砂がさらさらと流れ落ちてしまうように
ムーティの演奏会2日目。彼は圧倒的な求心力を持っているのに、誰かに何かを強いることはなかった気がする。馬に鞭を入れるのは一度だけで、決して叩き続けない。だから、オーケストラ弾きにとって手垢にまみれた「運命の力」序曲でさえ、生まれたばかりのように新鮮で自由だったのだ。
リハーサルが始まった時から、この時間がはかなく過ぎることはわかっていた。両手にすくった砂が指の間からさらさらと流れ落ちてしまうように、今日の演奏会はあっという間に終わってしまった。
ところで、にわか野球ファンになっている。贔屓はもちろんあのチーム。シーズン後半から日本シリーズはこの組み合わせになったらおもしろかろう、と思っていたもの。
ただ、野球の応援は常に危険な火種をはらんでいて、うかつなことは言えない。よく通ったとんかつ屋のマスターは熱烈な巨人ファンだった。巨人が負けた翌日、僕がカウンターに座り、店に置いてあるスポーツ新聞を手に取ると、「今日は読むところがない」と言われた。昔、ある有名なチェリストがその店で、巨人のことを何か言ったら(ちょうどテレビで試合の中継をしていて、しかも旗色が悪かったらしい)、マスターから出入り禁止を言い渡された、という伝説もある。
都響は明日も朝からマーラーの6番のリハーサル。問題は次の7番の譜読みが進んでいないこと。演奏会が終わり、錦糸町から家に着くまでの間に日本シリーズ第5戦の結果が入ってきた。よし、ちょっと疲れているけれど、がんばって勉強しよう。
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