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2018年12月23日 (日)

目の前に

そんなことより、どんな弾き方をして、どのように音楽を感じ、そしてどのように生きているか、こうしたことの方がはるかに大切と思うけれど、確かに、楽器のセッティングは興味深いことではある。

僕は上の2本にヤーガーのミディアム(クラシック)、下2本がオイドクサ、という弦の組み合わせを何年も使ってきた。学生時代に北九州の音楽祭で一緒に弾かせてもらったロバート・コーエンというイギリスのチェリストの組み合わせだ。彼が使っていたのは、スクロールが人の顔になっているテクラー、あの美しく個性的なチェロは今どこにあるのだろう。
夏前にどうもa線の突っ張る感じが気になるようになった。硬い。下に張っているオイドクサの張力がかなり低いので(この古典的で素晴らしい弦の製造が続くことをピラストロ社に願わずにはいられない。いったい、世界で何人がこの弦を使っているのか)、1番線がより硬い感じになるのかもしれない、と思った。各社のHPを見て、ヤーガーのミディアムより張力の低い弦を探した。基本的に新しい弦ほど張力が高く、残念ながら僕の選択肢は少ない。
そんな頃、O君がワーシャルの知らない弦を使っていて、聞いたらアンバー、という。久しぶりにワーシャル社のHP(warchal.com)を見てみたらおもしろかった。様々なアイデアにあふれている。アンバーのa線は、おそらく音が裏返るのを防ぐために、駒に当たる辺りがゆるやかな螺旋状(!)になっている。その弦も試し、結局プロトタイプAという新しい製品を使っている。ヤーガーより緩く、音色の変化も自由だ。

ワーシャルのHPでは松脂の厳密なテストも公開されている。早速、その中で良いとされているアンドレア・ソロを使ってみたら、確かによかった。パワフル。アメリカで仕事をしていたヴァイオリニストに聞くと、彼の地ではオーディションに通るために欠かせないアイテム、ということになっているそうだ。今はその松脂も使うし、ある方から頂いたドイツの弓製作家によるものも使っている。こちらの方が自然な感じがする。

ガット弦に関して、以前は4ヶ月くらいで交換していた。でもそのくらいではたいして劣化した感じはなく、もったいないので半年使うようになった。伸びたガットの感触もなかなかいい。
半年使うようになって、交換の時期をこう考えるようになった。まだ熱帯になってはいないけれど、1年を乾期と雨期に分け、秋の長雨が終わり紅葉が始まる頃、空気が乾燥し始めたら新しいガットに換える。東京の冬は乾いた晴天が続く。5月くらいまで気持ちの良い季節だ。空気がじめじめし始めたらまた交換し、梅雨、夏、台風、秋の長雨まで使い・・・。交換の前には一月ほどかけてゆっくり伸ばしておく。弓もこのタイミングで毛替えしたらどうかな、と思っている。
スチール弦はある時点で急激に倍音の成分が減り音が平板になるので、基本的には新しいものの方がいいと思う。

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先月久しぶりにマリオ・ブルネロの演奏を聴いた。久しぶりに見て聴いて、20代の後半、毎夏シエナに出かけて習っていたのに、大切なことを受け取っていなかった、とようやく気付いた。背中から肩、肩から腕、腕から指、指から弓や楽器へ、その一連が流れるように見事につながっている。それは毎日何時間も見ていたのに・・・。大切なことはすでに目の前にあった。

小学校を卒業する時に、当時の校長先生の方針で、6年生は全員決められた3つの詩を先生の前で暗誦しなくてはならなかった。どうして?とは思ったし、親も、どうして?という感じだったと思う。詩の意味や、なぜ暗誦するのか、という説明はなかった。万葉集から山部赤人の長歌と反歌、カール・ブッセの「山のあなた」(上田敏訳)と記憶している。「山のあなた」は長くなく、今もなんとなく覚えている。ただその言葉は小学生の僕には不思議な感じがした。”山のあなた、って一体誰なんだろう?”
校長先生がどんな思いをもって暗誦させたのか、今となっては知る方法もない。でも、人に何かを教えるとはこういうことかもしれない、と思う。30年以上たち、今は少し腑に落ちる。


カール・ブッセ「山のあなた」 上田敏訳

山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
ああ、われひとととめゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。


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