図書館は一昨日で終わり、年末の本屋はいつもより混んでいる気がする。
演奏旅行に持っていって、でも帰国してから読んだのはポール・セルー著(阿川弘之訳)「鉄道大バザール」。特にベトナムを訪れるあたりは、開高健さんの文章を思い出さずにはいられなかった。それはポール・セルー自身のものなのか、訳の阿川弘之さんのものなのか、あるいはお二人の何かなのかはわからないのだけれど。セルーが日本にいる時の記述は的確過ぎて辛辣になる手前、と感じた。
少し前の書評で見つけたのはジョッシュ・ウェイツキン著「習得への情熱」。http://www.msz.co.jp/book/detail/07922.html
おもしろいと感じるところに付箋を貼りつけていったら、本が付箋だらけになってしまった。書評は淡々としたものだったけれど、僕には熱い本だ。
仕事の空き時間に見つけて、テンポの良さと痛快さであっという間に読んでしまったのはロアルド・ダール著「単独飛行」。どこかで聞いた名前、と思っていたら巻末、宮崎駿さんの解説でわかった。映画「チャーリーとチョコレート工場」の原作「チョコレート工場の秘密」を書いた人がイギリス空軍のパイロットだったとは。
上記の3冊もそうだし、今年興味深く読んだノンフィクション、クセノポン著「アナバシス」、ジャン・マルテーユ著「ガレー船徒刑囚の回想」、臨済録、ウラジーミル・アルセーニエフ著「デルスー・ウザーラ」、桂川甫周著「北槎聞略 大黒屋光太夫ロシア漂流記」、トール・ヘイエルダール著「コン・ティキ号探検記」にはとても勇気づけられた。
どうしてこの人たちはこんなに強いのだろう、と思いながら読んだ。それは自分はどうしてこんなに弱く、充分に生きていないのだろう、という気持ちの裏返しでもある。
クリストファー・マクドゥーガル著「BORN TO RUN 走るために生まれて」を読んで、少しだけ強さの源が見えるような気がした。時々その説は飛躍し過ぎでは、と思いながら楽しく読んだ。
もう一つ。この何年も、仕事の必要に迫られた時以外にオーケストラの曲を好きこのんで聴くことはなかった。音楽をめぐる様々なことにうんざりしていたのかもしれない。今、僕のipodにはブラームスやシューマン、ブルックナーの交響曲が新しく入り、時々聴いている。
チャールズ・ブコウスキー、晩年の著作にこんな文章があった。そう、ブコウスキーさん、あなたがそう言うのなら。確かに。僕の目を少し覚めさせてくれたのかもしれません。
「人に関して言えば、わたしが見つけ出したのは、実際にはすでにこの世を去ってしまってはいるが、本やクラシック音楽の中で生きている人たちだけだった。とはいえ彼らにはお世話になった。しばらくの間だけだったが。しかし魅力的で迫真的な内容の書物は限られた数しかなく、それから出てこなくなってしまった。クラシック音楽がわたしの拠点だった。そのほとんどをわたしはラジオで聴き、今も聴いている。そして今の今でさえ、力強くて、新鮮で、これまで耳にしたことのない音楽を聴くたびに、変わることなく驚かされている。しかもそういったことはしょっちゅうあるのだ。この文章を書いている今も、ラジオから流れているこれまで一度も聴いたことのない音楽に耳を傾けている。ひとつひとつの音を、新たなる血や意味の迸りを渇望している男のように大いに味わって楽しみ、しかもそうしたものが実際に含まれているのだ。何世紀にも何世紀にもわたる、偉大な音楽の汲めど尽きない豊かな泉に、わたしは心底驚愕させられている。ということはそんなにも多くの偉大な人たちがかつて生きていたというわけだ。そのことに関しては説明することができないが、そうした音楽を享受できたこと、感じ取れたこと、それらを糧にできたこと、そして賛美できたことは、わたしの人生に於ける実に幸運なできごとだと言える。ラジオをつけてクラシック音楽に耳を傾けることなしに、わたしはどんなものであれ決して書くことはできない。書きながらそうした音楽を聴くこと、それが常にわたしの仕事の一部となってしまっているのだ。ひょっとして、いつかそのうち、誰かが、どうしてクラシック音楽には驚嘆に値する人物のすさまじいまでのパワーが込められているのか、そのわけを教えてくれることにならないだろうか?どうやらこのわたしが教えてもらえることはなさそうだ。ずっと不思議に思い続けるだけなのだろう。どうして、どうして?それだけのパワーを秘めた本がもっとたくさんないのはどうしてなのか?作家たちはどうかしているのか?いい作家がほとんどいないのはどうしてなのか?」
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