北へ
混雑した東北新幹線に乗った。なんだか居心地悪く、先日海に行ったときの各駅停車の、ゆっくりとした進み具合が懐かしい。
この夏、久しぶりに青春18きっぷで旅をしてみようと思った。そんなことを考え始めたのはひどい暑さの頃で、目指すのはもちろん北。学生時代、何度も18きっぷで東京と名古屋を往復した。すっかりだらしなくなった今の僕に、それなりに我慢の必要な旅ができるだろうか。実際、北を目指しても、宇都宮を過ぎたあたりで満足して、あるいは嫌になって、引き返したりしないだろうか。
お盆の混雑を避け、あちらの日程を考え、こちらの日程も考え・・・。残念ながら、新幹線でまっすぐ目的地を目指すことにした。
予想外だったのは帰りの新幹線が空席なし、と出たこと。「はやぶさ」に自由席はない。がっかりして、とりあえず他の用事を済ませ、本屋で立ち読みをし、もう一度券売機の画面を見たら、あった。切符の手配も宿の手配も前日にばたばたと。
八戸で八戸線に乗り換え、鮫駅下車。蕪島を見て、歩き、バスに乗り、葦毛崎展望台へ。特徴のある形の展望台に上がると、水平線が広がりをもって目に入ってくる。こんなにはっきり見えるものだったか、と驚いた。
海沿いを歩く。植物の甘い匂いのするひんやりとした空気に包まれ、あるのは波の音と歩く自分だけ。美しい砂浜に出てからまたバスに乗り、種差海岸駅近くの民宿へ。部屋に入り窓を開けると、虫の声と波の音が聞こえ、畳の上にごろりと横になる。極楽だ。
夕食の後、真っ暗な夜の海岸に出る。目が少し慣れてくると、あまりよく知らない僕にも見える。北斗七星のひしゃくや、カシオペアのW、赤く大きく光っているのは火星だろうか。通りに人の気配はなく、車もほとんど通らず、静か。夜とはこういうものだった、と思い出した。ご飯を食べたらあとは眠るだけ。よく歩いた。
翌日も晴れ、けれど早朝の海に行く気概はなく、ぎりぎりまで布団にへばりつく。朝食の後、歩く。種差海岸から葦毛崎まで、海沿いに遊歩道が整備されていて快適だ。こんなに美しい海岸は他にあるだろうか、と思う。
ひんやりとした甘い匂い、松、岩、海、空、水平線、松、岩、海、・・・、その繰り返し。波打ち際にも降りてみる。水が透き通っていて気持ちがいい。
漁港を二つ過ぎ、白い砂浜に出る。少しの海水浴客とラグビーをする高校生、夏だなぁ。バスに乗って鮫角灯台へ。灯台には海上保安庁OBの方がいらして、遠くに見え隠れする山は八甲田山系、右手に島のように見えるのは下北半島、と教えて頂く。海を見ながらの気象の話など興味深かった。バスに乗って鮫に戻り、乗り換えまでの少しの時間を盗んで港に出た。ここには蕪島よりたくさんのうみねこがいるようだ。
再び混雑した新幹線に乗る。弁当を食べ少し眠ると、もういつもの雑踏だ。でもどこにいても、見てきた美しい海は僕の中にある。
結局今回も古いカメラと歩いた。フィルムの現像が上がってくるのが本当に待ち遠しい。




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