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2013年10月13日 (日)

シューベルトの話の続き。リハーサルの合間、ピアノの長尾さんが村上春樹著「意味がなければスイングはない」の中のある文章を教えてくれた。

『でもなにはともあれ、僕はシューベルトのピアノ・ソナタが個人的に好きだ。・・・そこにはベートーヴェンやモーツァルトのピアノ・ソナタにはない、心の自由なばらけのようなものがある。・・・』

ずいぶん以前に「意味がなければスイングはない」は読んでいたけれど、その頃シューベルトのピアノソナタは1曲しか知らなかったし長く退屈に思えたので、この文章(『シューベルト「ピアノ・ソナタ第十七番ニ長調」D850』)も素通りしていた。

帰宅してニ長調のソナタを聴きながら、本棚から取り出したこの本を読んだ。その中から

『思うのだけれど、クラシック音楽を聴く喜びのひとつは、自分なりのいくつかの名曲を持ち、自分なりの何人かの名演奏家を持つことにあるのではないだろうか。それは場合によっては、世間の評価とは合致しないかもしれない。でもそのような「自分だけの引き出し」を持つことによって、その人の音楽世界は独自の広がりを持ち、深みを持つようになっていくはずだ。・・・・・。
 そしてそのような個人的体験は、それなりに貴重な温かい記憶となって、僕の心の中に残っている。あなたの心の中にも、それに類したものは少なからずあるはずだ。僕らは結局のところ、血肉ある個人的記憶を燃料として、世界を生きている。もし記憶のぬくもりというものがなかったとしたら、太陽系第三惑星上における我々の人生はおそらく、耐え難いまでに寒々しいものになっているはずだ。だからこそおそらく僕らは恋をするのだし、ときとして、まるで恋をするように音楽を聴くのだ。』

都響は今日から「火の鳥」のリハーサルが始まった。指揮はクリスチャン・ヤルヴィ。
1945年版の「火の鳥」(僕は初めて弾く)やラフマニノフの「コレルリの主題による変奏曲」(日本初演だそう)の音を探したら両方ともネーメ・ヤルヴィ指揮のものが出てきた。この人も父親ネーメの影響を強く受けているのか、そのレパートリーを受け継いでいるのか、と思った。(カルロス・クライバーのドキュメンタリーを見た時、彼は父エーリッヒ・クライバーのレパートリーしか振らなかった、ということを知ってショックだった。あんな天才的な才能だったのに・・・。)
ベートーヴェンの7番ほどではないにしても、「火の鳥」はオーケストラにとってかなり手垢のついたレパートリーだ。でも今日のリハーサルはいつもと違う「火の鳥」でおもしろかった。一番大事な旋律ではないところを浮き立たせたり、伴奏の音形を立体的にしたり、弦楽器や木管楽器の音色を有効に使ったり。

月末から他の仕事に重なってマーラーの6番が始まる。僕としては珍しく早めに勉強を始めている。今だってそれなりに忙しいけれど、間際になっての譜読みは本当に最悪だから。新日フィルにいた時、定期演奏会を弾き終えて帰宅後、翌日からの定期のリハーサルの譜読みをすることがよくあった。あの頃はとにかくオーケストラのレパートリーがなかったから大変だった。
このところ譜読みで苦労することが少なかった。都響は演奏旅行に出ればチャイコフスキーの5番だったし、インバルが来ればマーラーのチクルス。それはそれで派手でお客さんも入るだろうけれど、オーケストラにとっていつも同じ曲ばかり弾くのは必ずしもいいことではない。
来季の都響は、これまでより珍しいプログラムが増える。譜読みも増える。よく演奏される曲にはその理由があるように、多くの場合、演奏されない曲にもその理由がある。集客の問題もあるからなんでも冒険すればよいというものではないけれど、オーケストラが伸びるシーズンになりますように。
http://www.tmso.or.jp/data/pdf/2014TMSO_LineUp_leaf.pdf

マーラーの6番は、新日フィルでも都響でも弾いた。でも旋律はまったく記憶になくて、大きな木槌でどっかん!、とやることしか印象にない。コントラバスのパート譜、1ページ目を見たらラの音ばかりだった。「ラしかない」と言ったら、次のページからは他の音もある、とベーシストに抗議された。
今日の勉強は第3楽章までいったけれど、なかなか頭に入らない。シューベルトの「グレート」が僕の体にすっかり入り、能登半島を歩いている時ずっと鳴っていたように、マーラーも入ってくるだろうか。
 

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