最近の日経新聞から
毎朝新聞が届くのが楽しみ。
届いた日経新聞の、最初に目を通すのは最終面の連載、私の履歴書。6月は脚本家、橋田壽賀子さん。テレビドラマに興味はなかったけれど、この連載は見事だった。初日、橋田さんはご自分のことを「天涯孤独」と書き始め、最終日まですっかりひきつけられて読んだ。数々の脚本の裏側にはこんなに切実な話があったのか、と思った。
7月はゴルフの中嶋常幸さん。スランプに陥った時の記述が特に素晴らしかった。物事がうまくいっている時、本人にも理由がわかっていないことは多いと思う。中嶋さんは若手が不調を訴えた時、徹底的に苦しめと言う、と書いていたと思う。
今月はファッションデザイナーのコシノジュンコさん。子供時代、洋裁店を営む岸和田の実家の店番をしているとき、自分で作ったカバンを棚に並べて、強気の値札をつけてみた、というあたり、なるほどこういう経験がのちの仕事の核になっていくんだ、と思った。後半は、なんだか功績ばかりの記述になって・・・。
8月下旬、スポーツの記事がおもしろい。スポーツの魅力の一つは、考えたようにはなかなかならない、ということだと思う。実際にやってみないとわからない。それはきっと音楽も同じ。
8月23日に掲載された北島康介さんの記事は、7月に行われた競泳世界選手権について、
『個人メドレー2冠の瀬戸大也はやっぱり運を持っている選手だ。これはとても重要。競ったら、最後はわずかなスキも見逃さず、勝機を味方にできる選手が勝つのだから。
記録は良くはない。大也も「これでは五輪は駄目」と自覚している。個人メドレーは最後にへばらないようターゲットタイムを決め、ペース配分して泳ぐ種目だ。ただ、今回の大也は五輪を見越し、失速覚悟で飛ばし、どれだけやれるかを試していた。その勝負度胸にはしびれた。
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記録、競り合い共に最もハイレベルだったのは200メートル平泳ぎ。前世界記録保持者の渡辺一平は目前で記録を破られ3位。一平は今まで決勝でタイムを落としたけれど、今回は記録をあげていたいいレースだった。がぜんやる気が出る負けだったと思う。
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日本は好成績を出して五輪に向けて勢いづきたかっただろうけど、結果が芳しくない方がいい時もある。すべきことが明確になるからだ。 頑張って記録を伸ばせ。今大会を見た限り、五輪での勝機はまだ十分あると思う。』
8月27日に掲載された小久保裕紀さんの記事から、
『勝負どころで決められたのは緊張をコントロールする極意のおかげだった。5秒ほどぐっとバットを握りしめて、緩める。止まっていた血が再び流れるのを手のひらで感じ「よし、いつも通りの自分だ」と確認する。この手順を踏めば、緊張しながらも我を失わず、打席に入れるのだった。
もちろん、一朝一夕に身についたものではない。むしろ、自分でも情けないほど好機に弱い時期があった。・・・・・
日本屈指のメンタルトレーニングの先生の門をたたくと、まず「緊張するのは悪いことではありません」と言われた。人は緊張するから力が出せるし、大舞台で仕事ができる。要はその緊張を制御すること、といわれて取り入れたのが、バットを強く握って緩める方法だった。
同様に、歯をくいしばって緩める、腹筋に力を入れて緩める、ぎゅっと手を握って緩めるという、緊張とリラックスの切り替えを寝る前、起床後に毎日繰り返した。そのうち脳に新たな回路ができ、意識的に緊張を制御できるようになる、というのが先生の教え。その通りになったのだ。』
昨日8月29日に掲載された権藤博さんの記事から、
『・・・監督とコーチはやらせてみないとわからない、というのが私の持論。
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元木で思い出すのは、守備のときに、いつも隠し球を狙っていたこと。とにかく油断ならず、目が離せなかった。
外野から返った球を持ち、ぷらぷらとベースに戻ってくる。常に同じ顔、同じペースというのがミソで「腹に一物」の気配がない。だから、やられる。私はその手口を知っていたから、常に警戒し、グラブに球を入れたままにしているのを見つけては「もときーっ」とベンチから叫んだものだった。
隠し球も野球センスの塊だからできる芸当。そんな元木には珍しく、「ゴー」のタイミングなのに、走者を三塁で止めたことがあった。
「あれは『ゴー』だろ」と私は言った。するとあっさり「はい、あれはミスでした」。その素直さに感心した。「いや、走者が」とか、言い訳するのが普通で、自分の非を認めるコーチには会ったことがない。これはいずれすごい指導者になるかも・・・・・。』