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2015年9月 2日 (水)

ふともらした一言二言に

リハーサルが始まってからずっとそうだったし、演奏会が終わってからもしばらく、マーラーの5番が鳴っていた。

第2楽章、最初の激しい部分が過ぎ、木管楽器の動きの後、チェロの長い旋律が始まる。その旋律をクラリネットが受け継ぎ(チェロは対旋律にまわる。中音域の楽器で切れ目なく旋律が続いていく素晴らしい書法だ)、さらにヴィオラ、ヴァイオリンとつながっていく。Fから始まるそのヴィオラの数小節を、ファビオ・ルイージは"so sad"と言ったと思う、そして、こんなに悲しい旋律をヴィオラが弾いているのだからチェロはカバーしないように、と言われた。今までまったく気にしていなかったところだった。自分たちが対旋律に移り、短い休符で弾かない間にそのヴィオラが聞こえてくる。声高に話すのではなく、ふともらした一言二言にその人の真情が表れていて心打たれる、そんな箇所だった。

ニ長調は大切な調だった。
やはり第2楽章、様々なことの後にトランペットのきっかけで突然視界が開け、ニ長調になり、光に包まれる。この先第3、4、5楽章を弾ききる気持ちを奮い立たせる。
静かな、別世界のような第4楽章の後、ニ長調で始まった終楽章が覚えきれないほどの転調を経て最後にニ長調に戻り(冒頭の嬰ハ短調からははるかな距離だ)輝かしい終止部を迎える。その時、様々なことを乗り越えて確かにここに到達した、と感じる。あらゆる困難を越えてここにたどり着くべきだ、と強く感じる。

ファビオ・ルイージのリハーサルは時として厳しかった。ただ、それは何かを固定するのではなく、動き方、方向を皆で同意するものだった。だから本番の舞台で起こったことは決められたことを再現したのではなく、今そこで起こっていることに皆で反応した結果生じたものだったと思う。生身の人間が作りだす、その場でしか経験できないものだった。

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