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2024年4月

2024年4月29日 (月)

その音符の連なりは

時間のある時はできるだけ、ピアノに触れるようにしている。
カザルスは毎朝バッハの平均律を弾いたそうだけれど、僕はインベンションをよちよちと。

Y先生の書いて下さった指使いをたどりながら、学生時代もう少し練習していたら、と思う。副科ピアノのレッスン、ろくにさらっていないのに、のこのこ顔を出したり、あるいは二日酔いで休んだりと、まったくけしからん生徒だった。

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インベンションもチェロ組曲も、他ならぬバッハの音楽と思う。ピアノで弾いても、チェロで弾いても、心の中でも、その音符の連なりはいったいどんな流れや動きを持っているのか。多くの音符の中のどんな一つもおろそかにできない、と感じる。

2024年4月18日 (木)

5月18日の演奏会

今年もプリモ芸術工房で演奏会をさせて頂くので、そのお知らせです。

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この何年か、またコダーイの無伴奏を弾きたいと思うようになりました。
チェロのレパートリーの中でこれほど血湧き肉躍る曲は他にあるでしょうか。調弦を変え、シとファ#、ド#、そして♮と#の二つのレが支配するこの曲の深く、広い世界に入っていく時間は本当に素晴らしいです。

ヒンデミットの無伴奏は5つの小さな曲を持ち、演奏時間10分ほど。そこでは大きさも、形も様々な生き物たちが現れ、悪戯っぽく動き回るようです。

4年前、感染が広がって音楽会もなくなった時、バッハの2番を弾いていました。バッハの2番でもさらってみるか、そんな軽い気持ちでした。
2番でも。・・・・・。とんでもありませんでした。自分の浅はかさ、思い込み、様々なことに向きあうことになります。その痛切な時間は、再び日常が戻り、演奏会の舞台に上っていく自分の核となっています。

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バッハの組曲は子供の頃から弾いてきました。1番の組曲を初めて弾いたのは小学5年の時です。
今回、1番も2番も楽譜を作り直し、改めて取り組んでみて、様々な技法を駆使する長大なコダーイ(演奏時間は30分を越えます)、チェロを弾く者にとって大きな道標であるコダーイよりも、ずっと情報量が多いのではないか、と感じるようになりました。
大きな流れを構成する様々なフレーズ、それぞれのフレーズはどのような動きを持っていて、フレーズの中の一つ一つの音は何を求めているのか、その音をどう弾いたら良いのか、どんな奏法が音楽の表現にかなうのか。

オーケストラの仕事をしていると、例えばチェロが旋律を受け持つとき、10人いるセクションの中で自分がどう振る舞えばよいのか、あるいは指揮者がいて、他の様々な楽器があって、様々に絡み合って音楽を作っていくとき、捉えきれないほど多くの情報があり、常に変化していく状況の中で、どう行動するのが良いのか、いつも広く深い世界にいることを感じます。

無伴奏のレパートリーを弾いていても、同じように広く深い世界を感じます。その音楽にふさわしい表現をするために、どうしたら良いのか、何が必要なのか。たった1人でそのことに取り組む毎日です。

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画像に、予約開始は4月21日から、とありますが、今日4月18日21時から受け付け開始です。リンクを下記に。
5月18日15時開演、プリモ芸術工房は東急目黒線、洗足駅すぐ近く。小さく、心地良い響きの会場です。

https://primoart.jp/event/event-160873/

皆様のお越しを心よりお待ちします。

2024年4月 5日 (金)

とんかつ屋

昨年末、弦楽四重奏で2つの演奏旅行があり、その度に皆で撮った写真を共有した。

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驚いたのは食べ物の写真が多かったこと。もう一つ、僕は食べ物の写真を撮らないことにも気付いた。
SNSに投稿する対象で、食べ物は多いと思う。僕は上げたことがない。さほど執着がないのかもしれないし、食べる、という人間の根本的な欲求に関わることだから、あるいは、アレルギーや体質、健康上の問題から、思想、信条の観点から、経済的な理由から、など様々な事情で、食べたくても食べることのできない人たちがいることを思ってしまうから、かもしれない。

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最近、家の近くに小さなとんかつ屋があることに気付いた。
見過ごしてしまいそうな古い建物の引き戸を開けると、店内は10人も入ればいっぱいになるくらい。驚くほど清潔で、ご夫婦だろう、寡黙なお二人が厨房に立つ。インターネットの口コミを見なければ入らなかった。

ご飯がふっくら、丸くきれいに腕に盛り付けられ、他も万事同じように手を尽くされている。とんかつももちろん美味しく、値段を見て、もうけはないだろうと思う。

この店には休みの日の昼を食べに行く。長年、淡々と丁寧な仕事を積み重ねてこられたのだろうお二人の姿に心打たれ、清々しい気持ちになって帰ってくる。

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以前住んだ町の、駅前のとんかつ屋にはよく通った。
熱烈なジャイアンツ・ファンのマスターと、いつも和服を着ている奥様が営まれていて、入るとすぐ、長くまっすぐなカウンターが目に入る。当時20代の僕には、背中を丸めては座れないような雰囲気があった。

巨人が負けた翌日店に行き、置いてあるスポーツ新聞を手に取ると、今日は読むところがない、とむすっとした声でマスターが言う。
昔、店内のテレビで巨人の旗色の良くない試合を映していたとき、ある著名なチェリストが巨人軍のことを悪く言ったら、マスターの逆鱗に触れ、出入り禁止になった、という伝説を聞いたことがある。

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カツ丼はやらないのですか?、と尋ねたら、あれはそば屋とかうどん屋の範疇だから、とマスターがぶつぶつ言い、黙ってしまったので、これは聞いてはいけないことだったんだ、とその時思った。

あの頃、本当に朝起きられなくて、昼の12時半まで寝ていることがよくあった。
一度、夕方4時くらいに行ってとんかつを注文した時、マスターに、君それは何ご飯だ?、と聞かれたことを思い出す。

マスターも奥様も亡くなられ、今は息子さんが店を継いでいる。ずいぶん以前のことのはずなのに、昨日のことのように思い出す。

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