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2013年10月28日 (月)

逸話が満載

ムーティのリハーサルが始まっている。彼は前回よりよく喋り、逸話が満載だ。トスカニーニにまつわる話が多い。

「シチリア島の夕べの祈り」序曲は三十二分音符二つのアップビートで始まる。こういったモチーフを大編成のオーケストラが弾く時は、互いに様子を伺いあってリズムが後に後になりやすい。そうならないため、トスカニーニはアメリカのNBC交響楽団(メンバーはイタリアからの移民が多かったそうだ)を振った時、二つの三十二分音符と続く四分音符のリズムを「バカラ」という言葉に結びつけたそうだ。つまり「タ・タ・ターン」というリズムを「バ・カ・ラー」という言葉にしてしまう。言葉の音節に関連付けるとリズムは狂わない。トスカニーニがこうした、ということをユージン・オーマンディもうけあった、とムーティが言っていた。
この「バカラ」という言葉、有名なガラス・クリスタル会社を思い浮かべたのだけれど、イタリア語で干した鱈のことだそうだ。ちなみにトランプのゲームと思った人もいたみたい。
それから、第九の第2楽章のあのモチーフを「ティーン・パ・ニ」と言うのは有名なこと、とムーティは言っていた。僕は知りませんでした。

また、シカゴで行われたショルティ指揮コンクールに触れた後、楽器を弾いていた人が指揮者になることはあっても、指揮者が楽器奏者になることはない、楽器を弾くのは難しいから、と言ったのにはオーケストラのメンバーが大いに笑った。

また、トスカニーニは「ピアノは響かせて、フォルテは喋って」と言ったそうだ。

昨日のリハーサルは部屋が狭かったこともあり、「穏やかに、優雅に」と、オーケストラをあまり弾かせなかった。今日からは本番会場でもあるトリフォニ―・ホールへ。場所が広くなっても、フォルテよりピアニシモの方がはるかに効果的、とムーティは言い、静かで集中した場所をつくることが多かった。オーケストラの音は経験したことがなかったほど立体的で静謐な感じがする。合唱も素晴らしい(東京オペラシンガーズ)。

トリフォニ―に行くのは新日フィルを辞めて以来、初めてだった。錦糸町の駅から歩くと右手に大きなスカイツリーが現れて驚いた。そして、楽屋口から舞台上手袖に上がる階段の入り口を見つけられなかったのはショックだった。そうだ「階段4」だった。

新日フィルにいた時、「?」ということや「!」ということがよくあった。あの頃の僕はとにかくいっぱいいっぱいで、何か事が起こった時、ひらりとかわせばいいのか、知らんぷりすればいいのか、のらりくらりやり過ごせばいいのか、あるいは思いきりちゃぶ台をひっくり返せばいいのか、皆目わからず、いつも正面から対峙して怒っていた。
でも、苦労は買ってでも、という言葉の通り、あの頃のことがなければ今の僕はないし、それに時がたつと苦かった思い出もだんだん美しくなる。
トリフォニ―の上に新日フィルの事務所があり、リハーサルの合間に表敬訪問した。知っている人はほんの数人になっていた。

昨晩、マーラーの6番のスコアを開いてCDを聴いていたら、突然世界が開けるようだった。やはりそうか、と思い、今日、トリフォニ―からの帰りに7番のスコアも求めた。

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