ミュート、松脂、メトロノーム
軽い、という理由で使っていたミュートが、経年変化で硬くなり、溝の幅と駒の厚みとの関係もあって、弾いている時に外れるようになった。
浄夜や新世界など、音量が増えた先でミュートを外す曲の場合、それで都合の良い時もあるのだけれど、新しくした。
驚いたのは一つ穴のミュートを久しぶりに付けてみた時のこと。ミュートを使わず、テールピースの上で弦にかかっている状態で、これまで使っていたものと、明らかに音が違う。
これまでのものは軽く、演奏中にテールピースの上で踊ることがあった。一つ穴のものは、バランスの問題なのか、重さの問題なのか、僕のチェロでは共振することなく、同じ姿勢でじっとしている。
ウルフキラーを駒とテールピースの間に固定して使うのだから、このセクションに一定の重さのものを乗せれば、音が変わるのは当然のことだろうか。
ミュートには一つ穴、二つ穴、金属製のもの、これまで使っていた軽くて裏面に磁石が付いているもの、など様々ある。楽器によってきっと相性があり、少し気にするとよいことなのかもしれない。
オーケストラの同僚に教えてもらって使うようになったのが、アルゼンチン製のジュンバ(Yumba)という松脂。
松脂はすでに沢山持っていて、もう増やさないと決めていたのだけれど、試させてもらったら大きい音がするので、買いに行った。
ヴァイオリン用、チェロ用に分かれ、さらにオリーヴァ、ビー、タンゴの3種類ある。
僕の印象ではオリーヴァがかたくて子音が出やすい、ビーは一番ひっかかりがあり、タンゴは濃くて、固まる前のアスファルトを踏んでしまった時のような(踏んだことはないけれど)ぬるっとした感じがある。音が飛ぶのは、もしかしてタンゴかもしれない。
角の立ちにくい弓にはオリーヴァ、ビーが中庸な性格で(それでもかなり強い気がする)、子音が多く出る弓にはタンゴを使っている。
小さい頃、テーブルの上に置いてあった松脂を弓に塗ったら、見ていた祖母が、それはそういうものか、飴だと思って口に入れるところだった、と言ったことを思い出す。
(祖母はおそらく、音楽の教育をあまり受けてこなかった人だけれど、子供が楽器を弾く姿はじっと見ていて、練習が嫌だったり、何かができなくて僕がかんしゃくを起こすと、よくたしなめられた。)
松脂と弓の相性はあり、それによって弓は変わる。弓と楽器の相性ももちろんあり、そこに弾く人間も入るから、多くの要素が絡み合い、影響し合い、様々に変化する。同じ弓でも、どうしてこんなに音が変わるのだろう、と毎日思う。
最近、4年以上使ってきた弓について、あぁこう使うんだ、と思う時があった。自分の不明を恥じるばかり、これまでその弓を十分に生かせてこなかったということだ。製作者の穏やかな表情を思い出し、あらためて、あなたはどんなノウハウを弓の製作にこめたのですか?と尋ねてみたくなる。
昨年末にメトロノームを新しくした。ずっと電子式のものを使ってきたのだけれど、音が平らで硬く、長く使うと耳が疲れてくる。
昔ながらのゼンマイを巻き上げる機械式メトロノーム、水平な場所に置かないとリズムが偏るかな、と心配したのだけれど、意外に大丈夫で、立体的な音が心地よい。唯一の問題は、テンポ表示の数字が小さくて見づらいこと。
モーツァルト弾きとして高名だったピアニストが、日本のオーケストラと共演するために来日した時、ずっとメトロノームを使って練習していた、と聞いたことがある。
彼女ももしかして、このメトロノームを使っていたのだろうか。
ところで、乾燥する季節に使うダンピット、しばらく入荷していないそう。使わない方がいい、と言う人もいるけれど、お使いの方は手持ちのダンピットを大切に使った方が良さそうです。
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