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2023年8月

2023年8月18日 (金)

耳を開く

教えている大学オーケストラのチェロパート(いま夏休み中で、しばらくすると合宿があります)に向けて書いた文章を下記に。少し手を加えてあります。


・・・・・・・


チェロの皆様


今回は少し専門的なことを書いてみたいと思います。興味の持てるところまで読んで頂けたら幸いです。

ご存じの通り、管弦楽作品には多くの楽器が使われ、多くの音があります。
同時に多くの音が鳴っている時、その多くの音をどうとらえて、どう聴いているのか、きっと人によって驚くほど、違うと思います。
ピアノの経験がある人は、より多くの音を同時に聴けているのではないか、と思います。あるいは、たくさんの楽器の中で1本の旋律線だけ、好きな楽器の音だけ、自分の楽器の音だけ、聴いているかもしれません。

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音楽はどのように聴いても自由ですが、オーケストラの中でチェロを弾く時には、周りで起きていることをできるだけ正確に把握し、それに対して適確にふるまうことが大切と思います。
急にはできませんが、時間をかけてこつこつ続けると、少しずつ同時に耳に入る楽器の数が増え、同じ曲が違って聞こえてくるのではないか、と思います。是非それを経験して頂きたいです。

最初から耳だけで多くの音を聴き分けるのは難しいので、目の働きを借り、スコアを開いてみましょう。
楽器が多すぎず、少なすぎず、構成の見えやすい曲、例えばベートーヴェンの交響曲第5番(「運命」と呼ばれます)、ブラームスの1~4番、ドヴォルザークの8、9番、チャイコフスキーの5番などが良いのでは、と思います。
図書館などで借りるか、それほど高価なものではないので、好きな曲を見つけて買ってもよいかもしれません。知っているつもりの曲は、数年たってもう1度触れると、まるで違った顔で現れます。1冊のスコアは長い時間、輝きを保ち続けます。

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交響曲1曲の中には本当に多くの音が書かれています。1度に全部を見るのはなかなか大変なので、まず一つの楽章を読んでみましょう。できるだけ丁寧に、時間をかけて。頭ではなく体に取り込むように。1日に一つのパートで充分かもしれません。
広く浅く、多くのことに触れるより、一つのことを徹底して身につける方が、結局早いと思います。

音を聴きながら、スコアを眺め、まず耳に入ってくる主要な動きを追いましょう。第1ヴァイオリンやオーボエ、フルート、といった楽器が担っていることが多いです。その主要な動き(旋律)は様々な楽器に移り変わっていきます。

その曲の外観を眺めたら、次は5部の弦楽器を見ましょう。
オーケストラは4つの楽器群、弦、木管、金管、打楽器に分かれていますね。人数の多い弦楽器は、オーケストラの母体を形成しています。まず弦楽器の中で主要な動きを担っているパートを追いましょう。根気と時間のある人は第1ヴァイオリンから順に、全てのパートを追うと、きっと様々な発見をするのでは、思います。

第1ヴァイオリンは何と言っても花形です。第2ヴァイオリンとヴィオラは旋律の3度音程下で支えたり、ハーモニーを構成したり、リズムを作ったり、フレーズの変わり目で次への橋渡しをしたり、目立ちませんが、とても興味深いパートです。作曲家の考えに触れられる気がします。
チェロを聴く時は同時に、コントラバスの動きも追いましょう。コントラバスと同じ動き(ユニゾン)の時は、オーケストラ全体のバス(低音)を担っています。その時はコントラバスの響きの中に入り、オーケストラを支えるイメージを持ちましょう。そうでない時は輝かしい高音で旋律を弾いたり、対旋律を弾いたり、ヴィオラのように中声部を担当したりしています。ドヴォルザークの「新世界より」ではコントラバスとチェロの役割が逆転しているフレーズがあります(珍しいケースと思います)。全体の中の、自分の立ち位置を把握してみましょう。

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次は木管楽器を。
オーボエ、フルート、クラリネット、ファゴットの4つの楽器があります。音域で言うと、オーボエとフルートはヴァイオリン、クラリネットはヴィオラ、ファゴットはチェロに重なります。
弦楽器群と木管楽器群は似た使い方をされることも、違う使い方をされることもあります。同じ高音楽器のオーボエとフルートが、音色によってどう使い分けされているのか。ピッコロフルート、Esクラリネット、バスクラリネット、コントラファゴットといった高音、低音楽器がどのように使われているのか(重要な部分を強調しているかもしれません)も聴いてみましょう。

西洋音楽の重要な要素の一つに和音があります。
和音は3つ以上の音から構成されますが、基本となる三和音も、さらに一つの音を重ねて、4つの音で鳴らすと(例えば、ド・ミ・ソをド・ミ・ソ・ドに)、充実して安定した響きになります。
弦楽四重奏、混声四部合唱、4種類の木管楽器、ホルンも4本のことが多いです。

ホルンを聴いてみましょう。
4本の場合、この楽器の中でハーモニーが完結することがあるかもしれません。旋律や対旋律など重要な役割を担うことも多く、またチェロとユニゾンのこともあります。

トランペット、オーケストラの花形です。1番トランペットはよく聞こえます。2番3番が重要な働きをしていることがあります。注意深く聴いてみましょう。

トロンボーン、オーケストラで最も音の大きな楽器の一つと思います。大音量は自然と聞こえてきますが、例えばドヴォルザーク8番の冒頭のように、中声部で美しいハーモニーを作っていることもあります。表に出ていない時にも着目してみましょう。

ファゴット、ホルン、トロンボーンはチェロと音域が重なる楽器です。チェロと同じ動きをしているのか、違うのか、違う時はどう違うのか、そうしたことに興味を持って聴いても、楽しいかもしれません。

チューバ、ここぞという時に使われる印象があります。もちろん、静かな場面でも効果的に使われます。
例えば、「新世界より」では、静かな第2楽章にだけ、出番があります。また、ブラームスの2番の第1楽章、ヴァイオリンの主題で音楽が動き始める直前に、トロンボーン、バストロンボーン、チューバ、チェロで和音を構成します。その時のそれぞれの楽器の使われ方はとても興味深いです。

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打楽器、ティンパニを始め、様々な楽器がありますね。
ティンパニが使われるのは、曲の鍵となる場面が多いです。大音量の時はもちろん、小さい音で使われている時にも着目しましょう。作曲家がその音楽をどうとらえているのか、骨組みが見えるようです。

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例えばブラームスの4番ではトライアングルが絶妙な感じで使われます。作曲家の音のイメージが見えるようです。
「新世界より」やブルックナーの7番では、全曲中で1回だけシンバルの出番があります(版にもよります。ブルックナー8番では2回)。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番では、終楽章のシンバルの使われ方が印象的です。
打楽器の一音がオーケストラ全体の雰囲気を一変させることがあります。(チェロにはなかなかできないことです)

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ハープが使われている時は、もちろん注意を向ける必要があります。

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多くの人が参加し、多くの楽器から音が出るオーケストラでは、お互いの音をよく聴き、できるだけ速く、柔軟に反応することが必要と思います。
オーケストラを自動車に例えてみます。良い自動車とは何でしょうか。多くの部品で構成されていますが、全体が調和し、スムースに快適に動くものではないか、と思います。

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他の楽器の人には怒られるかもしれませんが、チェロをエンジンに見立ててみましょう。自分の技術を磨き上手になることは、エンジンを高性能にすることに似ています。でもそのエンジンが周囲と調和していなければ迷惑にもなります。
雨や雪の日は、エンジンのパワーはゆっくり慎重に上げなくてはなりません。難しいカーブを曲がる時も、アクセルの繊細な操作はきっと重要です。一方、リスクを背負い先頭に立ち、全力でオーケストラを引っ張らなくてはならないときもあります。
チェロ、という楽器からの視点ではなく、離れたところからオーケストラ全体を見ると、今自分が何をしなくてはならないのか、見えやすくなると思います。

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おそらく授業で習ったのでは、と思いますが、西洋音楽にはソナタ形式、という形式があります(乱暴に言うと起承転結のようなものです)。このことを理解しておくと、長大な交響曲でも、自分の現在位置がよりつかみやすくなります。

長くなりました、その話はまた別の機会にしましょう。

2023年8月16日 (水)

4月の日経新聞から

4月を振り返ってみる。

 

4月18日日経朝刊から、
『タイヤ世界大手の仏ミシュランのフロラン・メネゴー最高経営責任者は、タイヤの摩耗により生じる粉じんが規制される見込みの欧州連合の新たな排ガス規制に関して、「我々が長年取り組んできた課題だ」との認識を明かした。タイヤ業界では事業への懸念もあがるが、粉じん抑制をめぐる規制のあり方について、同社がリードしていく考えも強調した。』

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4月20日日経朝刊から、
『国連人口基金は19日、インドの人口が2023年半ばに中国を抜いて世界最多になるとするデータを公表した。インドは14億2860万人、中国は14億2570万人と推計しており、インドが約290万人上回る。』

4月27日日経朝刊から、
『国立社会保障・人口問題研究所は26日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。2056年に人口が1億人を下回り、59年には日本人の出生数が50万人を割る。』

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4月10日日経朝刊から、
『東京都が新型コロナウィルス感染症に関して都内に住む20~70代にアンケートを実施したところ後遺症を疑う症状が2カ月以上あったとする回答が25.8%に上った。割合は若年層ほど高かった。』

4月13日日経朝刊に掲載された、英国薬剤耐性特使サリー・デイビスさんの記事から、
『薬剤耐性(AMR)関連の死者数は世界で年間400万人以上に達する。心臓病、脳卒中に次ぐ死因の第3位となっており、「静かなパンデミック」とも呼ばれる。新型コロナウィルスの感染拡大に気をとられている間に抗菌薬の使用が韓国などで劇的に増えた。結果として病原菌の耐性は高まり、状況は悪化したと考えられる。』

4月1日日経夕刊から、
『内閣府は31日、自宅にいる15~64歳のひきこもりの人は、全国に146万人との推計値を公表した。半年以上、家族以外とほとんど会話をしないなどの人と定義。5人に1人が新型コロナウィルスを原因に挙げた。』

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4月18日日経朝刊から、
『人工知能開発スタートアップのアラヤとホンダ子会社の本田技術研究所は自動車運転時の脳活動の分析に成功した。運転が得意な人は物体の位置や動きを把握する能力が高く、危険予測が早いことがわかった。・・・
 ・・・運転が上手な人は空間認知をつかさどる脳の部位が一般の人よりも早く反応していた。』

4月24日日経夕刊から、
『国立障害者リハビリテーションセンターによる発達障害者の感覚をめぐる調査で、特定の音が苦手といった聴覚過敏が「最もつらい」との回答が53.7%を占めたことが分かった。複数人の会話が苦手な人も見られる。』

4月5日日経夕刊から、
『氷で患部を冷やす「アイシング」は、けがの程度が軽い場合は筋肉の回復を促すとの研究結果を神戸大の荒川高光准教授らのチームが5日までに発表した。チームによると、これまでアイシングの効果について十分な科学的根拠は示されていなかった。』

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4月22日日経夕刊から、
『地球の約6分の1である月面の重力があれば、体を支える筋肉の量が減るのを抑えられる一方、持久力が弱まるといった筋肉の質的な変化は抑えられないとの研究結果を、筑波大と宇宙航空研究開発機構のチームが21日、発表した。将来の有人月探査などに向けた基礎データになるとしている。』

4月19日日経夕刊から、
『脳は、目で見た物から刺激を受ける。その反応を分析し、人の手ではなくコンピューターによって、見た物を画像にする研究を大阪大の高木優助教(システム認知科学)らが進めている。・・・
 まず見た刺激を受け取るのは後頭部にある初期視覚野。この反応から粗い画像を作り出す。
 次に見た情報を解釈するのが脳底部の高次視覚野。この反応から「クマ」や「空を飛ぶ飛行機」などの意味を読み取る。2つを組み合わせて画像化する。』

4月23日日経夕刊から、
『京都大病院の池口良輔准教授らのチームは25日までに、細胞を材料にして立体的な組織をつくる「バイオ3Dプリンター」で細かい管を作製、手の指などの神経を損傷した患者3人に移植する治験を実施し、神経の再生を確認したと発表した。副作用や合併症はなかった。』

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4月2日日経朝刊から、
『探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」から持ち帰った試料を調べた初期分析が完了した。液体の水やアミノ酸といった生命の起源に迫る物質を見つけたほか、太陽系の成り立ちを知る手がかりを得た。』
『東北大学などの研究チームは森林の地面に生えたキノコに電極を取り付け、会話とも思える電位の変化をとらえた。雨をきっかけに電位が大きく変化し、隣のキノコに伝わっていた。』

4月9日日経朝刊から、
『長崎大学などの研究チームは海底に生息する甲殻類の一種である「オオグソクムシ」が1回の餌で約6年間生きられるだけのエネルギーを摂取できる可能性があることを突き止めた。最大で体重の45%にあたる量をとるという。・・・
 水温セ氏10.5度で、一般的な大きさの体重33グラムの場合、1年間のエネルギー消費量は約13キロカロリーだった。ご飯に換算すると10グラムにも満たない。』

4月26日日経朝刊から、
『災害時に飛行機型ドローンを飛ばし、被災状況を高速撮影する活動を続けるNPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」。古橋大地理事長は撮影した地図データを国や消防などに提供、救助活動を後方支援する。』

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4月27日日経夕刊から、
『身長約6.1メートルの巨体とまっすぐに伸びた白い手足、無表情の顔。名古屋駅前の巨大マネキン「ナナちゃん」が今月28日、50歳の誕生日を迎える。百貨店の宣伝のために建てられたが、やがて駅のシンボルに成長した。』

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4月25日日経夕刊から、
『月刊音楽誌「レコード芸術」が7月号(6月20日発行)で休刊すると発表し、波紋が広がっている。・・・
 ピーク時には月間約400作品のクラシックCDが発売され、批評の対象となっていたが、現在は100作品ほどまでに減り、レコード会社からの広告出稿が落ち込んだという。読者の85%が50~70代で高齢化も進む。』

4月18日日経夕刊から、
『時間貸し駐車場(コインパーキング)の駐車料金が上昇している。新型コロナウィルス下で駐車場数が減った中で利用が回復し、東京23区では平均料金がコロナ流行前を約1割上回る。』

4月30日日経朝刊から、
『ChatGPTなど話題の生成人工知能(AI)は人間のような自然な文章やイラストをつくりだす。脳の神経回路の働きをモデルとする「深層学習(ディープラーニング)」と呼ぶ技術が基盤となる。登場して20年近くたつが、なぜ優れているのかはわかっていない。数学や統計学を駆使して謎解きに挑む研究が進んでいる。
 「深層学習はなぜうまくいくのか。正直に言えば、よくわからないところがある」。深層学習の原理解明に取り組む東京大学の今泉允聡准教授はこう話す。』

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4月29日日経プラス1に掲載された小説家、小川洋子さんの記事から、
『「物語は世界のどこかに、ひっそりとあらかじめ存在しているのだと思います」。例えばそれは、はるか遠い場所にある太古の時代からの洞窟の壁画のようなもので、誰かが見つけてくれるのをひそかに待っている。「自分はなんとか洞窟にたどり着いて、それを描写するだけ」』

4月3日日経夕刊に掲載されたハイデイ日高会長、神田正さんの記事から、
『私も中学生と偽り、小学6年生から4年間、週末はキャディーをして家計を支えた。・・・
 貧乏暮らしでツイてない人生だと思ったが、人を見極める目を養えたのは収穫だった。クラブの受け取り方などちょっとしたしぐさに人格は表れる。飲食店を出店するときには大家から多額の保証金を求められる。返還されるとは限らないのだが、大家を見る目には自信があった。これまで一度もだまされたことはない。』

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4月13日日経朝刊に掲載された、村上春樹さんの記事から、
『「・・・僕自身は意識と無意識を行き来するうちに立体感をつかむという方法論をとっており、それまでの日本文学の流れとは異なる。・・・」
 「影というのは潜在意識の中の自己、もう一人の自分なのですね。相似形であると同時にネガでもある。それを知ることは自分を知ることになる。とりわけ長編小説を書く場合は(潜在意識を)深くまで掘っていく必要がある」
 「40年でフルマラソンを40回走った。体力は大事。もし走っていなかったら人生がどうなっていたかわからない。・・・」』

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