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2020年8月

2020年8月31日 (月)

8月の日経新聞から

8月をふり返ってみる。

8月12日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染拡大に歯止めがかからない。世界の感染者数は10日、累計で2千万人を超えた。北米や中南米で感染拡大がやや一服する一方、アジアでの感染が勢いを増す。初期に厳しい措置で感染制御の成果を上げていた国でも経済活動の再開で流行が再燃しており、コロナ禍克服の難しさを浮き彫りにしている。
 感染拡大は加速している。6月28日に累計感染者数が1千万人を突破してから43日間で倍増した。1日あたりの新規感染者数(7日移動平均)は6月下旬に16万人程度だったが、最近は25万人前後に増えている。』

8月29日日経夕刊から、
『ドイツのメルケル首相は28日に記者会見を開き、新型コロナウィルスの流行について「今後数ヶ月で夏よりもさらに厳しい状況になる」と警告した。屋内での活動の増加などが原因で「事態は深刻で、あなた方も引き続き深刻に受け止めなければならない」と呼びかけた。』

8月30日日経朝刊から、
『世界で新型コロナウィルスの新規感染者の増加に歯止めがかかってきた。世界188カ国・地域のうち過半の107カ国で新規感染が抑制傾向にある。人口10万人あたりの新規感染者数は米国やブラジルで減少している。専門家はマスク着用や3密回避など予防策の普及が要因と指摘する。ただインドでは感染拡大が収まらず、欧州も主要国を中心に再拡大が続き、収束にはほど遠い。』

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8月6日日経朝刊から、
『厚生労働省は英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大学が開発を進める新型コロナウィルス感染症のワクチンについて、1億回分以上の供給を受ける方向で最終調整に入った。近く合意するとみられる。』

8月11日日経朝刊から、
『新型コロナウィルス感染症のワクチンを巡り、日本政府と英国などが共同で買い付ける枠組みが今年秋にも動き出す。2021年までに20億回分を確保する計画で各国の開発企業との交渉を本格化する。米中両国が独自にワクチン確保に動いており、日英などが共同チームで調達競争に臨む。』

8月6日日経夕刊から、
『米バイオ医薬ベンチャーのモデルナは5日、開発中の新型コロナウィルスのワクチンについて、1本の販売価格を32~37ドルに設定したことを明らかにした。大量購入の契約の場合はさらに安くするという。 ワクチンは2本の接種で1セットとなる見込み。1本あたり30ドル台の価格設定は米ファイザーが米政権と契約した20ドル弱を上回る。』

8月25日日経夕刊から、
『世界保健機関のテドロス事務局長は24日の記者会見で、新型コロナウィルスのワクチンに共同出資する枠組みに172カ国が参加表明したことを明らかにした。ワクチンの争奪戦が激しくなるなか、各国へ公平に行き渡るよう参加をさらに呼びかける。』

8月12日日経朝刊から、
『ロシアのプーチン大統領は11日、同国の国立研究所が開発した新型コロナウィルスのワクチンを承認したと発表した。新型コロナウィルスワクチンの承認は世界で初めて。ただ国際的に承認に必要とされる大規模な臨床試験を完全に終了しておらず、安全性を懸念する声も強い。』

8月4日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスのワクチンが完成しても3人に1人が接種を望まない ー 。ワクチンの開発は急ピッチで進むが、最近発表された世論調査では米国人の根強い「反ワクチン」感情が浮き彫りになった。感染拡大が続く米国にとって、コロナ収束を阻む壁の1つになりそうだ。・・・
 米ジョンズ・ホプキンス大のアメシュ・アダルジャ上級研究員は「新型コロナをある程度制御するには、少なくとも人口の75%がワクチンを接種する必要があるだろう」と指摘する。たとえワクチンができても拒否する人が続出するすれば、米国は集団免疫を獲得できず、感染拡大が止まらない可能性がある。』

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8月2日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに感染したが入院せずに済んだ若者でも、回復に時間がかかることが分かった。米疾病対策センター(CDC)によると、持病のない若者の約2割が数週間後も元の健康状態に戻らず、せきや倦怠感が続いた。CDCは「比較的軽症でも症状が長引く可能性がある」と指摘する。』

8月16日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの変異に関する研究が注目されている。英メディアで「ウィルスは弱毒化している」とみる専門家の意見が紹介されたことなどがきっかけだ。現時点でウィルスの危険性の低下を示す科学的な裏付けはない。ウィルスの変異は一定の確率で起こる。病原性や感染力がどう変化するか、世界規模の継続的な分析が重要だ。』

8月10日日経朝刊から、
『新型コロナウィルス感染症は、感染拡大から半年がたつのに謎だらけだ。最たるものが「回復した患者は免疫を獲得するのか」という疑問だ。・・・
 4月、「症状が改善した患者の3割で抗体が退院時にほぼなかった」とする復旦大学の発表が注目を集めた。欧米でも数ヶ月で消える人がいるという報告がでている。・・・
 国立感染症研究所の鈴木忠樹感染病理部長は「新型コロナが招く現象は、多くの人に共通する場合とまれな場合がある。きちんと分けて議論しないといけない」と話す。免疫の反応が通常の感染症と違う可能性もある。解明は困難を極める。』

8月21日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに感染しても重症化しにくい患者がいる理由として、新型コロナが登場する以前から流行する従来型のコロナウィルスに感染した「免疫の記憶」が働いたとする研究が注目されている。新型コロナに感染経験がない人の体から、新型コロナをたたく免疫細胞が相次いで見つかった。こうした免疫を持つ人は全体の2~5割いるとされる。』

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8月24日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに感染し重症になる人がいる一方で、症状が出ない人もいる。新型コロナウィルスの体内への侵入に対し、ヒトの防御機構である免疫システムがどう反応するのか、依然として謎が多い。新型コロナへの免疫応答の研究で最前線にたつ米エール大学の岩崎明子教授は「炎症を引き起こすサイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質の総称)が重症化を見極める上で重要だ」と話す。
 ー 新型コロナに対する免疫応答でこれまでに何がわかり、何がわかっていないのか。
「私の研究室では免疫応答がどう感染防御に働いているのか、あるいは病原性を引き起こしているかについて研究している。エール大学の病院の100人以上の患者さんの免疫応答の長期的な解析を行った結果、炎症性のサイトカインを多く産生する患者さんでは病態が悪化することがわかった」
 ・・・・・
「抗体が長く維持されないことは特に珍しいことではない。抗体が減ったからといって免疫がつかないわけではない。ワクチンで得られる免疫は自然の感染で生ずる免疫に比べ効果が高い。濃度の高い中和抗体(細胞への感染を阻止する物質)を生み出せるからだ。抗体が長続きしないことはワクチンへの期待を損なう理由にはならない。」
 ・・・・・
「感染してから長期間にわたって深刻な体調の不良を訴える人がかなりいる。倦怠感や頭痛などの症状でベッドから起き上がれないほどの重症の方もいる。発症前は健康な若者にこうした『コロナ後遺症』に苦しむ人が多く、男性より女性が多いようだ」
「自己免疫疾患ではないかと仮説を立てて解明に取り組んでいるところだ。免疫機構の暴走の末に、体内にできた抗体が自分自身の組織を攻撃してしまうようになったのではないか。自己免疫疾患だとわかれば治療法も編み出せるはずだ」』

8月25日日経夕刊から、
『香港大学の研究チームは24日、新型コロナウィルスに感染して回復した人が再び感染したことを初めて確認したと発表した。ウィルスを詳しく調べたところ、最初に感染したときとは別のものと判明したという。世界的な流行が長引く懸念がある。
 ・・・・・
 米紙ニューヨークタイムズによると、再感染が確認された男性には新型コロナの症状が出ていない。同紙は専門家の見方として「1回目の感染が免疫をつくり出し、発症を防いだ」(米エール大の岩崎明子教授)と伝えた。』

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8月30日日経朝刊から、
『中国で冷凍食品から新型コロナウィルスを検出したという報告が相次ぎ、その感染リスクが改めて注目されている。ウィルスは低温に強く、解凍後も感染力が残るという。ただ感染例はまだなく、専門家は手洗いや消毒など一般的な対策の徹底を呼びかけている。』

8月31日日経朝刊から、
『新潟大学の赤林伸一教授は新型コロナウィルスの感染防止のため国が決めた基準量で換気しても、ウィルスの飛散を防ぐ効果が不十分だとのシミュレーション結果をまとめた。教室に感染した生徒がいた場合、生徒が退席してから10分後も、ウィルスを含む飛沫の6割は室内全体に広がり残っていた。
 ・・・国は窓を開けにくい商業施設などで空調設備などを使って換気する場合、一人あたり1時間に30立方メートルの換気を推奨する。・・・』

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8月16日日経朝刊に掲載されたフィナンシャルタイムズの記事から、
『新型コロナウィルスの起源はコウモリとみられる。21世紀に入ってから相次ぐ、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染症もコウモリからヒトにうつったとされる。
 コウモリが、主要な人獣共通感染症の発生源になったのは比較的最近のことだろう。科学者らは、動物からの感染拡大が増えた原因として、無分別な自然との関わり方と急速なグローバル化があるとみる。こうした傾向に歯止めをかけるか事態を反転させない限り、病気の発生と大流行が繰り返されるとして、警鐘を鳴らす。』

8月25日日経朝刊に掲載された松尾博文さんの記事から、
『新型コロナが猛威を振るう今年、バッタの大発生が重なった。元は18年にアラビア半島南部で発生したサバクトビバッタが海を渡り、世代交代を繰り返しながら20カ国以上に広がり続けている。
 1平方キロメートルの群れは1日で3万5000人分の食料を食べ尽くす。農作物を食い荒らしながら1日で100キロメートル以上、移動する。ケニアは過去70年で最悪の事態になった。パキスタンは非常事態を宣言した。群れはインドにも侵入し、6月末にはニューデリー郊外に迫った。中央アジアや南米でも別の群れが発生した。
 国連食糧農業機関は東アフリカだけで2000万人が食糧危機にさらされると警告する。その間も内戦下のシリアやイエメンなどでは戦闘が続き、混乱に巣くうイスラム過激派が国を越えてつながる。』

8月22日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染拡大が各国で出生数の減少をもたらす恐れが出てきた。若者が雇用や収入への不安から結婚と出産に慎重になるためで、日米ではそれぞれ2021年の出生数が1割減るとの予測がある。・・・・・
 米ワシントン大は世界の人口が2060年代の97億人をピークとし、今世紀末に88億人程度まで減ると予測する。コロナ禍はこのペースを速める可能性がある。人口減は資源の利用や環境負荷を抑える反面、需要減や労働供給の制約につながる。潜在成長率を高めるため、不断の技術革新に取り組むことがこれまで以上に重要になる。』

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昨年パリを訪れたとき、かなり強引に観光客に接近してくる子供たちがいて驚いた。(2019年6月の日記をご覧下さい http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-89c598.html)彼の地のスリの話はよく聞く。「表」ではない方法で生計を得ていた人たちは相当数いると想像する。世界中で観光客が激減した今、どのようにしているのだろう。深刻な何かにつながらなければいいけれど。

オーケストラの公演が行われる際、ホールには膨大な量の紙が台車に乗せて運び込まれ(積み込んだエレベータの床が沈むくらいの重さがある)、消費される。主催者が聴衆に配布するプログラムやチラシ、ホール入り口で袋に入れて配られる大量のチラシには、紙、印刷、撮影、デザイン、配布など様々な業種が絡んでいる。3月以降、一旦それらの需要はなくなってしまったのだろうか。

今月、都響はヨーロッパ公演を予定していた。指揮者やソリストはともかく、オーケストラの演奏旅行はしばらく難しいかもしれない。
世界には素晴らしいコンサートホールが数多くある。公演数が減って、そうしたホールの経営に影響しないことを願うばかりだ。そして時代がいつもより速く大きく動いても、生身の人間が音を出す演奏というものが変わらず必要とされることを願う。

2020年8月27日 (木)

シューマン

多くの人は最初から、あるいはもっと早くに気付くのだろうけれど、そしてこんなことを言うのは恥ずかしいのだけれど、僕は今年の春、ようやくシューマンの音楽の素晴らしさに気付いた。

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ソロ、室内楽、オーケストラ・・・、少なくないシューマンの作品を弾いてきた。今、それらの作品はまったく違う姿を見せている。長い時間、彼の書いた音符に直に触れてきたのに、何も感じていなかった。大切なことは目の前にあった。
ピアノ四重奏なら、第3楽章の旋律をどう弾くか、とかチェロの4番線をいつ、どのようにB♭に下げるのか、そんなことばかり気にしていた。桐朋に入った年に弾いたチェロ協奏曲は、どうしてそうした音の並びになっているのか、今は本当にそうですね、と思う。そして他の多くの作品と同じように、シューマンがそのような音楽を残してくれたことに深く感謝したくなる。

もちろん僕の経験してきた音楽の範囲は知れているけれど、それでも西洋音楽の偉大な作曲家たちの世界をふり返った時、そこにシューマンの音楽がなかったら、世界は大切なものを欠いただろう、と思う。誰もが抱えているにもかかわらず、それらを初めて目に見えるように(耳に聞こえるように)表現したのがシューマンだった。

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ハインツ・ホリガーのアルバム "Aschenmusik"(https://www.ecmrecords.com/shop/143038752897)の核になっているのは、シューマンが晩年に書き、出版を望み、しかし失われてしまったチェロのためのロマンス。ホリガーのライナー・ノーツによると、そのことについてブラームスは1893年の手紙で以下のように書いている。(シューマンは1856年に亡くなった)

『シューマンは決して出版に値しない様々なものを残しました。ちょうど数週間前、シューマン夫人は、彼女の死後印刷され、世に出ることを恐れて、チェロの作品を燃やしました』

少ない資料から的確な判断をすることは難しく、また、ホリガーの文章を素直に信じてよいのかもわからないけれど、シューマンは生前、同時代の人々や、例えばクララ・シューマンやブラームスといった親しい人たちに、果たしてどのくらい共感をもって理解されていたのだろうか。

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10年以上前に求め、最初の数ページを読んだだけで本棚に眠っていたシューマン著「音楽と音楽家」の中にこんな文章があった。

『誰かが生涯を通じて、全く同じ眼で見てきたというような大家が果たしているだろうか。バッハを正当に評価するには、青年の持ち得ない数々の経験がいる。モーツァルトの太陽のような高さでさえ、彼らにはあまりに低く値踏みされる。ベートーヴェンに至っては、ただ音楽を勉強しただけではたりない。これはある年齢に達すると、同じベートーヴェンのものでも、ある作品が特に他の作品よりおもしろくなるということをみてもわかる。ただ青年の感激は主として青年によって理解され、男らしい大家の力を知るものは一人前の男子であるという風に、同じ年齢がいつも互に牽きあうということだけは確実にいえる。だからシューベルトは永久に青年の寵児として残るだろう。・・・』

この本ではメンデルスゾーン、ショパン、ベルリオーズ、ウェーバー、ブラームス、そうした人たちが同時代の人間として生き生きと描かれ、興味深い。リストがライプツィヒを訪れたときの演奏会について、こんな文章があった。

『リストの親切なはからいから、当夜の演奏会ではこの土地にいる3人の作曲家 ー メンデルスゾーンとヒラーと僕 ー の曲が演奏されることになった。メンデルスゾーンの曲は最も新しい協奏曲、ヒラーのは練習曲、僕のものは≪謝肉祭≫という大分前の曲の中のものを幾つかひいた。たいていの気の小さな名人ならびっくりするだろうが、リストはこれをみなほとんど初見同然でひいたのである。・・・・・
僕の≪謝肉祭≫については、元来が狂詩曲のようなものだから、大勢の人々に印象を与えられるかどうか、僕はやや疑問に思ったのだけれども、彼は固く主張して譲らず、どうしてもこれをひきたがった。僕は明らかに彼の思い違いだったと信じている。ここでこの曲のちょっとした由来について一言しておきたい。どうしたわけか、僕の音楽の上の知りあいの婦人が住んでいた小さな町の名が、音階に出てくる文字ばかりでできていて、しかもその文字は、僕の名で音階にでる文字とちょうど同じだった。そこで、僕はバッハ以来べつに目新しくもない例の遊戯をやってみた。・・・』

8月、バッハの2番のチェロ組曲とシューマンの協奏曲を練習している。
バッハが尽きることのない泉のように、生命感にあふれたフレーズを次々と生み出したのは本当に驚くべき事だった。ある時はゼクエンツになり、ある時は即興的なチェロ組曲の一つ一つのフレーズが、いったいどのように生まれたのか、たどりながら弾いていた時、その心の動きは、シューマンの様々なフレーズの生まれ方にとても近いような気がした。

2020年8月16日 (日)

新しいソケットとエンドピン

2月の終わりに、コントラバスのIさんから新しいソケットとエンドピンがあることを教わり、鈴木さんの工房に出かけた。
まず自分の楽器でエンドピンを試し(とても良かった)、それから工房にある楽器に新しいソケットと従来からあるソケットを付け替えて試し、当時ソケットは試作段階だったのだけれど、結局自分の楽器にも付けてもらった。(ソケットを新しくする際、楽器側の穴が狭い場合は削って広げなくてはならず、広すぎる場合はいったん埋めて、さらに・・・。いずれにしてもそれなりに覚悟のいる作業が必要になる。)

溝のあるエンドピンとクリックシステムは、チェロには必要ないのでは、と思ったけれど、使ってみると、溝の位置で固定した時の方が明らかに響きが多い。任意の長さで固定できないのはデメリットだけれど、かえって迷わなくなり、良いかもしれない。昔懐かしい分数サイズの楽器のエンドピンを思い出す。

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30年近く前、トロンボーンのMさんが、マウスピースと楽器がすき間なくぴったり合っていることが大切、と言ったことを覚えている。チェロだと、糸巻きやソケットが楽器と接する面や、エンドピンとソケットが接する面の精度が大切だと思う。
エンドピンとソケットのすき間を気にして、見附さんに面倒なお願いをしたこともあった。(2010年1月の日記をご覧ください。http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-48ee.html)エンドピンをほんの少し太くして、ソケットに密接するようにしても、結局日常の出し入れでソケットが摩耗し、どうしても緩くなる。そしてそのすき間に楽器の振動が吸収される。シンワ・サウンド・サプライが着目したのはそこだろうか。(www.sinwajapan.jp)

Iさんから、ソケットとエンドピンを替えると、いい楽器に替えたようになると聞いていた。試作品のソケットは、おそらくコントラバスのものに近い大きさで、低音の広がりなど、経験したことのない感じだった。ただ、チェロには大き過ぎ、重過ぎて、長年慣れ親しんだ楽器の重さやバランスは失われてしまった。

SSPからソケット完成の連絡があり、交換してもらったのが7月終わり。かなり小型軽量化(10ミリ、スチール製)され、それはもちろん望ましいことだったのだけれど、代償として低音の良さは失われるかもしれない、と思っていた。
果たして、A線とD線の音域は分厚くなり、低音は戸惑うほど締まった感じになった。テンションの高い弦を張ったような楽器の変化だった。1週間ほど弾いたら馴染んで、音は開いてきた。今月は演奏会がなく、広い場所で試せていないのだけれど、低音から高音までよく通る音色だと思う。
間に試作品をはさんだので、従来のソケットから一息に替えるとどのくらいの変化なのか、今となってはわからないのだけれど、かなり違うと思う。僕の場合、楽器と弓、楽器と弦の関係が変わった。

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真鍮のエンドピンの音は豊潤。一方、鉄製は強く締まり、音離れが速い。尖った音色で個性的だと思う。
長いエンドピンは僕には必要なく、少しでも軽くしたかったので、長さ46センチ、溝の場所や数も異なるものを作って頂いた。こちらの方が音量もある。エンドピンの長さ、溝の位置や数は、きっと音に影響するし、使う長さによっても違う。音は本当に興味深い。

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