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2021年9月

2021年9月 5日 (日)

8月の日経新聞から

8月をふり返ってみる。

8月6日日経朝刊から、
『世界の新型コロナウィルスの感染者数が5日、累計で2億人に達した。1月下旬に1億人を超えてから約半年で倍増した。先進国を中心にワクチン接種が進み、4月下旬以降減少してきた新規感染者数は、感染力の強い変異ウィルスの流行で再び増加に転じた。』

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8月21日日経夕刊から、
『米ジョンズ・ホプキンス大のまとめによると、(米国の)19日の新規感染者数(7日移動平均)は約6カ月ぶりに14万人を超えた。死亡者数は862人だった。2週間前に比べると感染者数は4割増え、死亡者数もほぼ2倍に増えた。』

8月6日日経朝刊から、
『東京都は5日、新型コロナウィルスの感染状況を評価するモニタリング会議を開いた。新規感染者数の7日間平均は6月下旬の約503人から5週間で約3443人と7倍近くに急増したと報告。専門家は「爆発的な感染拡大が進行している」と総括した。』

8月26日日経朝刊から、
『25日は全国で2万4000人超の新規感染者が確認された。大阪府や宮城県、新潟県で過去最多を更新した。8月中旬以降、全国の新規感染者は2万人を超える日が目立つ。東京都の増加ペースに鈍化の兆しが出てきた半面、多くの地域で増加基調が続く。』

8月31日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの第5波で、25日までの1週間で20歳未満の新規陽性者が3万人を初めて超えたことが分かった。全世代に占める割合も初めて2割を超えた。感染力の強いインド型(デルタ型)の猛威で子どもの感染急拡大が裏付けられた形だ。』

8月28日日経朝刊から、
『厚生労働省は27日、新型コロナウィルスに感染して自宅で療養中の人が25日時点で11万8035人になったと公表した。前週から約2万1千人増え、初めて10万人を超えた。』

8月7日日経朝刊から、
『厚生労働省は6日、南米を中心に見つかっている新型コロナウィルスの変異型が羽田空港に到着した人から確認されたと明らかにした。「ラムダ型」とよぶ変異ウィルスで、国内での確認の報告は初めて。』

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8月25日日経夕刊から、
『中南米で新型コロナウィルス新規感染者数が減少傾向にある。6月時点で世界全体の42%を占めていたが、足元では13%以下に落ち込んだ。感染力の高いインド型(デルタ型)が流入しワクチン接種も遅れるなか、世界の流れに逆行する動きとなっている。
 ・・・
 中南米各国で6月ごろからデルタ型の流入が確認されているが、他の地域で見られたような感染爆発は起こらず、むしろ新規感染者数は減少が続いている。
 ・・・
 はっきりした原因は不明だが、有力視されているのが地場の変異型の存在がデルタ型の感染拡大を防いでいるとの見立てだ。』

8月24日日経朝刊から、
『米食品医薬品局は23日、米製薬大手ファイザーの新型コロナウィルスワクチンを正式承認した。米国が新型コロナウィルスワクチンを正式承認するのは初めて。同ワクチンは昨年12月に緊急使用が許可されていた。』

8月7日日経朝刊から、
『米製薬大手ファイザーに続き、米バイオ企業のモデルナが5日、新型コロナウィルスワクチンについて3回目の追加接種が必要となるとの見方を示した。イスラエルや欧州が3回目接種へ動き出す一方、世界保健機関(WHO)はまず途上国へワクチンを行き渡らせる必要性を主張。ワクチンの確保を巡り、世界で格差が課題となる。』

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8月31日日経朝刊から、
『現在、米国の新規感染者のほとんどをワクチン未接種者が占める。米疾病対策センター(CDC)が24日発表した研究によると、未接種者が感染する確率は接種完了者に比べて5倍、入院する確率は29倍にのぼる。
 ・・・
 日本で8月18日~20日の人口10万人あたりの新規感染者数をワクチン接種歴ごとにみると、未接種者は88.8人、1回接種は25.2人、2回接種は5.4人だった。』

8月15日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスのワクチン接種を巡って、海外で「接種率」が一定を超えると伸び悩む「7割の壁」が課題となっている。各国は接種の義務化や罰則の導入、打ち終えた人への特典などで接種を促す。』

8月30日日経夕刊から、
『シンガポールのリー・シェンロン首相は29日、全人口の8割が新型コロナウィルスのワクチン接種を完了したと発表した。』

8月7日日経朝刊から、
『政府は6日、新型コロナウィルスワクチンの2回目接種を終えた65歳以上の高齢者の割合が80%に達したと首相官邸のホームページで公表した。』

8月24日日経朝刊から、
『政府は23日、新型コロナウィルスワクチンの2回目の接種を終えた人が全国民の4割に達したと発表した。』

8月11日日経朝刊から、
『「国民の70%が接種しても、恐らく残りの30%が防護されることにはならない」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は7月29日、こう述べた。実際、人口の6~7割が2回接種したイスラエルやアイスランドでもデルタ型の感染者が増えている。』

8月5日日経朝刊から、
『厚生労働省の研究班は、米モデルナ製の新型コロナワクチンを2回目に接種した人の78%が翌日に発熱したと明らかにした。主に自衛官を対象にした調査で、2回目接種後に病休をとった人も39%に上った。』

8月20日日経朝刊から、
『厚生労働省の専門分科会は19日、新型コロナウィルスワクチン接種による健康被害の救済を初めて認定した。審議した41人分のうち29人について認めた。』

8月26日日経夕刊から、
『厚生労働省は26日、米モデルナ製の新型コロナウィルスワクチンについて異物の混入が見つかったとして、約160万回分の接種を見合わせると発表した。一部はすでに接種しているものの、現時点で健康被害の報告はない。』

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8月28日日経朝刊から、
『英国は7月、ほぼ全ての制限を撤廃した。マスク着用はロンドンの地下鉄などごく一部のみだ。サッカー欧州選手権では7月に行われた準決勝と決勝で1試合に6万人超の観客を入れた。計6千人の感染者が出たが死者や入院者数が大きく増えなかったことで、イベント開催を継続する。
 対照的にシンガポールはワクチン接種が進んでも厳格な感染抑制策を維持する。感染拡大を徹底して抑え込みながら、慎重に経済再開を進める。』

8月12日日経朝刊から、
『・・・SMBC日興証券の圷正嗣氏は「英国の先行例をみると、デルタ型が急激に広がる期間は約1カ月半。日本も少なくとも9月には新規感染者数が減少に転じるだろう」と指摘する。・・・
「市場は新規感染者の増加は問題にしていない」と話すのは、みずほ証券の大橋英敏氏だ。・・・
 昨年は一時20%を超えた日本の致死率は足元は0.2%台まで低下、米国や英国、欧州連合も0.2~0.6%に低下した。「約0.1%のインフルエンザに近づいており、ロックダウンは繰り返されないだろうという市場の安心感につながっている」。』

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8月19日日経朝刊から、
『10月8~10日に三重県の鈴鹿サーキットで予定されていた自動車レースの最高峰、F1シリーズの日本グランプリが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により2年連続で中止となることが決まった。』

8月21日日経朝刊から、
『国内最大級の野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」が20日、新潟県湯沢町の苗場スキー場で開幕した。・・・開催は2年ぶり。例年述べ10万人以上が訪れるが、今年は来場者数を半数以下に減らした上で、ステージ数も絞り、終演時間も繰り上げるなど厳戒態勢での開催となった。』

8月21日日経朝刊から、
『米アップルがオフィスへの出社再開時期を少なくとも2022年1月まで延期したことが19日、明らかになった。』

8月22日日経朝刊から、
『米ハーバード大は全学生や教員に接種を義務付けた上で対面授業を再開する。米疾病対策センター(CDC)が接種後も人に感染させるリスクがあると勧告したことを受け、キャンパス内でのマスク着用も義務付ける。』

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8月20日日経朝刊に掲載された英フィナンシャル・タイムズ、エルサレム特派員の記事から、

『3回目接種はイスラエルが新型コロナワクチンの最前線にあることを国民に改めて実感させた。各国に先駆けて1回目の接種を受けたイスラエル市民は、3月にロックダウンが解除された時に「ファイザーに乾杯」と祝っていた。
 そのイスラエル国民は今、ワクチンの限界を身をもって体験している。抗体維持には定期的な接種が必要かもしれないという以前からささやかれていた必然的な結論を世界で初めて受け入れるようになっている。
 ・・・
 今のイスラエルから学ぶべき教訓があるとすれば、コロナは終息していないということに尽きる。この春から夏にかけては小休止にすぎなかった。次は冬がやってくる。』

8月3日日経朝刊に掲載された英エコノミスト誌の記事から、
『新型コロナウィルス感染が世界的に拡大して17カ月が経過した今でも、この疫病に対する多くの疑問に答えが出ていない。新型コロナの発生源しかり、地域によって感染状況が異なる理由もしかりだ。・・・
 だが、研究者らは死者数の地域的ばらつきの謎を解く「魔法の」変数解明に近づきつつある。それは医療対策とも、機構や地理的条件とも関係が薄い。それは経済状況に関連している。
 ・・・
 その結果、どの解析においても新型コロナによる死亡と重要な相関関係がある変数は3つしかないことがわかった。所得格差、人口密度、人口当たりの介護施設入所者数だ。そのうち最も影響が大きいのは所得格差だった。』

8月28日日経夕刊から、
『米国家情報長官室は27日、新型コロナウィルスの発生源に関する調査報告書の要旨を公表した。①動物から人間に感染②中国のウィルス研究所からの流出 - の2つのどちらかを結論づける決定的な証拠を得られず、特定できなかったと説明した。真相究明には中国の協力が必要と指摘した。』

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8月6日日経夕刊から、
『世界で異常気象が猛威をふるっている。トルコやイタリアでは大規模な山火事が発生し、ドイツやベルギーでは大洪水がおきた。地球温暖化の影響とみられ、国際商品価格の上昇や難民の増加にもつながっている。』

8月20日日経夕刊から、
『国連世界食糧計画はイスラム主義組織タリバンがほぼ制圧したアフガニスタンで、1400万人が深刻な飢餓に直面するなど人道危機が進行していると警告した。』

8月28日日経夕刊から、
『イスラム主義組織タリバンが主要都市を掌握したアフガニスタンについて、国連難民高等弁務官事務所は27日、2021年末までに最大50万人が難民として国を離れる可能性があると発表した。同国人口約3900万人の1%超にあたる。』

8月14日日経夕刊から、
『米国でアジア系を狙うヘイトクライム(憎悪犯罪)がやまない。人権団体「ストップAAPIヘイト」が13日公開した直近の被害報告まとめによると、新型コロナウィルス流行が本格化した2020年3月~21年6月に寄せられた被害報告は9000件を超えた。特に21年に入っての報告が多く、4533件にのぼっている。』

8月7日日経夕刊から、
『フランス農業省は6日、今年の国内ワイン生産量の見通しを発表した。春の異常低温の影響で、前年比24~30%減の32億6千万~35億6千万リットルと推定され「歴史的低水準」と指摘。生産量は少なくとも過去半世紀で最低になるとみられる。』

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8月6日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染拡大がおさまらず、コロナ以外の一般医療への影響が長引いている。国内の死因で最も多いがんで、2020年度に検診を受けた人は約2割減ったことが分かった。治療を受ける人も減少傾向にある。』

8月14日日経朝刊から、
『日本の年間労働時間が大幅に減っている。2020年は1人平均1811時間となり、3年前に比べ116時間縮小した。時間外労働の上限規制導入など一連の働き改革が動き出したところに、新型コロナウィルスの流行が重なった。』

8月30日日経朝刊から、
『「科学技術立国」を掲げる日本の国際的な存在感が低下している。文部科学省の研究所が8月上旬にまとめた報告書では、科学論文の影響力や評価を示す指標でインドに抜かれて世界10位に落ちた。世界3位の研究開発費や研究者数も伸び悩んでおり、長期化する研究開発の低迷に歯止めがかからない。』

8月18日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染対策グッズが売れなくなっている。スーパーマーケット店頭の8月初旬の販売動向を「日経POS情報」で調べると、「手指消毒剤」は前年同期に比べ8割少なく、「万能除菌剤」は感染拡大前の水準すら下回った。コロナ禍への慣れが危機感を緩ませている恐れがある。』

8月17日日経朝刊から、
『日本の航空各社が16日に発表したお盆期間(8月6~15日)の国内線旅客数は前年同期比44%増の173万1561人だった。・・・大手2社の国内線旅客数は19年比で6割減とコロナ前の水準は遠い。』

8月27日日経朝刊に掲載された星野リゾート代表、星野佳路さんの記事から、
『全年代で新型コロナウィルスのワクチン接種率が一定以上になれば、2022年に国内の観光需要が戻る。インバウンド(訪日外国人)需要は23年にも回復する』

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8月8日日経朝刊から、
『8日に閉幕する東京五輪は、アスリートから多くの問題提起がなされた大会になった。メダル期待の過度な重圧、SNSによる中傷。真夏の開催による負担。莫大な放送権料や協賛収入を集め、アスリートにも恩恵をもたらしてきた「五輪ブランド」成長の歯車が逆回転し始めたともいえる。・・・
 「私たちはただアスリートでエンターテインメント(の一部)というだけではなく、一人の人間。色々な感情もあるし、皆さんが見ていないところでもがいていることも知ってほしい」。米国体操女子の第一人者シモーン・バイルスが試合途中にメンタルの不安を理由に演技を断念した件は世界に驚きを与える一方、各国選手から同様の告白や共感の声が相次いだ。
 競泳男子で5冠に輝いたケーレブ・ドレセル(米国)は米メディアに「正直に言えば、誰も自分の名前を知らないときの方が競泳が楽しかった」と語っている。大会中は余計なストレスを抱えたくないと、インスタグラムをやらなかったという。』

8月25日日経朝刊から、
『第16回夏季パラリンピック東京大会が24日夜、開幕した。新型コロナウィルスの感染拡大で1年の延期を経て、原則無観客での開催となる。』

8月30日日経朝刊から、
『国際パラリンピック委員会は29日、情勢の緊迫化で東京パラリンピック参加を断念していたアフガニスタンの代表2選手が日本に到着し、大会に参加することを明らかにした。』

8月26日日経朝刊のコラム「春秋」から、
『・・・パラリンピックには聴覚障害の選手の競技がない。晴れ舞台は「デフリンピック」だ。日本に招致する動きがある。もしコロナ禍が去り、その日が来たら・・・・・・。』

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8月19日日経夕刊から、
『日本初の子どもの本専門店として愛されたものの2018年に閉店した名古屋市の「メルヘンハウス」が18日、常設の店舗としては3年ぶりに同市千種区で再オープンした。』

8月31日日経朝刊に掲載されたベルリンフィルの運営財団総裁、アンドレア・ツィーツシュマンさんの記事から、
『- ようやく演奏を再開した。足元の景況感は。
「6月のコンサートは観客定員を半分にした。8月末から室内楽ホールは再び全席、大ホールは2400席のうち2000席を使えるようになるが、不確実要素が多い。定員を減らさざるを得ないかもしれない。チケットの前売りも例年より低調だ」
 ・・・
 - オケ演奏には大勢の音楽家が集まる。感染対策と芸術活動の両立は。
「これまでは徹底検査で乗り切った。全員、週2~3回の頻度でPCR検査した。今後はワクチンを2回接種すればベルリンの定期公演では検査が不要になる。ただ国外公演では全員の陰性証明が必要になる」
 ・・・
 - 音楽はデジタル化するのか。生演奏の意義は。
「なお生演奏が音楽の中核を担うと思う。音響機器もいいが、ライブの代わりにはならない。優れた指揮者やソリストを起用した魅力的なプログラムがあれば先行きに心配はいらない」
「(平均年齢の高さが難点の)観客層がコロナ禍で変わるか注視している。足元では感染を心配する年配者が減る一方、若年層が増えた」』

2021年9月 1日 (水)

マイスタージンガーについてのメモ

ワーグナーのオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」によく使われる付点音符のリズムは、ニュルンベルクの街並み、尖った屋根の連なりを現している、とリヒャルト・ワーグナーの孫ウォルフガングから若杉弘さんが聞き、そのことを若杉さんから聞いた矢部達哉さんが、さらに僕たちにも教えてくださった。

もともと昨年6月に予定されていた東京文化会館でのマイスタージンガーは、今年に延期され、1カ月近いリハーサルを経て、後は最後の通し稽古と本番、というところで中止になった。ようやく体と頭が長大な作品にフィットし始めたところだった。その感覚を忘れないよう、いくつかのことを思い出してみる。

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演奏時間4時間半を超えるマイスタージンガーを、始まったらもう終わっている、そういう感じで弾けるようになりたいと思った。
譜読みを始める前にスコアを開き、歌、弦楽器、管楽器など着目するセクションを決めて、何度も演奏を聴いた。ずいぶんわかったつもりでチェロのパート譜を読み始めたら、まったく頭に入っておらず、能力の無さに驚くばかりだった。

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それなりに長く仕事をしてきたつもりだったけれど、経験のない音符の連続だった。どういうことだったのだろう。
音の並びが予想外だった。読み間違いの多さに呆れるばかりだった。同じ音型が続いて以下同じ、ということがほとんどない。どんな細部も熟慮され推敲され、徹底的に書き込まれている。同じモチーフが出てきても、その度にリズムや音の並びが異なり、いつも細心の注意を必要とする。偏執狂的な情熱すら感じるほどで、彼がここまで書き込んだことは、後の作曲家、マーラーやR.シュトラウスに大きな影響を与えただろうと思う。

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譜読みは大変だけれど、同じ形があまりないように見えるから、5時間近くオーケストラピットに入っていても、飽きにくいのかもしれない。
進行は目まぐるしく、一つのセクションが終わる前に、どのように次につながるのか、体に入っていないと間に合わない感じだった。マイスタージンガーを旅に例えると、長い旅路は複雑な旅程からなり、いくつもの分岐、いくつもの乗り換え、いくつもの出会いがあり、その場所では何かが起きるのだけれど、その時その場に行ってみないと何が起きるのかわからない。いつも心を開いて、考えずに体が動くように、できるだけスムースに物事が運ぶように。

音楽が体に入り始めてから、歌詞の対訳を見ながら演奏を聴いた時、まったく違う世界が立ち上がって驚いた。このストーリー、この歌詞に、音楽はそのように絡んでいたなんて。歌詞の中のいくつかの音節の長さは自由に伸び縮みしている。複雑に書かれた音楽の上で、このように自在に言葉を操る魔法があるのだろうか。

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チェロはバスパートだったり、旋律だったり、対旋律だったり、和声だったり、八面六臂の活躍をする。例えば第1幕第3場はヘ長調の低い音域でずっと弾き続けるのだけれど、もしかして僕たちは一番長く弾いているパートだろうか、と最初に感じるところだ(ベートーヴェンの田園をひたすら弾き続けるような感じ)。チェロのパート譜が一番多いに違いない、と思ったらヴィオラの87ページが最大だった。同僚の黙々とした素晴らしい仕事ぶりに頭が下がるばかりだった。(チェロは79ページ)

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第1幕の最後、誰がどう歌い、何が大切なパートなのかわからなくなるくらい歌が重なりあった後、オーケストラが残る。転調の後、急に静かになりオーボエのソロが際だった後、息もつかせない感じで終わる。ここのオンビートとオフビートの使い方は見事で、ワーグナーさんさすがですね、と言いたくなる。

終わり方で言うと、第2幕に2カ所、アーメン終止があって美しい。夜警の歌詞に"Lobet Gott,den Herrn"とあるからだと思う。1回目は夜の10時を、2回目は11時を告げる。

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夜警が10時を告げた後(第2幕第6場)、ハンス・ザックスが「イェールーム、ハラハロヘ、オーホー、トラララーイ」と不思議な歌詞を、ベックメッサーをさえぎるように何度も歌う。その不思議な言葉の最後"O he"はソ♭に降り、少し前から鳴っていたチェロとコントラバスのファと強くぶつかる。器楽では当たり前のことかもしれないけれど、歌でもこういう音のぶつけ方をすることがとても新鮮で、好きなところの一つ。

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マイスタージンガーの重要な役の1人に書記ベックメッサーがいる。彼が登場するときはオーケストラに滑稽な音符が書かれ、冗談というのか意地悪というのか、ワーグナーの筆が冴え渡る感じがする。(弾くのは易しくない。)
ベックメッサーがリュートを弾きながら歌う場面、旋律はシンプルなのだけれど、それに絡むチェロとヴィオラの断片は、ワーグナーさん、よくも書いてくれましたね、という感じで、僕たちの緊張感は高くなる。
ハンス・ザックスに邪魔されながらベックメッサーは歌い続け、さらに楽器が増えて、クラリネット、ファゴット、ホルン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス(どちらかと言うと、地味な楽器ばかりだ。この間、いつもは忙しいヴァイオリンの人たちは暇そうにしている、ようにみえる。)が絡む。この滑稽味あふれる部分だけ取り出して聴いたら、かなりおもしろいだろうな、と思う。

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ベックメッサーの歌の後、大騒ぎとなり、それが落ち着くと再び夜警が登場して11時を告げ、2幕は間もなく終わる。
最後にファゴットが、ベックメッサーが何度も歌った旋律を回想するように吹くのだけれど、この見事な楽器の使い方を、R.シュトラウスが若いカール・ベームに、まさにファゴットでしかできない表現、と言った、と大野和士さんがリハーサル中に教えて下さった。
その話を聞いて、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の第1楽章の終わりの、ファゴットの見事な使い方を思い出した。(写真は長哲也君)

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第3幕の前奏曲は素晴らしい。それまで多くの歌や楽器の音が重ねられてきたのに、伴奏のないチェロの旋律だけで始まる、こうしたコントラストのつけ方は見事だと思う。その旋律が他の弦楽器に受け継がれ、声部が重なっていき、ホルンとファゴットの広がりのあるト長調の音楽につながり、突然強い感情のフレーズが現れる。わずか数分の前奏曲の中で様々なドラマを経験する、それは第2幕の軽さや騒ぎから一転して、親方ハンス・ザックスの内省を予感させるようだ。

マイスタージンガーは全音階を使って多くが書いてある。ドレミファソ・・・、がたくさん出てきて、当たり前のようだけれど、第3幕第2場で半音進行が特徴的な「トリスタンとイゾルデ」からの引用が現れると、あぁそうだった、と思う。
長大な作品を、ある書法をあまり使わず、一つの書法で書くのは、よほど力がないと難しいのではないだろうか。長編小説を、一人称(「私」とか「僕」)を使わないで書く、と決めるように。
「トリスタンとイゾルデ」も是非弾いてみたいと思う。

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第3幕の後半、第5場に、7小節フレーズで100小節以上踊りの場面がある。7小節フレーズがこれほど続く音楽は知らない。西洋音楽の基本は4+4の8小節と思うけれど、ワーグナーはそれを崩したかったんだろうと想像する。
聴き手は7小節を意識しなくても、何となく落ち着かず、劇が早く進むように感じるかもしれない。7小節フレーズを繰り返すことは面倒なことだっただろうと思う。このオペラは手間を惜しむ姿勢がまったく感じられない。
電気の無い時代、緻密で膨大なスコアを全て手で書いた人がいたことは、本当に驚くべき事だ。

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歌詞もワーグナーが書いている。Sさんが教えてくれたのは、言葉がしばしば脚韻を踏んでいること。そう言われてスコアを見て、目からうろこが落ちるようだった。
第3幕で騎士ワルターの歌を、ハンス・ザックスの歌と勘違いしたベックメッサーが頓珍漢に歌うところがある。言葉遊びというか、言葉の言い間違いをうまく使って、おもしろおかしく書いてあるのだろう、と想像する。ドイツ語に堪能な人にはどのように聞こえるのだろう。

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オーケストラピットに入っている我々は楽譜を見て弾く。舞台の上の歌手は、プロンプターが助けてくれるとしても、決してメロディックとは言えない歌をどう覚えるのだろう、と不思議に思っていた。
歌手の中に同級生がいて彼が、主要な役は2年がかりで準備すること(カバーキャストも含めて)、ある重要な役の人はリハーサルの時からすでに楽譜を持たずに歌っていること、を教えてくれた。

1カ月のリハーサルの間に自分も少しずつオペラにフィットしていくことがわかった。目の前の音符を追うことに必死だったのが、進行が体に入り、聴くべきパートに自然と耳がいくようになり、歌をいつも追えるようになり、・・・。処理しきれない音符で散らかっていた頭の中がだんだん片付き、全体を少し遠くから眺められるようになり、落ち着いていられるようになった。自分が少し広くなった気がした。

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書いても書き切れない壮大な世界が、1人の人間から生まれたことに驚くばかりだ。世の中にワグネリアンと呼ばれる熱狂的なファンがいて、バイロイト音楽祭が開かれることが理解できるようになった。素晴らしい経験だった。

今は11月に予定されている新国立劇場での公演が予定通り行われることを願うばかりです。

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