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2025年4月

2025年4月24日 (木)

5月24日の演奏会

今年も5月にプリモ芸術工房で演奏会をさせて頂くので、そのお知らせです。

今回のプログラムはプーランクのソナタを弾いてみたい、ベートーヴェンの3番を弾きたい、という気持ちから始まっています。
いったいその曲をどう捉えるのが良いのか、どのように音を出し、そのフレーズをどう弾くことが、その音楽に適うのか、試行錯誤する毎日です。

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普段オーケストラの仕事をしていて恵まれていると感じることの一つに、同じ人間とは思えないほど高い能力を持つ人たちと日常的に接する、ということがあります。彼ら彼女たちと自分は、いったい何が違うのか、そういうことにいつも興味があります。
ご存じのように自分の体と心は、驚くほど、思うようにならないものです。例えば100mを10秒で走りたいと、どれほど強く念じ、どれほど厳しいトレーニングを積んでも、ほとんどの人には困難な道のりですね。

でもきっとどこかに自分の体と心にアクセスする場所や方法がある、そう思って毎日チェロを手にしています。自分の出す音や、その時の体や心に耳を澄ませていると、自分を司っている何かを、ほんの少し感じられるような気のするときがあります。
残念ながら僕は初めてチェロを手に持った時の記憶がなく、いつ始めたのか定かではありません。でも少なくとも50年たちました。年数のわりには、呆れるほど進歩が遅く、今でもこんなこともわかっていなかった、知らなかった、と感じることは多いです。
目の前にうずたかく積もる、こんがらがった糸の山があって、その絡み合った結び目を一つずつほどいていく。一つほどくと、次にほどくべき結び目が見え、毎日それを繰り返していると、いつの間にか山は少し低くなって、見通しのきくものになっている。楽器を練習するとはそういうことのように感じます。

昨年の演奏会ではコダーイの無伴奏ソナタを弾きました。広い部屋を借り、事前に何度も通し稽古をしました。30分を超えるこの曲を弾く度に、毎回予想もしないことが起き、いつも不思議な感じがしました。(誰もが知るアメリカの有名オーケストラに所属する方が、定期公演の度にその3回の舞台がどのようなものになるか予想するけれど、当たったことがない、と仰っていたことを思い出します)
もしかして、生まれてからこの方一度も離れたことのない自分の中にこそ、本当のフロンティアがあり、冒険するべき所があるのかもしれない、とも思います。

今年は再びピアノの長尾洋史さんにご出演頂きます。どのような演奏会になるのか楽しみです。
プリモ芸術工房は広くはありませんが、響きの良い、素敵なスペースです。予約受付は今晩4/24 21時からです。リンクを下記に。

https://primoart.jp/event/event-167015/

皆様のお越しを心よりお待ちします。

2025年4月 3日 (木)

東北旅行

リハーサルの後、東北新幹線に乗り八戸へ。3月下旬、久しぶりに都響の東北公演があった。

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翌朝、八戸駅で早い時間の八戸線に乗るとYさんの姿があり、僕もご一緒させてもらう。列車の最前部、運転席の後ろに立ち、線路の先を見る。
八戸から種差海岸までの海は美しく、以前にも訪れたことがある。(2018年8月の日記「北へ」をご覧下さいhttp://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/post-9b7d.html
今回も海沿いを歩こうと思った。種差海岸駅で降り、2駅先の金浜まで海を見ながら歩くとちょうど次の列車に間に合う、という計算だ。
季節外れのあたたかさが嬉しい。

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再び八戸線に乗り、久慈へ。
空腹を抱えとんかつ屋に入ると、A君と一緒になった。公演は夜、ゲネプロまでまだ少し時間があるので初めての町を歩く。どの通りを歩いても、どの角を曲がっても、初めての光景が眼に入る。カメラを持って歩くのが楽しい。

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この日の公演は久慈市文化会館アンバーホール、立派な会場だった。

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翌朝再び八戸線に乗り、北に向かう。前日と同じように一本早い列車に乗り、2駅分海を見ながら歩く。この日は平内から階上(はしかみ)まで。

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階上で八戸線に乗り、前方に伸びていく線路の先を見る。車窓からの景色は様々に変化していくけれど、線路はいつも先に伸びていて、無心に見ている時間は心地良かった。
八戸で東北新幹線に乗り換え、郡山へ。黄砂の影響か、遠景が霞んで見える。

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今回は、いつもと違うチェロを使った。演目は下野竜也さんの指揮でドラゴンクエストⅤ。すぎやまこういちさんのドラゴンクエスト、西洋音楽の手法で書いてあるのだけれど、いつもの曲とは少し違う。いつもと違う楽器で、どう弾くとこの音楽にフィットした音やフレーズを生み出せるのか、工夫する時間だった。

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郡山の公演日は朝から強風が吹いた。昼、地図で見つけたヴェトナム料理店に向かう。はて、店はこのあたりのはずなのに、と通り過ぎると、建物の扉が開き、店主が出てきて、今日は風が強くて看板を出していません、とのことだった。店内に入れてもらい、ほっとする。吹き飛ばされそうな凄まじい風だった。

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夜の公演を終え、新幹線で帰京するはずが、遅い時間になっても、風の影響で列車の運行は大幅に乱れている、とのことだった。人であふれるホームや、朝になれば何事もなかったように回復するだろうことを想像し、郡山にもう1泊することにした。

果たして、翌朝は穏やかだった。昼前に東京に着くと桜が咲いていた。

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午後、旅の間弾けなかったピアノをさらう。いつものようによちよちと、でも旅の前にうまくいかなかったことがスムースに進む。
それから、チェロのゆるめておいた弦を調弦し、さらう。予定より少し伸びた旅の後、いつものチェロに触れるのは新鮮だった。同時に、あれ?という感覚もあり、セッティングを少し変えた。旅に行かなければ気付かなかったことと思う。

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今回の旅は海沿いをずいぶん歩いた。前回の旅で歩いた海岸を八戸線の車窓から見たとき、思いがけず感情が動いた。すっかり忘れていた7年前の心をありありと思い出した。
東北新幹線の速さは驚くほどで、徒歩の旅とは鮮やかな対照をなす。でも、その一歩一歩は体に深く刻まれる。

旅に出、普段の生活を離れる。旅先では思いもよらないことが起こり、普段頭を占めていた様々な物事はどこかに行ってしまう。再び日常に戻ってきた時、出掛ける前とは少し違う自分になっていて、音楽は違う姿を見せ、楽器も違う感覚で弾ける。
体と頭は同じ向きに使い続けない方が良いのかもしれない。

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