« 最近の日経新聞から | トップページ | 各駅停車の旅 その4 »

2019年9月 3日 (火)

「ざらざらした」

不思議なほど涼しかった7月、ラジオから流れたビル・エヴァンス・トリオの'Some Other Time'が忘れられず、CDを求め、この夏は毎日ビル・エヴァンスを聞いていた。

お盆の頃、映画「ビル・エヴァンス タイム・リメンバード」を観に行った(evans.movie.onlyherts.co.jp) 。うまく言えないけれど、素晴らしい映画だった。劇的な人生、世間的な幸福というものとは遠かった人なのかもしれない。映画が終わって我に返り、家に帰る、その時静かな夜であってほしい、と思うことがある。そんな映画だった。ビル・エヴァンスを知る人々が口をそろえて言う彼の美質は音色、リリカルな演奏だった。もう一つ、何度も聞きたくなる彼の演奏の心地良さは、揺るがない強靱なテンポ感から来ているのでは、と思う。

残念ながら8月は暑く、そして9月になった。greendayの'wake me up when september ends'を聞く季節になった。

246d55dda2664af78e3e828b8bd6af14

9月3,4日の都響定期演奏会は大野和士さんの指揮でブルックナーの9番。ニ短調で始まる冒頭は暗い。大野さんは冒頭のトレモロを、変ホ長調で柔らかく始まる4番とは違い、「ざらざらした感じ」で弾くよう求めた。なるほど、と思った。
未完の9番は第3楽章まで作曲された。その楽章の冒頭には、ヴァイオリンのG線のハイポジションの音色を見事に使った、印象的な音程の跳躍がある。それはマーラーの9番の第3楽章の冒頭を思い起こさせるけれど、10年以上先に書かれたブルックナーの方が、調性という観点から言うと、遙かにシェーンベルクの世界に近い、という大野さんの話も興味深かった。9番の交響曲、少し耳を澄ますと、すごく変わった音の並びがたくさんあることに気付く。
3日目のリハーサルで、終楽章の後半にヴィオラがシンコペーションのリズムを弾くことに気付いた。今日の本番では第1楽章にもあるように聞こえた。他のブルックナーでどこかのパートがこのようなシンコペーションを受け持つことはあっただろうか。

プログラムの前半はベルクのヴァイオリン協奏曲。シェーンベルクやペンデレツキの協奏曲で苦労した今年、久しぶりに弾くベルクは、シンプルで美しい曲に聞こえる。ソリストはヴェロニカ・エーベルレ。前回来た時はベートーヴェンの協奏曲だった。その時は終楽章の速いテンポが印象的で、ドライな演奏をする人だな、と思った。今回はずっとつややかで美しい。(2017年11月9日の日記、「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」をご覧下さい。http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-dd77.html)
この協奏曲、ソロのヴァイオリンが高いソの音を長く伸ばし、そこにオーケストラの様々な楽器の音が重なって終わる。音が重なった時の響きを聞いて、武満徹さんのようだと感じた。もちろん、武満さんの方がずっと後なのだけれど。

« 最近の日経新聞から | トップページ | 各駅停車の旅 その4 »

音楽」カテゴリの記事