最近の日経新聞から
新聞を読んでいると時々、素晴らしいことが書いてある記事に出会う。そうした宝物のような文章が毎日読み終えられ、おそらくは忘れられてしまうしまうことをいつもとても残念に思う。
ラグビーW杯決勝戦を控え、10月31日の日経新聞に載った『重量級対決 輝く小兵』という記事から。
『・・・H・ヤンチースも167センチながら、今年の世界最優秀若手選手候補3人に選ばれた。体格について聞かれた時の答えが振るっていた。「ラグビーはケガを恐れればケガをするし、相手が自分に突進してくると思えば本当にそうなる」・・・』
11月1日、「日本化しないドイツの幸運」というマーティン・ウルフさんの記事の冒頭から。
『「どんなに切望しても2+2は4であり、3になったり5になったりはしない。人間は現実を突きつけられて苦しむ運命にある」 ー 。
経済について考えるとき、英詩人アルフレッド・ハウスマンのこの詩を思い出すべきだ。つまり勘定尻というのは合わなければならない。問題はどうやって合わせるかだ。・・・』
連載「私の履歴書」、今月はファンケルの池森賢二さん。めっぽうおもしろく毎朝新聞の届くのが楽しみ。先月の鈴木幸一さん(IIJ)も楽しかった。10月31日の記事から
『「わたしのようなただの音楽好きの素人が音楽祭(東京・春・音楽祭)など続けられるのだろうか」とムーティさんに相談すると、「むしろそのほうがいい」という。「音楽ビジネスのプロよりも、鈴木さんのように音楽を尊敬し、愛し続けられる人が、音楽祭を発展させられる。私も応援しますよ」と。この励ましは本当に心強かった。
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本業のインターネットと音楽への思いが、人生の2つの支柱である。ネットも音楽祭も頼るべき海図や先例がなく、白紙の未来を自分の力で切り開く楽しさと苦しさがともにあった。』
11月4日に掲載された為末大さんの記事は大変興味深かった。(「スポーツが開くことばの世界」シンポジウム 基調講演)
『スポーツ選手はいろいろな経験をします。その体験を言葉にするのが、好きな選手とそうでない選手がいます。・・・
私は言葉が本当に好きです。インターネットで活字や言葉が膨大に流れるなか、一番難しくなっているのは、良い言葉やストーリーに出合うことだと思います。
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言葉は世界を整理します。私は競技力を高める上で言葉はすごく影響したと思います。私は専属コーチをつけませんでした。現役の18~34歳まで自分の学習を自分で試すしかなかった。そのとき支えてくれたのが言葉でした。
ただ、スポーツでどこかに意識を置くとそこに引きずられてしまう。一番いいパフォーマンスのときは、どこにも意識が置かれていない。イメージでいうと、矢印がどこかに向いていない状態になります。その感覚は非言語的です。
プレーの最中は非言語的な世界だと思ってください。コーチングでオノマトペで表現するのはよくないと言われていましたが、最近は重要ではないかと見直されています。・・・・・
選手はトレーニングの後に反省をします。いかに正確にどんな言葉を使うかで反省の精度が変わります。・・・事実と自分の意見を分けて整理する。これができないと分析も対応策も全部ゆがんでしまいます。
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良い言葉というのは、たった一言で連鎖を生んでくれる。反対に、たくさん言葉を使っても選手の動きはよくならない。・・・
・・・無意識でできたことを言語化した瞬間、下手になることがあります。言語化しないほうがいい動きもあると思いますが、言語化しないとうまくならない。このあたりは私も答えは出ていません。
自分自身を言葉で定義することも重要です。過去の出来事や失敗を言葉にできるかどうかで、選手は学んだ感触になるだけか、実質的な学びになるか、その差が分かれます。言葉にできない選手は失敗を失敗としてとらえるだけになってしまいます。』