「答えのない質問」3
「答えのない質問」第1章は「音楽音韻論(Musical Phonology)」。興味深く倍音が説明されることは覚えていた。倍音列の話から(基音がドなら最初の倍音は1オクターヴ上のド、次にその5度上のソ、そして再びド、ミ、ソ、シ♭(ラ♯)、・・・。弦楽器を触ったことのある人ならハーモニクスとかフラジオというあれです。弦長のちょうど半分のところにオクターヴ上の音がするへそみたいなところがありますね、そこから上下どちらにでも指をすべらせて音を出してみると、G線ならほら、ソ、レ、ソ、シ、レ、ファ(ミ♯)、・・・と)、そこに3和音(ドミソなど)が由来すること。そしてトニック(例えばドミソ)に対するドミナント(ドミソに対してはソシレ)の関係が5度の倍音に由来すること(調性音楽のシステムの根幹がここにある)。さらにその5度の倍音、つまりドの5度上のソ、ソに対するレ、レ・ラ、ラ・ミ、・・・(くるりと1周して)ファの5度上のド、この1周した12個の音を1オクターヴの範囲にぎゅっと並べなおすと半音階になること、など。職業音楽家として今さら恥ずかしいけれど、何十年もただあれこれ詰め込んで散らかっていた頭の中が、突然整頓され、いきなり遠くまで見通せるようになった。
例えばピアノのソナチネアルバムで、左手がドソミソドソミソを弾いてからシソレソとなるのは、その作曲家が発明したもの、あるいはもっと昔の誰か偉い作曲家が発明したものというより、音の持つ性質に見事に基づいていること。弦楽器の調弦が5度あるいは4度(5度をひっくり返したもの)になっていることは、まったくもって当然そうなるべきことである、と腑に落ちる。
さらに第1章の講義では半音階に対する全音階や転調の例としてやはりモーツァルトのト短調の交響曲が出てくる。第一楽章で主題が半音進行をしているときにバスが5度、5度、・・・と進行していること、特に終楽章の展開部の信じられないような転調については、本当に世界が違って見えてくるようだった。第2章でも再びト短調の交響曲を取り上げるのは、今度は散文と詩の違いを題材にとり、文学と音楽を対比して、いったい何が芸術となるのかを実に興味深いアレンジを施して説明するためだった。ふう。
それにしてもバーンスタインの素晴らしいのは理論的な話になってもいつも、生き生きしたものが芯にあることだ。さて、年末は第4章に進むつもり。
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