉱山から産出されたウラン鉱石がきわめて異常な同位体組成を持ち、その同位体組成は現在の原子炉で使用済のウラン燃料の燃えカスと酷似している、と発表した。・・・
 ・・・研究の結果、オクロ天然原子炉は、今から約20億年前にウランが臨界に達し、約15万年間にわたり原子の火が間欠的に燃え続けた、そしてその間の総出力は現在の100万キロワット級の原子力発電炉5基を1年間フル稼働した時に発生する熱エネルギーに相当する、と結論された。さらにオクロ天然原子炉は約15万年間連続的に核反応を起こしていたでのはなく、かなり間欠的だった、とも推定されている。』

昨日も移動の時間が長く、それを利用して読み終わったのがキース・メルトン/ロバート・ウォレス著「CIA極秘マニュアル 日本人だけが知らないスパイの技術」。東西が厳しく対立していた時代、『葉巻にも強力な脱毛剤を加えて髭を失わせ、カストロの「マッチョ」なイメージを損なう作戦が計画された。・・・』そうだ。もちろん当時も情報機関は必死だったのだろうけれど、今の出口の見えない、混沌とした世界に比べるとまだわかりやすかった気がする。
本書の後半は、プロのマジシャン、ジョン・マルホランドがマジシャンとしての経験から、実際にCIAのために書いたマニュアルが掲載されている。もちろんそれが僕たちの生活に直接役立つことはない、でもトリックをするために人間の心理と行動をよく理解していることはおもしろかった。

話は飛ぶけれど、人間の行動と心理はオーケストラの指揮者がよく把握していなければならないことの一つだと思う。音楽的な能力とはまったく関係なく、指揮台の上の指揮者の何気ない行動は、音に大きく影響する。
例えば、片足に重心をかけて棒を振る(片手間に指揮されている気がする)、たれてくる髪の毛をかきあげながら振る(左に同じ)、前後に動く・急にかがむ(指揮棒の打点が動いて見にくい)、指示をする声が小さい(うまく注目を集められればいいけれど、指揮者から遠い人たちには快適な状況ではない)、説明が多い(だんだん話を聞かなくなる)、体に力が入っている(オーケストラの音も硬くなる)、・・・。
都響の音楽教室の指揮者体験コーナーで、姿勢のいい小学生が緊張もせず棒を振り下ろすと、驚くほど素直な音が出ることがある。

僕にとって印象的な指揮者の一人がリッカルド・ムーティ。彼の指揮は、テンポや音量だけでなく、音色まで手に取るように見えた。なぜだったのだろう、本当に不思議だ。もうすぐムーティのリハーサルが始まる。

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