デビュー作
先日の日記に書いたミケランジェリの「謝肉祭」か、ルービンシュタインの弾くブラームスの3番のソナタをよく聴いている。
少し前に買ったCD9枚組のルービンシュタイン、ブラームス全集に入っていたもので、ピアノ協奏曲やピアノ四重奏を聴きたくて買い、僕にとってはほとんどおまけのようについて来たソナタ(ごめんなさい)を、ふと聴いたら素晴らしかった。
3番、ヘ短調のソナタは作品5。特に美しい第2楽章は、そう知らされなければブラームスとわからないかもしれない。こういう言い方が良いのかわからないけれど、作曲家特有の重さとは無縁で、まるで今の季節の新緑のようなさわやかな息吹がある。
きっとルービンシュタインの演奏も素晴らしいのだと思う。どこにも思い込みのようなものがなく、常に自然な息づかいで音楽が進んでいく。以前、彼の自伝を読んだとき、本当に人生を愛した人と思った。演奏を聴いてもそのことがよくわかる。
僕は昔から作曲家晩年の作品に気を取られる癖があった。でもこの9枚組のCDの中には、1番のピアノ協奏曲(作品15)、3番のピアノソナタ(作品5)、ピアノ五重奏(作品34、ソナタと同じヘ短調だ)、2番のピアノ四重奏(作品26)などがあるし、他に好きなブラームスの作品を思い起こすと、例えば2曲の弦楽六重奏(作品18と36)だって若い作品番号だった。
昨年出版された「開高健短篇選」は、彼のデビュー作「パニック」で始まる。昔から開高さんの本を読んできたけれど、「パニック」は読んでいなかった。この選集が出版されたことでようやく、気にとめていなかった「パニック」を読み、20代半ばの作家がこう世界を見ていたことに驚いた。
後に開高さんが「夏の闇」の中で、
『「最初の一匹はいつもこうなんだ。大小かまわずふるえがでるんだよ。釣りは最初の一匹さ。それにすべてがある。小説家とおなじでね。処女作ですよ。・・・」』
と主人公に語らせていたのは、このことだったのか、と思う。「夏の闇」を初めて読んだ時は何もわからなかった。
20代後半の僕は釣りに夢中で、開高さんの「フィッシュオン」に始まり、「オーパ」や「もっと広く」、「もっと遠く」など釣りにまつわる本ばかり読んでいた。あの頃もし「パニック」を読んでいたら、何か少し違っていたかもしれない、と思う。
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