趣味

2021年3月24日 (水)

定点観測

毎年クリスマスを過ぎた頃、新宿と渋谷の決まった場所を、決まったアングルで撮ることにしていた。50ミリレンズをつけたカメラに白黒フィルムを入れて。

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3月になり、テレビに渋谷のセンター街が映し出されるのを見ていた時、2020年はそれをしなかったことに気付いた。すっかり出かけなくなり、そしてフィルムの現像とプリントで長くお世話になったラボテイクが昨年秋に閉じられ、写真に気持ちが向かなくなっていた。
眠っていたカメラを虫干しし、あまり使わなくなっていたカメラやレンズをいくつも手放し(それでもまだ何台もある)、よく使うものに絞った。少し心が軽くなった。

旅行に行かなくなったことは、それほど残念に思わない。でも大学オーケストラの合宿がなくなり、避暑地の奥、山道を登り切った行き止まりにある宿に行かなくなったことは残念に思う。コンクリートとアスファルトとガラスに囲まれ、排気ガスの臭いのする東京に1年以上いて、山のひんやりとした空気が本当に懐かしい。

暮れに同じ場所で写真を撮るようにしたのは数年前のことで、定点観測と名付けていた。毎年同じ時期に同じ場所の写真を撮ると、景観はもちろん、人々のファッションや表情など、思いもしない変化が写るかもしれないと考えた。スマートフォンが普及する前に始めていたら、もっとおもしろかった可能性がある。10年前、人々はもう少し姿勢が良くて、表情もあったのではないだろうか。
2020年の定点観測をしていたら、ほとんど全ての人々がマスクをしている、という点で2019年と大きく違っていたはずだった。

定点観測と言えば、ほぼ毎日、チェロを弾くこともそうかもしれない。18歳、大学受験前の数ヶ月を除いて、何十年も弾き続けてきた。チェロをかまえることは同じでも、時期によって見えている景色はずいぶん違った。嫌だったことも、意欲に燃えていたことも、辛かったことも、もちろん嬉しかったこともある。今は、息をするように自然に、何の色も持たず、毎朝弾き始めたいと思う。

どんな演奏が、演奏家が素晴らしいのだろうか。年を取り経験を積み、人によっては立派な経歴がついているのかもしれない。でもその時出した音や音楽を、一点の曇りもなく、ありのままに聴くことができたら、と思う。録音するとよくわかるのだけれど、自分のしていることを客観的に捉えることは本当に難しい。素晴らしい演奏家は、自分を客観的に見る能力がきっと優れている。
自分の問題はもう一つ、弾いている自分の感覚が第一になってしまうこと。楽しみで弾くならそれでいいのかもしれない。どう聞こえているかが最重要、ということに今頃気がついた。

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同じ匂いの中にいるとその匂いがわからなくなるように、毎日同じようにしていると鈍くなりそうなので、違う弓で弾いたり、違う楽器を弾いてみたり、違う弦を張ってみたりする。すると現在位置をよりとらえやすくなるような気がする。
最近発売された弦を2種類、張ってみた。今はラーセンのIl Cannoneを使っている。おもしろいのは音色が2種類用意されていること。同じ銘柄で張力違いを用意するのがこれまでの発想と思う。音色違いは初めてかもしれない。(テンションが高くなると音色は暗め、低くなると明るめ、と理解している。)"Direct&Focused"が標準で、"Warm&Broad"がオプション、ということらしい。
僕が求めたセットには、Direct&Focused4本に加え、お試しでWarm&BroadのA線C線が同梱されていた。名前の通り、DFは固め明るめの音色、WBは柔らかく暖かい。6本全て弾いてみて、A線はWB、他は全てDFにした。D線もWBを張ってみたいと思っている。楽器によってきっとかなり違う。

驚くほどスムース、というのが第1印象。僕は車に乗らないけれど、最新の高級車はこんな感じなのだろうと想像する。左手がシフトしても音がつながりやすい。張力は高いのに、響きが多いことはこれまでの弦にない特徴だと思う。そして、圧力の変化に対して音程が驚くほど安定している気がする。張ってすぐ使えるのも、現代風だ。
この高性能な弦には、どのような開発のプロセスがあり、どのような技術が使われたのか、興味深い。

もう少しA線D線の張力が低ければ、軟弱な僕にも使いやすいのだけれど。下から張り替えていったので、下2本がDF、上2本ヤーガーという組み合わせも意外に良かった。

ラーセンを使っているとだんだん楽器がこもるようになって結局外してしまう、というのがこれまでの経験だった。4本同じ銘柄を張ることはあまりない。この新しい弦をしばらく使ってみる。

2020年7月 7日 (火)

小さな店

今年に入って、これまでなかったくらい頻繁に湘南の海に通った。葉山から材木座、稲村ヶ崎、七里ヶ浜、江ノ島、鵠沼海岸、辻堂、茅ヶ崎、平塚まで。
もう何ヶ月海を見ていないだろう。写真も撮らなくなった。この日記に使う写真も底をついて、最近は自宅から見る空ばかりだ。夏の湘南は好きじゃないし、風が冷たくなった頃、波の音を聞きに行けるだろうか。

雑誌「SWITCH」5月号 は写真家ロバート・フランク特集。彼の有名な写真集「アメリカンズ」の序文はジャック・ケルアックによる。特集ではこの序文を柴田元幸さんが翻訳したものが掲載されている。その中から、

『ロバート・フランク、スイス人、でしゃばらず、優しく、片手で小さなカメラを持ち上げてはシャッターを切り、アメリカからフィルムへと悲しい詩をじかに吸い上げ、世界の悲劇詩人たちと肩を並べる。
 ロバート・フランクにいま、俺はこのメッセージを送る ー あんた、目があるよ。』

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そんなに食い意地はないし、こだわりもない。美味を求めて食べ歩くこともない。
渋谷のBunkamuraを過ぎて坂をもう少し上り、細い道を曲がった所に、たぶん僕より少し若いくらいの2人がやっていた小さな店があった。ランチのクスクスが素晴らしくて、Bunkamuraに映画を見に行くと寄るようになった。クリスマス時期、テイクアウトのパテやソーセージも美味しかった。
ある時、フランス料理に辛いメニューがないのはどうしてだろう、と思い、その店のシェフに聞いてみたことがある。愛想のとてもいい人たち、とは言えないのだけれど、話しを振ると楽しそうに話してくれた。フランス料理店のまかない飯に辛いものを出すと怒られる(繊細な味がわからなくなるから)とか、ホール担当は女性で、この人(シェフのこと)辛いものが食べられなくて、(私がつくる)カレーは甘口、とか。そんな会話で、あぁこの人たちは夫婦なんだ、と思ったりした。

昨年12月以来行っていなくて、4月頃と思う、何気なくお店のSNSを見たら3月で閉店、となっていて驚いた。感染とは関係なく、もともと閉めるつもりだったらしい。飲食店の困難が報道される中、少しほっとすると同時に、あの人たちは今どうしているのだろう、と思う。いつかどこかで再開して欲しいと思うけれど・・・。
その小さな店は音楽が流れていなくて、静かだった。そんなところも好きだった。

2020年5月23日 (土)

紙の工作

もし100年後にも世界があったとしたら、今起きていることはきっと、大きな出来事として記されているだろうと思う。
昔から第2次世界大戦に関する著作を読んできた。どのような道筋をたどり、いつ終わったか、結末を知った上で読んでいた。ひどい言い方をすれば、高みの見物だ。感染症に関してはA.W.クロスビー著「史上最悪のインフルエンザ」やエボラ出血熱に関する本を、内容をあまり覚えていないくらい以前に、読んでいた。
今起きていることは将来、どのように記述されるだろう。2020年5月の我々は現在進行中の書物の中にいるようだ。渦中で、それぞれがそれぞれの役割をふるまっていて、ただ自分のいるところがその本の1ページ目なのか、それとも少し進んだところなのか、わからない。

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テレビ東京の経済ニュース番組、WBSで二人の宇宙飛行士のメッセージが放映され、印象的だった。

4月29日の放送は若田光一さん、
『・・・宇宙の閉鎖空間に半年間滞在した時の経験から大切だと思うことは、これまでの普段の生活からリズムが変わらないように、平日は日課を決めて自分のすべきことのスケジュールをしっかり立てて過ごすことがまず挙げられます。・・・』

5月13日、野口聡一さん、
『・・・様々な閉鎖環境、孤立した環境で、いかに生き抜くかという経験をたくさんしてきました。その中で気づいたことは日々自分がその日にできることに集中するということです。・・・』

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朝起きて、楽器の練習をして。もちろんそれだけで1日は終わらないので、何年も前に買ってあったペーパークラフトの箱を開けてみることにした。子供の頃の僕は工作ばかりしていた、その名残でキットが買ってあった。
さて、工作を始めてみると、あの頃の熱中がすぐ戻ってきて、ものすごく楽しかった。紙やナイフ、接着剤の性質を読んで作業する。切り抜き、折り目をつけ、丸め、曲げ、接着し、毎日様々な景色が見えていたと思う。

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アップリフト社のキットは素晴らしい精度で、特に平らな紙から曲面で構成されるボディをつくっていく工程は、圧巻だった。立体的な構造をどのように平面に設計していったのだろう。コンピュータを使うのだろうか。一枚一枚は頼りない紙を立体に組んでいくと、かっちりとした剛性を得られるのもおもしろかった。

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子供の頃の工作が完成に至ることはあまりなく、大体ガラクタで終わっていたのだけれど、今回は一月ちょっとで完成した。不思議なことに完成に伴う高揚感はなく、やはり手を動かしている時間が至福だった。

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それにしても、このスバル360が今の東京を走っていたら、びっくりするくらい小さな車に見えるんだろうな。

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2019年12月11日 (水)

「マイ・フェイバリッツ」

池松さんの釣り、平田さんの砥石とともに、都響ホームページに趣味のことが掲載されました。よろしければご覧ください。
(月刊都響12月号P.38~39にも同じ内容で掲載されています。HPの方が写真が多いです。)

https://www.tmso.or.jp/j/archives/special_contents/2019/myfavorites/

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2018年4月22日 (日)

こつんと

ぐっと本数は減ったけれど、今もフィルムで写真を撮っている。久しぶりに古いカメラを持ち出した。露出計も付いておらず、ファインダーを覗くと35ミリレンズの撮影範囲を示すフレームと中央の距離計しかない。何かに心を動かされたら、明るさを計り、シャッタースピードと絞りを決め、1枚、多くて2枚を撮る。それは心地良く、すとんと腑に落ちる瞬間だ。そうして撮りためた中から、1年たち2年たっても印象に残っている写真を、6つ切りや4つ切りの大きさにプリントしてもらう。バライタ印画紙に丁寧に引き伸ばされた写真には、見入ってしまう美しさがある。

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「アサヒカメラ」5月号はモノクロ写真特集。
鬼海弘雄さんの記事から。
『訓練って、地味だけど、地味なことが必要なんですよ。大工さんが、かんなの刃を研いだり、鋸の目にやすりをあてたり、そういう地味なことをして仕事を覚えていく。地味なことをやるというのは、植物を大地に植えるのと、ベランダのプランターに植えるくらいの大きな違いがゆくゆくはある。同じような葉っぱで、同じような花が咲いたとしてもね。ものをつくるには、そういう面倒くささというか、不便さが必要かもしれない。デジタルなんか、その訓練がいっさいないわけでしょう。私は銀塩でやっているから面白い。面倒くさいし、お金もかかるんですけどね』

折しも富士フイルムが白黒フィルム「acros」の販売終了を発表したばかり(10月頃まではあるそう)。大きな企業が、この先売り上げが伸びるとは考えられない白黒フィルムや印画紙を終了するのは、ごく当然な判断と思う。技術の進歩で写真撮影はフィルムの様々な制約から解放された。画像の確認が容易になり、信じられないような高感度が実現し、撮影後の編集の幅も広い。時間がかからず、便利だ。
よく写真展に出かける。やっぱりフィルムはいい、と思うことも、このデジタルなら、と思うことも、どうしてこれを、と思うこともある。幸いなことに最近は落ち着いているけれど、時々デジタルカメラが気になり、手に入れ、しばらく目新しさに魅せられ、なぜか飽きて使わなくなり、再びフィルムを手にし、・・・。そうしたことを振り子のように何度も繰り返してきた。富士フイルムのデジタルカメラも使っている(X100F)。でもフィルムの美しく奥行きのある世界は、やはりフィルムの中にしかないと思う。心にこつんと当たるような、と言ったらよいのか。企業の経営は間違いなく非情なものと想像するけれど、一度その世界を失ってしまうと・・・。

キャノン・ギャラリーSで開かれている。ルーク・オザワさんの写真展「JETLINER ZERO」へ。素晴らしかった。(cweb.canon.jp/archive/luke-jetliner/index.html)
ルークさんは先日出ていたJ-Waveの放送の中で、空の中にある飛行機を撮る、という意味のことを言っていたと思う。まさにそういう写真だった。知っているはずの羽田、成田、新千歳、そういった空港がまるで別の世界のように見えた。


2017年11月27日 (月)

観音崎

午前中少しだけ勉強してから(このところバーンスタインの講義録を一生懸命読んでいる)観音崎へ。ぐずぐずしていた上に電車に乗り遅れ、目的地に着いたのは午後遅くだった。雲が厚く、いっそう空が暗い。毎年感じることだけれど、つるべ落としと言われる通り11月に入ってから追い立てられるように日が早く沈む。電車の中で調べてみたら東京は12月初めが最も日没が早いそう(16時28分)。おととしの11月にヨーロッパに行った時、日の短さと空の低さに閉口した。ストックホルムに着いた翌朝8時にカーテンを開けた時の驚きといったら。北国の人たちは毎年あの光の少ない季節を過ごすのだから、その粘り強さにはきっとかなわないだろうと思った。東京の冬の良いところはとにかく晴れて空が高いことだ。空気はかりかりに乾燥するけれど。

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観音崎をぐるりと歩いて、灯台にも上がった。16時の閉館ぎりぎりだった。ここの楽しいのは東京湾を出入りする実に様々なたくさんの船を見られること。そしてその後ろには対岸の千葉が見える。海や鳥、猫の写真を撮って、日没の頃バスに乗った。海沿いを走るバスの車窓からは写真を撮った海が見える。暗くなってからいっせいに灯台や対岸の工場の明かりがともり、幻想的な感じになることを知った。もう少しゆっくり過ごしてもいいということだ。
変わらず写真は大切な楽しみで、今はまた白黒フィルムで撮ることに戻っている。昨日観た写真展ではデジタルカメラによるモノクロプリント展示だった。(オリンパスギャラリー東京での清水哲朗写真展「Anchin」https://fotopus.com/event_campaign/showroomgallery/detail/c/732)プリントのクオリティも素晴らしく、もうデジタルだから、フィルムだから、という時代ではないなと思った。でもフィルムの良さは、カメラもフィルムもシンプルなことだと思う。ラボテイクにフィルムを出して帰宅。現像を受け取るのが本当に楽しみ。


2017年10月 5日 (木)

新しいレンズ

ずっと欲しいと思っていたマクロレンズ(接写用のレンズ)が手元に来た。マイクロニッコールの55ミリ/2.8。何十年も前の設計で小さいのによく写る。
窓際に鎮座して、空を撮る専用になっていた大柄なデジタル一眼レフの出番が増えた。足元には豊かな世界が。

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昔持っていたライカの伝説的なマクロレンズを思い出した。凄みがあったなぁ。手放したことを後悔している機材の一つ。それにしても、あの頃よくあんな身分不相応の買い物ができたものだと思う。
今度のマイクロニッコールは新宿のM商会で程度の良い中古を見つけた。知識の深いお店の人たちと話すのは楽しかった。

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遠くを撮ってもいい。高いところにも素晴らしい世界が広がっている。

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2016年11月 5日 (土)

写真のページを

久しぶりに写真のページを加えました。左の「2016 新宿」というところからも入れます。
http://ichirocello.cocolog-nifty.com/photos/2016_shinjuku/index.html

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2016年6月 1日 (水)

X70

たいていは家電量販店でその気もなしに手に取った、ということがきっかけになるのだけれど、時々カメラが欲しくなる。昔写真に夢中だった頃はそういうカメラは、ほぼ躊躇なく、しばらくすると手元にあった。今はできるだけ他ごとを考えるようにしている。

さて、気になっているのはX70という小さなカメラ。宣伝する訳ではないけれど、素晴らしいことに富士フィルムはカメラレンタルをしている。しかも1日なら無料。昨日、借りて小網代の森に出かけた。使い勝手がいいのに加えて、パートカラーという機能が楽しかった。決めた色以外はモノトーンになる。(前持っていたカメラにもあった機能だけれど、その時はまったく使わなかった。なぜだろう) これを持って街を歩くと楽しい。

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2015年8月22日 (土)

何年も棚で眠っていたロモのLC-Wというカメラを使った。

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フィルムは高価なものになってしまったし(まだ売ってるの?と聞かれる)、今の高精度なデジタルカメラにはまったく及ばないけれど、ピントが甘かったり、フィルムのざらざらする感じまで何だかいいな、と思ってしまう。(8月9日、16日の日記の画像もLC-Wで撮ったものです)

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