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2021年6月29日 (火)

物語(続き)

都響、7月1日公演の後半は小曽根真さんのソロでラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。昨日のリハーサルから小曽根さんが入り、お話を伺うことができた。

6年前に東北、北海道への演奏旅行があり、ラプソディー・イン・ブルーのソリストは小曽根さんだった。
石巻公演でマイクを持った彼が、クラシックを弾くようになってよかったことは、音楽には物語があることを知ったこと、と聴衆に話したことが印象的だった。

ではジャズは何ですか?、と僕はずっと聞きたいと思っていた。
(2018年10月の日記「物語」をご覧ください

http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-729b.html

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ジャズは今生まれ出るもので、こうして話をしていることもジャズ、と小曽根さんは教えてくださった。少しやんちゃなところがある、とも。

例えば台本に「ありがとう」という台詞があった時、それに様々な背景や感情を乗せて、幾通りにも表現することができる。
同じように、楽譜に書かれたクラシック音楽も様々な表現が可能で、完成度が高い分、道筋はきちんとできているし、もしかしてこちらの方が自由かもしれない、という話は興味深かった。

クラシック音楽の人間が陥りやすい穴は、楽譜がすでにあるから、それを演奏しさえすれば、という姿勢になってしまうことだと思う。

会話の中に出てきた「クリエイティヴ」という言葉も、音が出た瞬間にその音に反応して化学反応が起きて、という話も印象的だった。
リハーサルで同じ場所を返す時、1回目とかなり違う演奏になるのは、小曽根さんはいつもその時生まれた音に反応しているからだと思う。

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今回の指揮はアラン・ギルバート。彼は都響のリハーサルでは、考えながら話すように、日本語をゆっくり話す。そのアランが小曽根さんと英語でスムースにやり取りしているのに接すると、とても早口に聞こえて(おそらく普通にしゃべっている)おもしろかった。

数ヶ月前、ジャズ・トゥナイトというFM番組に小曽根さんが出て、チック・コリアに初めて会った時のエピソードを話していたことを思い出し、そのことも聞いてみた。チック・コリアが若い小曽根さんの背中を強く押す素敵な話なのだけれど、人生のある時期に誰かに、君はそれでいいんだ、と言ってもらえることは本当に素晴らしい、と思う。

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数年前、村上春樹さんがラジオで、文章の書き方は音楽から学んだ、と言い、それは小曽根さんが、クラシック音楽には物語がある、と言ったことにつながるような気がしていた。
文章も音楽も、心の中にあるものを表現するのだから、と小曽根さんは言っていた。

今日の日経新聞朝刊に村上春樹さんの記事が載った。その中から、

『僕がラジオを好きなのは一人ひとりがパーソナルに聴き、それが集合している、という雰囲気なんです。テレビやインターネットとは全く違う。親密でパーソナルな感じが気持ちいい』

『僕にとって物語はものすごく大事。物語を語ることによって、心の中に知らず知らずため込んでいたり、ロジカルに説明できなかったりするものをうまく外に出していくことができる。そういう場所を作りたい』

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