まじりけなく
以前この日記に少しだけ書いた新しいエンドピンのストッパー、こんな理屈による。エンドピンは垂直ではなく、ある角度をもって床に接する。だからチェロの表板と裏板には異なる方向の力がかかるのではないか。ではエンドピンが常に床面と垂直な関係になるようにしたらどうだろう。父にこのアイデアを話したら、仮想的にエンドピンは点で床と接するから角度は関係ないのでは、と言われた。なるほど確かに。
ハンズで材料(15ミリ厚のサクラ材)を加工してもらい、組み立てた。弾いてみると、明らかに響きが多い。角度の問題なのか、床から浮いた充分な厚さの板がうまく共鳴しているのかはわからないけれど。
何年も左右非対称のテールピースを使ってきた。それは低い弦がよく鳴るように、という願いから。半年前、重野さんの息子さんが九州産の柘植で作ったテールピースを見て、是非これにしようと思った。材料の密度と加工の素晴らしさはほれぼれするようだ。実際代えてみて、低音は前より出るようだし、音色もはっきりしている。
彼はヴァイオリン、ヴィオラの柘植のあご当てと、さらにそれを楽器に固定するための金属部品も作っている。通常クロムメッキの真鍮製のその部品を、チタンの削り出しで作ったら音がよいそうだ。テールピースを削り出す前の材料を見せてもらったけれど、あの硬さの塊から形を作るのも、チタンの棒から部品を削り出すのも、大変な技術と根気だと思う。
エンドピンは鉄のエンドピンと、時々真鍮のエンドピンを使ってきた。鉄の音はまっすぐでよく飛ぶけれど、音が平らになったり響きがほしくなったりすると真鍮にし、また鉄に戻し、そんなことを繰り返してきた。以前8ミリ径のエンドピンで鉄を芯にして周りが真鍮、というものを使っていたことを思い出し、それの10ミリ径を見附さんにお願いした。まだ広いところで試せていないのだけれど、響きも多く、低音もよく出ているようだ。
楽器のどこかに少し手を入れても、弓を変えても、エンドピンを変えても、弦を変えても音は変わる。それは本人にとって割と大きな問題ではある。はたして実際に音楽をする際にはどうなのだろう。今の僕は楽器や弓から教えてもらうことが多い。いったいこの楽器は、この弓はどんな音がするのだろう、と感じながら弾くようにしている。
僕のあこがれるあるチェリストは、太く存在感のある低音が魅力的だ。でも彼がそのチェロを手に入れた時のことを知る人から、当時鳴らない印象だったという話を聞き、意外な気がした。低音が出るように、と思って弾き続けた結果その音になったらしい。
もう一人僕のあこがれるチェリストは、いぶし銀の音だ。派手さはないけれど、あぁその音はどんな音なんだろう、もっと聴いてみたい、と思わせる力がある。
本当に大切なことは音楽と心と楽器と体が調和していることだと思う。言葉で書くほど易しくない。できることなら音楽と心と楽器と体の間に何もまじりけなくいたいと思う。
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