小さな店
今年に入って、これまでなかったくらい頻繁に湘南の海に通った。葉山から材木座、稲村ヶ崎、七里ヶ浜、江ノ島、鵠沼海岸、辻堂、茅ヶ崎、平塚まで。
もう何ヶ月海を見ていないだろう。写真も撮らなくなった。この日記に使う写真も底をついて、最近は自宅から見る空ばかりだ。夏の湘南は好きじゃないし、風が冷たくなった頃、波の音を聞きに行けるだろうか。
雑誌「SWITCH」5月号 は写真家ロバート・フランク特集。彼の有名な写真集「アメリカンズ」の序文はジャック・ケルアックによる。特集ではこの序文を柴田元幸さんが翻訳したものが掲載されている。その中から、
『ロバート・フランク、スイス人、でしゃばらず、優しく、片手で小さなカメラを持ち上げてはシャッターを切り、アメリカからフィルムへと悲しい詩をじかに吸い上げ、世界の悲劇詩人たちと肩を並べる。
ロバート・フランクにいま、俺はこのメッセージを送る ー あんた、目があるよ。』
そんなに食い意地はないし、こだわりもない。美味を求めて食べ歩くこともない。
渋谷のBunkamuraを過ぎて坂をもう少し上り、細い道を曲がった所に、たぶん僕より少し若いくらいの2人がやっていた小さな店があった。ランチのクスクスが素晴らしくて、Bunkamuraに映画を見に行くと寄るようになった。クリスマス時期、テイクアウトのパテやソーセージも美味しかった。
ある時、フランス料理に辛いメニューがないのはどうしてだろう、と思い、その店のシェフに聞いてみたことがある。愛想のとてもいい人たち、とは言えないのだけれど、話しを振ると楽しそうに話してくれた。フランス料理店のまかない飯に辛いものを出すと怒られる(繊細な味がわからなくなるから)とか、ホール担当は女性で、この人(シェフのこと)辛いものが食べられなくて、(私がつくる)カレーは甘口、とか。そんな会話で、あぁこの人たちは夫婦なんだ、と思ったりした。
昨年12月以来行っていなくて、4月頃と思う、何気なくお店のSNSを見たら3月で閉店、となっていて驚いた。感染とは関係なく、もともと閉めるつもりだったらしい。飲食店の困難が報道される中、少しほっとすると同時に、あの人たちは今どうしているのだろう、と思う。いつかどこかで再開して欲しいと思うけれど・・・。
その小さな店は音楽が流れていなくて、静かだった。そんなところも好きだった。
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