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2013年12月12日 (木)

8度の重音

職業音楽家として恥ずかしい事なのだけれど、オクターヴ(8度)の重音が苦手だった。
オクターヴの重音で思い浮かぶのは、ロココの最終変奏や、ポッパーの組曲、終楽章の第1チェロだ。この組曲では、名手だったに違いないポッパーが、「君はこれができる?」と言っているような気がする。延々と続く8度にはトリルまで加わる。

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20年近く前、ジュネーヴのコンクールを受けた時、予備予選の課題の一つにポッパーの13番の練習曲があった。変ホ長調で書かれ、8度、6度、3度の重音を多用した美しい曲だ。あの時、僕は8度がうまくできず、当然コンクールからもすごすご帰ってきた。頑張ってさらってもできるようにならなくて、しかも左手の親指の筋も傷めてしまった。苦い思い出。

8度の重音でシフトをする時、チェロはだいたい親指・薬指という指使いを用い、当然音程の変化に伴い親指と薬指の間隔も変わる。8度音程は少しでもずれると実に聞き苦しい。その指の位置を正確にとることばかり考えていた。
そうではなく、いったん8度の響きを作り、その響きの中で、常に響きを保ちながらシフトするよう心がけたら、なんだこんなことか、と拍子抜けするようだった。問題は肉体的な精度ではなくて、音程の感覚をうまくつかむことだったらしい。これはきっと一人で弾く時だけではなく、例えばオーケストラの中で、1オクターヴ下の同じ音型を弾いているコントラバスの上に乗っかる場合も同じだ。
苦手だった8度はちょっと楽しくなって、ポッパーの組曲は趣味のように時々弾いている。

8度の重音と言えば昔、シャフランが来日公演でシューベルトのアヴェ・マリアを弾いた時のことを聞いたことがある。、後半の旋律を8度の重音で、人差指・小指という指使い(!)で弾き始めた時、それを目の前にした若かりしあるチェリストは、口をあんぐりと開けたそうだ。それはそうだろう。

YouTubeにシャフランの動画があった。前半の旋律をずっと2番線で弾いているのは、きっと後半オクターヴの上の声部を1番線で弾くための伏線だ。後半の8度は伝説通り人差指・小指で始まり、さらにそれに親指・薬指という指使いを加えてフィンガード・オクターヴにしている。シャフランの映像を見たら、眠くてぼんやりしていた頭が一気に覚めた。
http://www.youtube.com/watch?v=JOzKbb8k-IQ

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