確かに何かの力を
昨日はいい演奏会だった。
バルトークのヴァイオリン協奏曲、第1楽章の中ほどに数分間のカデンツァがある。本番の舞台で庄司さんの弾くカデンツァを聴いていたら、その緊張感に、僕の手のひらはじっとり汗ばんだ。特に楽器がこちら側を向いた時の音はすごい。弓の毛が弦に触れるか触れないかのうちに、すさまじい速さで音が飛び出してくる。うっかり触れると火傷しそうな音だった。
音楽は、例えば食べ物のように、直接血となり肉となることはない。けれど、素晴らしい演奏は確かに何かの力を持っている、と実感した。
終演後はアークヒルズのオ・バカナルで待望のフレンチ・フライとビール。たまにはこんな日があっていい。
今日はチャイコフスキーのピアノ三重奏のリハーサル。休憩している時、僕が毎月仙川まで出かけて散髪している話になった。トリオは3人とも桐朋学園の出身だ。
わざわざ仙川に足を運ぶのは、まず学生時代から切ってくれているKさんがおもしろい人、ということがあるし(話題はたいてい、僕の乗れない車に始まり、自転車、ラーメン屋についてなど)、長く住んだ街が懐かしく、よく通ったアンカーヒアや仙川とんかつにも寄りたい、という気持ちもあるし、もう一つ、初めて行く床屋や美容室では、「どんなお仕事を?」に始まる身の上話をするのが面倒、ということがある。
そこでもし、新しい床屋なり美容室なりに出かける時、自分の名前や仕事、家族に至るまで、架空の人物をつくり上げたらどうか、という話になった。この経歴詐称に罪はないはずだし、まぁ、どこかで話が破綻する可能性もあるけれど。どんな人物になってみようか。もちろん、憧れの誰かや職業になってみる、というのはわかりやすい。一方で興味の持てない、あるいは苦手な人になってみる、ということも考えられる。ちょっと小説みたいだ。
さて、明日からは第九のリハーサル。
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