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2014年4月 5日 (土)

「長距離ランナー」

今都響に来ている指揮者はロシア系ブラジル人のロベルト・ミンチュク。ストラヴィンスキー、ヴィラ=ロボス、ラフマニノフというそれほどなじみのないプログラムは、実は彼にとって体に入った音楽、ということになる。プロフィールを見ると、ホルン奏者として1989年までゲヴァントハウスにいたそうだ。ベルリンの壁が崩れる前の、東側だったゲヴァントハウスにいたということは、もしかして僕の持っているCDの中にも彼のホルンの音が入っているかもしれない。

リハーサルの時、ミンチュクは「アナクルーシス」という言葉をよく使う。今まであまり聞いたことがなかった言葉だ。最初、人の名前かと思った。少ししてアウフタクト(アップビート、あるいは弱起)を意味することはわかった。はて、何語だろうと思ったら英語らしい。「anacrusis」。知らないことはたくさんある。

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ある人と小説の話しをしていて、村上春樹さんの執筆の仕方に話題が及んだ。そのことが掲載された雑誌「考える人」2010年夏号(ちょっと前です、1Q84が刊行された後)のインタビューから。

『・・・・
村上 習慣はすごく大事です。とにかく即入る。小説を書いているときはまず音楽は聴きませんね。日によって違うけれども、だいたい五、六時間、九時か十時ころまで仕事します。
 
 ― 朝ごはんは食べずに。
村上 朝ごはんは、七時ころチーズトーストみたいなのを焼いてちょっと食べたりするけど、時間はかけない。

 ― あとはひたすら書いているのですか。
村上 そうですね。だれとも口をきかないで、ひたすら書いています。十枚書くとやめて、だいたいそこで走る。

 ― 十枚というのは、四百字づめの原稿用紙に換算して十枚。
村上 そう。僕のマックの書式だと、二画面半で十枚。書き終わると、九時から十時くらいになります。そうしたら、もうやめてしまう。即やめる。

 ― そこから先は書かないんですね。
村上 書かない。もう少し書きたいと思っても書かないし、八枚でもうこれ以上書けないなと思っても何とか十枚書く。もっと書きたいと思っても書かない。もっと書きたいという気持ちを明日のためにとっておく。それは僕が長距離ランナーだからでしょうね。だってマラソン・レースなら、きょうはもういっぱいだなと思っても四十キロでやめるわけにはいかないし、もっと走りたいからといってわざわざ四十五キロは走らない。それはもう決まりごとなんです。

 ― たとえば青豆と天悟の章が交互に出てくるBOOK2で、青豆とリーダーの対決のシーンが終わったところが、その日の六枚目だとしても、つぎの章を四枚書くわけですか。
村上 もちろん。

 ― 内容で区切るということにはならないんですね。
村上 ならない。つけ加えると、翌日は前の日書いた分の書き直しから始めます。前の日に十枚書いた分を頭から直して、それからつぎに続ける。でもそんなにぐしゃぐしゃには直しませんよ。だいたいそろえるぐらい。関係をつけ加えたり、削ったりして、流れをよくする。本格的な直しは第二稿以降でやりますから。前日の直しの流れにのって、新しいところに行く。』

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