『その言葉の中に』
先週見たのは映画「至高のエトワール」 (残念ながら上映終了してしまった)http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/14_etoile.html
バレエに興味は持ってこなかったけれど、曲芸ではない、伝統の積み重ねを確かに感じさせる動きの美しさに驚いた。パリ、オペラ座のエトワール、アニエス・ルテステュの引退までの2年を追ったドキュメンタリー。僕は一介のチェロ弾きに過ぎないが、同じく舞台で仕事をする者として胸がいっぱいになった。
今日は「100歳の華麗なる冒険」へ。http://www.100sai-movie.jp/
軽いコメディ、ではなく、想像していたよりブラックで、でも見事だった。
チェロと一緒に持ち歩くには分厚く重い、と思いながらこの1週間鞄の中にあって読んだのはヘンリー・ミラー著「わが生涯の書物」。冗長に感じる部分も、自分のために書かれた、と思う部分もあった。フランスの作家、ジャン・ジオノについて書かれた文章から。
『われわれが彼の音楽の中に円熟の域に達した演奏家のもつ楽器の存在を嗅ぎ分けるのはそのためである。ジオノにあっては音楽と楽器は一体のものである。彼の特別な天分は、まさにそこにある。彼が音楽家にならなかったとしても、それは彼の言う通り、彼がよき聴き手になる方が先だと思ったからである。そこで彼は作家になった。彼の作品を読むと、まるで自分が書いたもののように、そのメロディを追ってゆける。彼は聴くことをそのようなアートにまで高めた。その結果、いったいわれわれはジオノの音楽を聴いているのか、それともわれわれ自身の声を聴いているのか、わからなくなる。われわれはごく自然に彼の言葉を経験し、その言葉の中に生きることになる。それはあたかもどこかの心地よい高みで一息入れるような、あるいは海面を漂うような、さらにはまるで谷間の下降気流に乗って獲物めがけて急降下する鷹のような、自然な感覚に包まれる。』
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