海へ
いつもの駅からいつもの電車に乗り、途中で別の各駅停車に乗り換えた。海へ。
この前海に行ったのはいつだろう。今年のひどい暑さにすっかり諦めていたけれど、やはり恋しくなり、台風が行ってしまうのを待って出かけた。各駅停車で2時間、見慣れた景色が少しずつ遠ざかっていく。さらに乗り換えて目指す駅へ。
ここは海が近い。駅舎はすっかり改装され、波が大きく見える。心が動いた。もっと早く来れば良かった。
一休みして、浜に向かう。強い波の音に気圧されるようだった。思ったより早く日が暮れ、海と空の境はなくなり、波の音の外はモノトーンに近い色の、豊かなグラデーションがあるばかり。幻想的な夕刻の海に身震いするようだった。ひととき地上の様々なことを忘れた。
漁港には工事用の黄色と黒のロープを首輪にしている猫がいた。人懐こい。猫がのびのびしているところはきっと人間にも居心地がいい。
空模様が怪しくなってきたので帰りを急ぐ。途中、往年の名ピアニストの名前のカフェに入った。店内にはジャズが流れ、村上春樹さんの本があり、何だか絵に描いたようだった。店に入ってから土砂降りとなり、ゆっくり赤ワインを飲むことにする。こうして外でワインを飲むなんて、本当に久しぶりだ。少しだけ大人になった気がする。
店主から、当地は昔保養地だった、という話しを聞く。確かに今日だってさほど暑くなかったし、セミにまじって、すでに秋の虫の声が聞こえた。
翌朝早く目を覚まし、揺れを感じた。7年前の地震のことが頭をよぎる。
再び海へ。夜が明けると世界は一変しているけれど、それでも霧が出ていて、幻想的だ。寝坊助の僕はだいたい午後の海しか知らない。夕方や朝の海はこんなに魅力的だった。
今回は一番信頼する古いカメラを持ってきた、フィルムもきれいに使いきった。次来る時はデジタルの一眼レフでも良いのかもしれない。



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