音楽

2020年9月18日 (金)

ベートーヴェンの3番

9月16日の都響公演、プログラムのメインはベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。
今年7月に新鮮な気持ちでベートーヴェンの1,2番を弾いた。そして今月、これまで幾度も弾き、オーケストラのレパートリーの重要な所に位置する「英雄」を、やはり初めて弾くような気持ちで弾いた。素晴らしい時間だった。

他の多くのベートーヴェン作品のように、「英雄」の始まり方も個性的だと思う。主和音が2度、強く打ち出されてから、第2ヴァイオリンとヴィオラの八分音符に乗ってチェロの旋律が始まる。

旋律が7小節目でド♯に行くことを、以前アラン・ギルバートは特別なこと、と言い、今回の大野和士さんもレからド♯に移る時を、と言った。本当に素晴らしい瞬間だと思う。変ホ長調の安定した響きの中に、一瞬翳りのようなものが見える。でも、まるでそんなことはなかったかのように、すぐに元の世界に戻る。

C836ecfc561b4f349886c407f4307e6d

作品61のヴァイオリン協奏曲ではティンパニの4つの音の後に、オーボエの旋律が続く。この冒頭は、主和音を2つ鳴らす「英雄」の経験の後に書かれたのだろうか。そして、ラズモフスキー第1番(作品59の1)の冒頭でも、第2ヴァイオリンとヴィオラの八分音符にチェロの旋律が乗る。(和声の構造や、旋律で始まる、という違いはある)
ラズモフスキーとの関連で言うと、「英雄」終楽章の404小節からの弦楽器のリズムは、ラズモフスキーの1番の、やはり終楽章に出てくるものとほとんど同じ。弦楽四重奏の方がテンポも速く、ずっと難しいけれど。

8b28d1ad8aad4bd5b205a21117f59d03

「英雄」の第1、3楽章は3拍子。この二つの楽章を弾いていると、3拍子のリズムの豊かさ、躍動感に充たされる。
今回スコアを見ていておもしろいと思ったのは、第1楽章の124小節からの四分音符。半ば習慣のように、2拍目より3拍目を弱く弾く。でもその弱く弾く3拍目にはトランペットとティンパニ、という強い音の楽器が入り、しかも入り方が不規則・・・。興味深いことに、再現部ではその二つの楽器は2、3拍どちらも演奏する。でも入り方はやはり不規則に見える・・・。

9a48c97fb9454b44b9aab38e4d94f90f

「英雄」のティンパニの使い方は素晴らしいと思う。特に終楽章のクライマックス、短い3連符のアウフタクトは大好きだ。

D9a1e0130d49452a80a16ed7fad65b33

2番の交響曲と比べた「英雄」の特徴は、スムースに旋律が運ばれていくことだと思う。そして、その理由を僕の身の周りで探してみると、チェロとコントラバスの働きが分化し始めていることではないか、と思う。例えば第1楽章の展開部、284小節からのフレーズでは、チェロは倍音の乗りやすい音域でオーボエを支え、コントラバスは変わらずバスパートを弾いている。

2e81593cb392452498472751133e4cb4

コントラバスの動きで言うと、第2楽章の冒頭は当時、どのくらい斬新だったのだろう。2020年の今でも、僕には斬新に響く。

6ae9413f0288472e88b4f08c3d87a07e

木管楽器と弦楽器の音域を考えた時、クラリネットはヴィオラに、ファゴットはチェロに対応すると思う。でも「英雄」の終楽章、373小節からのフレーズではクラリネットの6連符はチェロとユニゾン、ヴィオラはコントラバスとユニゾンで動く。作曲者はこの楽器の組み合わせにどんな色彩感を持っていたのだろう。

550334e8c18143a498781fb3bbdd4990

また、第3楽章の144小節からはファゴットとヴィオラがユニゾンで、少し軽い音域のバスパートを受け持つ。ここの感じは絶妙だと思う。

F771917963134d219de86f42a9afc4e5

終楽章の328小節からしばらく、チェロとコントラバスが16分音符でシ♭・ラ・シ♭・ラ・・・、と引き続ける。僕は7番の交響曲の終楽章でチェロとコントラバスがミ・レ♯・ミ・レ♯・・・、とやはり半音で弾き続ける箇所を連想する。

4c7d135d939841ff8f237b7d1e374608

16日の演奏会の前半は、やはりベートーヴェンの三重協奏曲。作品56のこの協奏曲は、短くて美しい第2楽章からアタッカでロンド形式の終楽章に入る。この書き方は作品61のヴァイオリン協奏曲と同じ。

前述のように、ヴァイオリン協奏曲はティンパニの4つの音で始まり、長大な第1楽章の間、4つの音の動機は陰になり日向になり、様々な楽器によって現れる。見事な書法だと思う。この書法をさらに推し進め、同じ動機を全曲を通して使ったのが、作品67の交響曲第5番ではないか、と思う。

Ec95a2ad9e054ccbbfe585e554ff2145

ずいぶん長いこと、ぼんやりと音楽に接してきた。それでも少しずつ、目や耳や心が開き始めると、その度にこうした音楽を作ってきた人たちのすごさに感じ入るばかり。

この日記ですでに引用したのだけれど、チャールズ・ブコウスキーがこんな文章を書いている。(2015年12月の日記です。http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-9a57.html)

『・・・クラシック音楽がわたしの拠点だった。そのほとんどをわたしはラジオで聴き、今も聴いている。そして今の今でさえ、力強くて、新鮮で、これまで耳にしたことのない音楽を聴くたびに、変わることなく驚かされている。・・・何世紀にも何世紀にもわたる、偉大な音楽の汲めど尽きない豊かな泉に、わたしは心底驚愕させられている。ということはそんなにも多くの偉大な人たちがかつて生きていたというわけだ。・・・ひょっとして、いつかそのうち、誰かが、どうしてクラシック音楽には驚嘆に値する人物のすさまじいまでのパワーが込められているのか、そのわけを教えてくれることにならないだろうか。・・・』

音楽に接していて、とうてい自分と同じ人間が書いたとは思えないことが、度々ある。でも最近、作曲家の大きさに圧倒される思いから、時々自由になることは大切なのではないか、と思うようになった。同じように、多くのエネルギーを注いできた音楽やチェロから自由であることも、きっと大切だと思う。

限りない畏敬の念を抱くこと、心からの愛情とエネルギーを注ぐこと、そしてとらわれないこと。そうしたことがほんの少しでも実現できたら、もしかして良い演奏に近づけるのかもしれない。

2020年9月15日 (火)

儀式のように

9月も半ばになって思い出した。9月はGREEN DAYの "Wake me up when September ends" を聴き、10月になったら聴かない。何年か前、FMから流れたのが耳に残り、9月に聴くことが儀式のようになった。
東京も秋の空気になり、夜の散歩から戻って、久しぶりに "Wake me up ・・・ " を聴き始めた。

このところの僕はクラシック音楽ばかり聴いている、と言っていいかもしれない。昨日からはプーランクのピアノ曲を。本当に素敵だと思う。その前はバッハのマタイ受難曲やロ短調ミサ、モーツァルトのレクイエム、シューマンの詩人の恋などを聴いていた。以前とは違う心のどこかに音楽が入っていく感覚がある。

GREEN DAYを聴いてうらやましいことの一つは歌詞。

"Here comes the rain again
 Falling from the stars
 Drenched in my pain again
 Becoming who we are

 As my memory rests
 But never forgets what I lost
 Wake me up when september ends"

こうした歌詞は、僕が普段接している音楽の範囲にはなかなかない気がする。21世紀には、21世紀に適した言葉があるのかもしれない。
そして "Wake me up ・・・ " を聴くといつも、まさにそこ、という場所で歌詞に絡むベースギターを弾けたら、気持ちいいだろうな、と思う。

2020年9月10日 (木)

シューマンの3番

今日からシューマンの交響曲第3番のリハーサルが始まった。僕がシューマンの素晴らしさに目を開かされて初めて(2020年8月の日記をご覧下さい http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2020/08/post-d6c6ef.html)、久しぶりに弦楽器14型の大きさのオーケストラで弾き、様々なことが思い浮かんだ。

第1楽章の再現部、ファゴットとチェロ、それからクラリネットとヴィオラで演奏される2小節フレーズは、ブラームスの3番の主題を思わずにいられない。そもそもシューマンの3番とブラームスの3番の冒頭のリズムは、こちらが3拍子のヘミオラ、あちらが6拍子という違いはあるにしても、似ている。ブラームスはシューマンへ敬意を表して、同じ番号の交響曲で同じリズムを用いたのだろうか。(二人はどちらも4曲の交響曲を書いた。)

14137a9861a540d4b238d2a3e35644a6

第4楽章の冒頭、管楽器のコラールに対する弦楽器の3連符のピチカートは、指揮の大野和士さんも言っていたけれど、第九の第3楽章のピチカートを思い起こさせる。

00d1b88b016b42cab34e49de717e0f7b

終楽章、148小節からの2小節間でクラリネット、ファゴット、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの演奏するシ・ラ・ファ・レ・・・、という音型はシューマンのピアノ五重奏、第1楽章繰り返しの第1カッコと全く同じ。フレーズの行き先の座りはピアノ五重奏の方が良いと思う。

Ae3ac76cb438461a8d51238b68bf28f8

やはり終楽章の255小節からのフレーズ。もしニ長調で書かれていたら、マーラーの「巨人」の終楽章、クライマックスへの入り口に聞こえるかもしれない。金管楽器の後のヴァイオリンの動きまで似ている。(もちろんシューマンが先に書いた。)

339b7cbac5b54a5caa8354e01f84942b

僕の一面的な聞き方でも様々なことが聞こえてくるのだから、つながりを思い起こさせる音型は、きっと他にも多くあると思う。(交響曲ではなく、そしてこれはよく知られたことと思うけれど、シューマンのピアノ協奏曲の冒頭、オーボエが吹く旋律のリズムは、シューベルトのアルペジョーネソナタの旋律のリズムと似ている。)
このような関連を感じるのは、勘違いかもしれない。あるいは優れた作曲家なら誰でも思いつくことなのかもしれない。でももしかして、作曲家たちは世代を越え、意識の下でつながっているのだろうか、と思う。地下深くの水脈を共有しているように。

066ae56a433a459bb67bf8acd88360a5

2020年9月 9日 (水)

体の動きから

9月6日の公演は東京芸術劇場の舞台を広く使い、後方に都響がいて、ラヴェルのピアノ協奏曲とアルヴォ・ペルトのフラトレスの2曲には、Noism Company Niigataのダンスが入った。

音楽は感情を表現することに適した形だと思う。そしてNoism Company Niigataの体の動きからは、不思議な感覚だったのだけれど、感情が見えるようだった。喜びや悲しみ、怒りになる前の、感情の原型とでも言うべき何かが現れていて、そのことに心を動かされた。視覚的なダンスと聴覚的な音楽、この二つは表現を共有しようとしている、そういう時間だったと思う。

1b995157314441089ab317f5c1a7f7e4

ラヴェルのピアノ協奏曲は第2楽章のみ。ピアノ(江口玲さん)とコール・アングレの美しいやり取りは今も頭の中で鳴っていて、幸せな気持ちになる。
ペルトのフラトレスは、学生時代にCDを買い、聞き、チェロアンサンブル版を弾いたりもした。自分の中で長く眠っていた音楽を、半年近い休止の後の演奏会で弾くことには感慨があった。(ヴァイオリンソロは矢部達哉さん)
そのCDには黒田恭一さんが1984年に書いた解説があり、このように始まっている。

『いつだってページはひっそりと捲られる。音楽のページの捲られたことにききてが気づくのは、新しいページが始まってからにきまっている。』

2020年8月31日 (月)

8月の日経新聞から

8月をふり返ってみる。

8月12日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染拡大に歯止めがかからない。世界の感染者数は10日、累計で2千万人を超えた。北米や中南米で感染拡大がやや一服する一方、アジアでの感染が勢いを増す。初期に厳しい措置で感染制御の成果を上げていた国でも経済活動の再開で流行が再燃しており、コロナ禍克服の難しさを浮き彫りにしている。
 感染拡大は加速している。6月28日に累計感染者数が1千万人を突破してから43日間で倍増した。1日あたりの新規感染者数(7日移動平均)は6月下旬に16万人程度だったが、最近は25万人前後に増えている。』

8月29日日経夕刊から、
『ドイツのメルケル首相は28日に記者会見を開き、新型コロナウィルスの流行について「今後数ヶ月で夏よりもさらに厳しい状況になる」と警告した。屋内での活動の増加などが原因で「事態は深刻で、あなた方も引き続き深刻に受け止めなければならない」と呼びかけた。』

8月30日日経朝刊から、
『世界で新型コロナウィルスの新規感染者の増加に歯止めがかかってきた。世界188カ国・地域のうち過半の107カ国で新規感染が抑制傾向にある。人口10万人あたりの新規感染者数は米国やブラジルで減少している。専門家はマスク着用や3密回避など予防策の普及が要因と指摘する。ただインドでは感染拡大が収まらず、欧州も主要国を中心に再拡大が続き、収束にはほど遠い。』

75b66a44ef6246eca4595d8541c8599e

8月6日日経朝刊から、
『厚生労働省は英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大学が開発を進める新型コロナウィルス感染症のワクチンについて、1億回分以上の供給を受ける方向で最終調整に入った。近く合意するとみられる。』

8月11日日経朝刊から、
『新型コロナウィルス感染症のワクチンを巡り、日本政府と英国などが共同で買い付ける枠組みが今年秋にも動き出す。2021年までに20億回分を確保する計画で各国の開発企業との交渉を本格化する。米中両国が独自にワクチン確保に動いており、日英などが共同チームで調達競争に臨む。』

8月6日日経夕刊から、
『米バイオ医薬ベンチャーのモデルナは5日、開発中の新型コロナウィルスのワクチンについて、1本の販売価格を32~37ドルに設定したことを明らかにした。大量購入の契約の場合はさらに安くするという。 ワクチンは2本の接種で1セットとなる見込み。1本あたり30ドル台の価格設定は米ファイザーが米政権と契約した20ドル弱を上回る。』

8月25日日経夕刊から、
『世界保健機関のテドロス事務局長は24日の記者会見で、新型コロナウィルスのワクチンに共同出資する枠組みに172カ国が参加表明したことを明らかにした。ワクチンの争奪戦が激しくなるなか、各国へ公平に行き渡るよう参加をさらに呼びかける。』

8月12日日経朝刊から、
『ロシアのプーチン大統領は11日、同国の国立研究所が開発した新型コロナウィルスのワクチンを承認したと発表した。新型コロナウィルスワクチンの承認は世界で初めて。ただ国際的に承認に必要とされる大規模な臨床試験を完全に終了しておらず、安全性を懸念する声も強い。』

8月4日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスのワクチンが完成しても3人に1人が接種を望まない ー 。ワクチンの開発は急ピッチで進むが、最近発表された世論調査では米国人の根強い「反ワクチン」感情が浮き彫りになった。感染拡大が続く米国にとって、コロナ収束を阻む壁の1つになりそうだ。・・・
 米ジョンズ・ホプキンス大のアメシュ・アダルジャ上級研究員は「新型コロナをある程度制御するには、少なくとも人口の75%がワクチンを接種する必要があるだろう」と指摘する。たとえワクチンができても拒否する人が続出するすれば、米国は集団免疫を獲得できず、感染拡大が止まらない可能性がある。』

Ad8ad0e9da3b4bd19ef7735862609d75

8月2日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに感染したが入院せずに済んだ若者でも、回復に時間がかかることが分かった。米疾病対策センター(CDC)によると、持病のない若者の約2割が数週間後も元の健康状態に戻らず、せきや倦怠感が続いた。CDCは「比較的軽症でも症状が長引く可能性がある」と指摘する。』

8月16日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの変異に関する研究が注目されている。英メディアで「ウィルスは弱毒化している」とみる専門家の意見が紹介されたことなどがきっかけだ。現時点でウィルスの危険性の低下を示す科学的な裏付けはない。ウィルスの変異は一定の確率で起こる。病原性や感染力がどう変化するか、世界規模の継続的な分析が重要だ。』

8月10日日経朝刊から、
『新型コロナウィルス感染症は、感染拡大から半年がたつのに謎だらけだ。最たるものが「回復した患者は免疫を獲得するのか」という疑問だ。・・・
 4月、「症状が改善した患者の3割で抗体が退院時にほぼなかった」とする復旦大学の発表が注目を集めた。欧米でも数ヶ月で消える人がいるという報告がでている。・・・
 国立感染症研究所の鈴木忠樹感染病理部長は「新型コロナが招く現象は、多くの人に共通する場合とまれな場合がある。きちんと分けて議論しないといけない」と話す。免疫の反応が通常の感染症と違う可能性もある。解明は困難を極める。』

8月21日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに感染しても重症化しにくい患者がいる理由として、新型コロナが登場する以前から流行する従来型のコロナウィルスに感染した「免疫の記憶」が働いたとする研究が注目されている。新型コロナに感染経験がない人の体から、新型コロナをたたく免疫細胞が相次いで見つかった。こうした免疫を持つ人は全体の2~5割いるとされる。』

0f865b5839324d4e9b8ccbe9e38a0750

8月24日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに感染し重症になる人がいる一方で、症状が出ない人もいる。新型コロナウィルスの体内への侵入に対し、ヒトの防御機構である免疫システムがどう反応するのか、依然として謎が多い。新型コロナへの免疫応答の研究で最前線にたつ米エール大学の岩崎明子教授は「炎症を引き起こすサイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質の総称)が重症化を見極める上で重要だ」と話す。
 ー 新型コロナに対する免疫応答でこれまでに何がわかり、何がわかっていないのか。
「私の研究室では免疫応答がどう感染防御に働いているのか、あるいは病原性を引き起こしているかについて研究している。エール大学の病院の100人以上の患者さんの免疫応答の長期的な解析を行った結果、炎症性のサイトカインを多く産生する患者さんでは病態が悪化することがわかった」
 ・・・・・
「抗体が長く維持されないことは特に珍しいことではない。抗体が減ったからといって免疫がつかないわけではない。ワクチンで得られる免疫は自然の感染で生ずる免疫に比べ効果が高い。濃度の高い中和抗体(細胞への感染を阻止する物質)を生み出せるからだ。抗体が長続きしないことはワクチンへの期待を損なう理由にはならない。」
 ・・・・・
「感染してから長期間にわたって深刻な体調の不良を訴える人がかなりいる。倦怠感や頭痛などの症状でベッドから起き上がれないほどの重症の方もいる。発症前は健康な若者にこうした『コロナ後遺症』に苦しむ人が多く、男性より女性が多いようだ」
「自己免疫疾患ではないかと仮説を立てて解明に取り組んでいるところだ。免疫機構の暴走の末に、体内にできた抗体が自分自身の組織を攻撃してしまうようになったのではないか。自己免疫疾患だとわかれば治療法も編み出せるはずだ」』

8月25日日経夕刊から、
『香港大学の研究チームは24日、新型コロナウィルスに感染して回復した人が再び感染したことを初めて確認したと発表した。ウィルスを詳しく調べたところ、最初に感染したときとは別のものと判明したという。世界的な流行が長引く懸念がある。
 ・・・・・
 米紙ニューヨークタイムズによると、再感染が確認された男性には新型コロナの症状が出ていない。同紙は専門家の見方として「1回目の感染が免疫をつくり出し、発症を防いだ」(米エール大の岩崎明子教授)と伝えた。』

A0ff461c53e046bbbcde9b47986a4f1c

8月30日日経朝刊から、
『中国で冷凍食品から新型コロナウィルスを検出したという報告が相次ぎ、その感染リスクが改めて注目されている。ウィルスは低温に強く、解凍後も感染力が残るという。ただ感染例はまだなく、専門家は手洗いや消毒など一般的な対策の徹底を呼びかけている。』

8月31日日経朝刊から、
『新潟大学の赤林伸一教授は新型コロナウィルスの感染防止のため国が決めた基準量で換気しても、ウィルスの飛散を防ぐ効果が不十分だとのシミュレーション結果をまとめた。教室に感染した生徒がいた場合、生徒が退席してから10分後も、ウィルスを含む飛沫の6割は室内全体に広がり残っていた。
 ・・・国は窓を開けにくい商業施設などで空調設備などを使って換気する場合、一人あたり1時間に30立方メートルの換気を推奨する。・・・』

005afab67c544bf3baea525681b80c8c

8月16日日経朝刊に掲載されたフィナンシャルタイムズの記事から、
『新型コロナウィルスの起源はコウモリとみられる。21世紀に入ってから相次ぐ、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染症もコウモリからヒトにうつったとされる。
 コウモリが、主要な人獣共通感染症の発生源になったのは比較的最近のことだろう。科学者らは、動物からの感染拡大が増えた原因として、無分別な自然との関わり方と急速なグローバル化があるとみる。こうした傾向に歯止めをかけるか事態を反転させない限り、病気の発生と大流行が繰り返されるとして、警鐘を鳴らす。』

8月25日日経朝刊に掲載された松尾博文さんの記事から、
『新型コロナが猛威を振るう今年、バッタの大発生が重なった。元は18年にアラビア半島南部で発生したサバクトビバッタが海を渡り、世代交代を繰り返しながら20カ国以上に広がり続けている。
 1平方キロメートルの群れは1日で3万5000人分の食料を食べ尽くす。農作物を食い荒らしながら1日で100キロメートル以上、移動する。ケニアは過去70年で最悪の事態になった。パキスタンは非常事態を宣言した。群れはインドにも侵入し、6月末にはニューデリー郊外に迫った。中央アジアや南米でも別の群れが発生した。
 国連食糧農業機関は東アフリカだけで2000万人が食糧危機にさらされると警告する。その間も内戦下のシリアやイエメンなどでは戦闘が続き、混乱に巣くうイスラム過激派が国を越えてつながる。』

8月22日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染拡大が各国で出生数の減少をもたらす恐れが出てきた。若者が雇用や収入への不安から結婚と出産に慎重になるためで、日米ではそれぞれ2021年の出生数が1割減るとの予測がある。・・・・・
 米ワシントン大は世界の人口が2060年代の97億人をピークとし、今世紀末に88億人程度まで減ると予測する。コロナ禍はこのペースを速める可能性がある。人口減は資源の利用や環境負荷を抑える反面、需要減や労働供給の制約につながる。潜在成長率を高めるため、不断の技術革新に取り組むことがこれまで以上に重要になる。』

3ca4a3bc7c3e428089976a651282511f

昨年パリを訪れたとき、かなり強引に観光客に接近してくる子供たちがいて驚いた。(2019年6月の日記をご覧下さい http://ichirocello.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-89c598.html)彼の地のスリの話はよく聞く。「表」ではない方法で生計を得ていた人たちは相当数いると想像する。世界中で観光客が激減した今、どのようにしているのだろう。深刻な何かにつながらなければいいけれど。

オーケストラの公演が行われる際、ホールには膨大な量の紙が台車に乗せて運び込まれ(積み込んだエレベータの床が沈むくらいの重さがある)、消費される。主催者が聴衆に配布するプログラムやチラシ、ホール入り口で袋に入れて配られる大量のチラシには、紙、印刷、撮影、デザイン、配布など様々な業種が絡んでいる。3月以降、一旦それらの需要はなくなってしまったのだろうか。

今月、都響はヨーロッパ公演を予定していた。指揮者やソリストはともかく、オーケストラの演奏旅行はしばらく難しいかもしれない。
世界には素晴らしいコンサートホールが数多くある。公演数が減って、そうしたホールの経営に影響しないことを願うばかりだ。そして時代がいつもより速く大きく動いても、生身の人間が音を出す演奏というものが変わらず必要とされることを願う。

2020年8月27日 (木)

シューマン

多くの人は最初から、あるいはもっと早くに気付くのだろうけれど、そしてこんなことを言うのは恥ずかしいのだけれど、僕は今年の春、ようやくシューマンの音楽の素晴らしさに気付いた。

4a36755091c54743bf7b05902fbe58b2

ソロ、室内楽、オーケストラ・・・、少なくないシューマンの作品を弾いてきた。今、それらの作品はまったく違う姿を見せている。長い時間、彼の書いた音符に直に触れてきたのに、何も感じていなかった。大切なことは目の前にあった。
ピアノ四重奏なら、第3楽章の旋律をどう弾くか、とかチェロの4番線をいつ、どのようにB♭に下げるのか、そんなことばかり気にしていた。桐朋に入った年に弾いたチェロ協奏曲は、どうしてそうした音の並びになっているのか、今は本当にそうですね、と思う。そして他の多くの作品と同じように、シューマンがそのような音楽を残してくれたことに深く感謝したくなる。

もちろん僕の経験してきた音楽の範囲は知れているけれど、それでも西洋音楽の偉大な作曲家たちの世界をふり返った時、そこにシューマンの音楽がなかったら、世界は大切なものを欠いただろう、と思う。誰もが抱えているにもかかわらず、それらを初めて目に見えるように(耳に聞こえるように)表現したのがシューマンだった。

C4ed54d444cc4c8486408466f1bcc679

ハインツ・ホリガーのアルバム "Aschenmusik"(https://www.ecmrecords.com/shop/143038752897)の核になっているのは、シューマンが晩年に書き、出版を望み、しかし失われてしまったチェロのためのロマンス。ホリガーのライナー・ノーツによると、そのことについてブラームスは1893年の手紙で以下のように書いている。(シューマンは1856年に亡くなった)

『シューマンは決して出版に値しない様々なものを残しました。ちょうど数週間前、シューマン夫人は、彼女の死後印刷され、世に出ることを恐れて、チェロの作品を燃やしました』

少ない資料から的確な判断をすることは難しく、また、ホリガーの文章を素直に信じてよいのかもわからないけれど、シューマンは生前、同時代の人々や、例えばクララ・シューマンやブラームスといった親しい人たちに、果たしてどのくらい共感をもって理解されていたのだろうか。

Ac3e1029348d48fa93a075b98b415f90

10年以上前に求め、最初の数ページを読んだだけで本棚に眠っていたシューマン著「音楽と音楽家」の中にこんな文章があった。

『誰かが生涯を通じて、全く同じ眼で見てきたというような大家が果たしているだろうか。バッハを正当に評価するには、青年の持ち得ない数々の経験がいる。モーツァルトの太陽のような高さでさえ、彼らにはあまりに低く値踏みされる。ベートーヴェンに至っては、ただ音楽を勉強しただけではたりない。これはある年齢に達すると、同じベートーヴェンのものでも、ある作品が特に他の作品よりおもしろくなるということをみてもわかる。ただ青年の感激は主として青年によって理解され、男らしい大家の力を知るものは一人前の男子であるという風に、同じ年齢がいつも互に牽きあうということだけは確実にいえる。だからシューベルトは永久に青年の寵児として残るだろう。・・・』

この本ではメンデルスゾーン、ショパン、ベルリオーズ、ウェーバー、ブラームス、そうした人たちが同時代の人間として生き生きと描かれ、興味深い。リストがライプツィヒを訪れたときの演奏会について、こんな文章があった。

『リストの親切なはからいから、当夜の演奏会ではこの土地にいる3人の作曲家 ー メンデルスゾーンとヒラーと僕 ー の曲が演奏されることになった。メンデルスゾーンの曲は最も新しい協奏曲、ヒラーのは練習曲、僕のものは≪謝肉祭≫という大分前の曲の中のものを幾つかひいた。たいていの気の小さな名人ならびっくりするだろうが、リストはこれをみなほとんど初見同然でひいたのである。・・・・・
僕の≪謝肉祭≫については、元来が狂詩曲のようなものだから、大勢の人々に印象を与えられるかどうか、僕はやや疑問に思ったのだけれども、彼は固く主張して譲らず、どうしてもこれをひきたがった。僕は明らかに彼の思い違いだったと信じている。ここでこの曲のちょっとした由来について一言しておきたい。どうしたわけか、僕の音楽の上の知りあいの婦人が住んでいた小さな町の名が、音階に出てくる文字ばかりでできていて、しかもその文字は、僕の名で音階にでる文字とちょうど同じだった。そこで、僕はバッハ以来べつに目新しくもない例の遊戯をやってみた。・・・』

8月、バッハの2番のチェロ組曲とシューマンの協奏曲を練習している。
バッハが尽きることのない泉のように、生命感にあふれたフレーズを次々と生み出したのは本当に驚くべき事だった。ある時はゼクエンツになり、ある時は即興的なチェロ組曲の一つ一つのフレーズが、いったいどのように生まれたのか、たどりながら弾いていた時、その心の動きは、シューマンの様々なフレーズの生まれ方にとても近いような気がした。

2020年7月31日 (金)

7月の日経新聞から

7月をふり返ってみる。


7月8日日経夕刊から、
『世界保健機関は7日、空気中を漂う微粒子「エアロゾル」を介した新型コロナウィルスの感染について、新たな証拠があることを認識しているとの見解を示した。・・・
 WHOの感染予防の技術責任者ベネッタ・アレグランジ氏は7日の記者会見で、エアロゾルを介した感染の可能性を示唆したうえで、「換気の悪い場所などでの感染の可能性は否定できない」と話した。今後の検証作業を急ぐ考えを示した。』


7月21日日経朝刊から、
『英製薬大手のアストラゼネカは20日、英オックスフォード大学と開発している新型コロナウィルスのワクチンの初期の臨床試験で、強い免疫反応を確認したと発表した。ワクチンは9月にも供給を始める予定で、新型コロナ対策としての期待が高まっている。
・・・・・
 世界保健機関によると世界で開発中の新型コロナワクチンは163候補に及び、そのうち23候補が治験に入っている。最速での実用化を目指すのは英製薬大手のアストラゼネカと米バイオ企業のモデルナだ。
 アストラゼネカは・・・、ブラジルや英国、米国で治験を実施している。9月にも世界での実用化を目指す。今秋の実用化予定のモデルナは初期の治験で参加者全員にウィルスの働きを中和する抗体の生成が確認できたと発表した。・・・・・
 日本でも大阪大発バイオ企業のアンジェスが6月末から治験に入っている。塩野義は11月にも治験に入る。第一三共や田辺三菱製薬も子会社を通じて開発に取り組む。
 日本政府は国内外の有望なワクチン候補を持つメーカーと安定調達に向けた連携を進めている。』

7月28日日経夕刊から、
『米バイオ医薬ベンチャーのモデルナは27日、開発中の新型コロナウィルス向けワクチンが臨床試験の最終段階に入ったと発表した。実際に新型コロナが流行する米国内90カ所で、3万人を対象とする大規模な治験を行う。米ファイザーも27日から世界各地で計3万人規模の大規模治験に入ると発表しており、ワクチン開発が大詰めを迎える。』

7月23日日経朝刊から、
『厚生労働省は新型コロナウィルスのワクチンの副作用で健康被害が生じた場合に被害者の医療費などを補償する制度をつくる。海外メーカーが訴訟で賠償金を支払う場合も国から補償を受けられるようにする方向だ。』

C5f6f11a19124ef2950e073ee759b11c

7月22日のBBCニュースから、(https://www.bbc.com/japanese/53497638)
『英政府の新型ウィルス対策を策定している非常時科学諮問委員会メンバーのファーラー教授は、世界はCOVID-19(新型ウィルスによる感染症)と「この先何年も、何年にもわたって」共存していくことになると述べた。
「クリスマスまでに事態は収束しない。この感染症は消えてなくなったりしない。今では人間に特有の感染症だ」
「実際に、ワクチンや非常に優れた治療法があったとしても、人類はこの先も、何年も、何年にもわたって新型ウィルスと共存していくことになる。・・・」』

7月31日日経朝刊の「アジア便り」から、
『「現実的に考えるとワクチンが国内で行き渡るのはおそらく来年末頃になるだろう」。シンガポール保健省幹部は先日の記者会見でこう語った。・・・
 米グーグルは27日、在宅勤務を21年6月まで延長すると明かした。・・・』

A978212811a94927b55f1c3f77dfc200

7月15日の日経朝刊から、
『厚生労働省は14日、6月に宮城、東京、大阪の3都府県で実施した新型コロナウィルスの疫学調査で、参加者から検出された抗体に、感染を防ぐ能力があることを確認したと明らかにした。
 国立感染症研究所の分析で、アボットとロシュという2つのメーカーの検査手法でいずれも「抗体がある」と判定された場合に感染を防ぐ能力があることが分かった。』

同じ7月15日日経朝刊から、
『韓国政府が3055人を対象に新型コロナウィルスの抗体検査を実施したところ、抗体が確認できたのはたった1人だったことが14日までに分かった。
 韓国のパク・ヌンフ保険福祉相は「抗体を持つ人がほとんどいないということは、韓国社会が集団免疫を形成するのは事実上不可能なことを示している」と指摘。「新型コロナの流行は有効なワクチンが登場するまで1~2年以上の長期化は避けられない」と警鐘を鳴らした。』

7月19日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスに一度感染して増強された免疫の能力が、数ヶ月で落ちるという研究報告が相次ぐ。免疫を持つ人に証明書を発行するという考え方もあるが、実現は難しい。・・・・・
 新型コロナの抗体については、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も「回復患者で十分な抗体を持たない人がいることを確認している」と言う。・・・・・』

7月26日日経朝刊から、
『新型コロナウィルス感染後に回復したものの、息切れや倦怠感などに悩む患者の報告が増えている。「後遺症」との見方もあるが、経過や続く期間などは不明だ。・・・
 退院患者の肺機能の低下は世界中で相次ぐ。フランスや中国の病院でも、多くの患者で、肺でのガス交換の異常や肺活量の低下がみられた。・・・
 感染で特にできやすいとされる血栓が原因との見方もある。・・・
 後遺症を防ぐ模索も始まっている。東京医科歯科大病院では、入院時からリハビリ治療を積極的に取り入れている。・・・』

3f32f2de4d8c4d239164738b2345542c

7月21日日経夕刊から、
『加藤勝信厚生労働相は21日の閣議後の記者会見で、海外との段階的な往来再開に向けて空港検疫の新型コロナウィルスの検査能力を現在の1日2300件から9月中にも同1万件に引き上げると表明した。現在のPCR検査に加え、検査結果がその場でわかる抗原検査も活用して効率化する。
 同省によると、8月1日までに同4300人に引き上げ、9月中に同1万件を目指す。』

7月14日日経夕刊から、
『新型コロナウィルスの世界の累計感染者数が1300万人を超えた。・・・
 世界保健機関のテドロス事務局長は13日の記者会見で「あまりにも多くの国が誤った方向に進んでいる」と強調した。「オールドノーマル(旧常態)に戻ることは当面ない」と懸念を示した。』

7月31日日経朝刊から、
『世界保健機関が新型コロナウィルスを巡って緊急事態を宣言してから30日で半年がたった。世界の累計感染者は1700万人を超え、新興国を中心に勢いが止まらない。・・・
 米ジョンズ・ホプキンス大によると、直近約1ヶ月半で感染者は倍増した。米国、ブラジル、インドの三ヵ国で全体の半分を占める。中国やスペインなどいったんは抑制した国で再び拡大するケースも目立つ。世界で死者は約67万人に上る。
 WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した1月30日時点では、感染者は約8000人にとどまっていた。・・・
 ・・・・・
 WHOは現在、ウィルスの起源を突き止めるため中国に専門家を派遣し、8月以降に現地で本格的な調査に乗り出す。発生源や人に移った経路が分かれば、将来の感染予防に大きな前進となる。・・・』


様々な国や人が、感染が広がる前の社会の姿になんとか戻そうとしているように見える。残念ながら、世界は新しい局面に入っているのではないだろうか。日常が突然断ち切られたことは理不尽で、たとえそれを受け入れられなくても、ウィルスはそうした人の思いとは関係なく動く。今の状況に適応する生活や経済の形を見つけることが、と思う。
各国の感染対策はうまくいっているのだろうか。政治家は人間の思惑や感情の海を泳ぐことに長けていても、ウィルスには手を焼いているようにみえる。人間のコントロールが及ばない物事を深く学んだ人を、政治の中枢に入れることが必要と思う。

63d4cf22c208493783815f69137b79e4

7月21日日経夕刊に掲載された安田秀一さんの記事から、
『プロ野球が約3ヶ月遅れて開幕し、Jリーグも再開しました。新型コロナウィルスの影響で無観客での開催でした。・・・・・
 みなさんは観客不在のプロ野球をどう感じましたか。僕は具の入っていない塩おにぎりを食べているような印象を受けました。観客の熱狂というのはスポーツエンターテインメント、興行としての根本要素だと改めて認識しました。
 スポーツビジネスとは熱狂をマネタイズすることです。チームや選手を応援する気持ち、素晴らしいパフォーマンスによって生まれる興奮や高揚感をお金に変えていく。無観客試合はその対極にあります。 熱狂を生み出すことができなくなったこの危機に、スポーツはどう対処すべきでしょうか。正直言って、僕にも明確な答えは分かりません。・・・・・』

7月21日日経朝刊、「霧中の五輪」という記事から、
『「最悪のシナリオは五輪中止。考えただけでも恐ろしい」。五輪競技の国際団体の理事は声のトーンを落として続けた。「それでも我々は生き残らなければならない」
 「秋までにコロナが収束して国際大会を再開」「収束は遅れるが五輪は開催」「収束にいたらず五輪中止」。団体の経営計画は3つのシナリオを想定し、事務所の一部閉鎖や人員削減も選択肢に含めているという。』

7月14日日経夕刊、「演劇再始動」という記事から、
『いずれ演劇公演が完全に正常化しても「配信は避けて通れない」との声が過半だ。「ウィズコロナ」の時代は「ウィズ配信」の時代を招いた。政府や自治体の補助金も、配信事業を対象にした者が目立つ。
 しかし、観客数を減らしたまま収支を合わせるのは容易でない。動員力のある三谷幸喜「大地」でさえ、配信を「10万人が見てくれないとペイしない」という。配信のチケット代は劇場用の4分の1。それで観客の減少分を埋めねばならず、配信のコストもかかる。』

3f030bdb9a064271a8fa0d03ec450b68

都響も7月12、19日に公演を行った。久しぶりの演奏会は素晴らしい時間だったけれど、再び感染が広がっていく中、聴衆に演奏会場まで来て頂くことを、僕は心苦しく感じた。状況が日々変化する今、演奏会など先々の計画を立てることはリスクを伴い、なかなか難しい。
終演後、奏者が舞台上で握手をする習慣は、肘を合わせることに変わり、客席からの「ブラヴォー」は叫ばれるのではなく、横断幕に書かれていた。
演奏会の模様は7月29日からチャリティーとして有料配信されている。(https://www.tmso.or.jp/j/news/9136/) 演奏会が常に配信されるようになったら、仮に感染が広がって聴衆を迎えられなくなっても、公演自体はキャンセルしなくてもすむかもしれない。一方、奏者の負担は大きくなるかもしれない。
動画サイトには無数の魅力的な動画があふれ、有料配信ではまずベルリンフィルの素晴らしいクォリティのものが頭に浮かぶ。その中で僕たちの演奏は果たして。

数年たって2020年7月をふり返った時、あの時あぁすることが、とわかるかもしれない。でも今は皆手探りで進んでいる。

2020年7月29日 (水)

ベートーヴェンの1番と2番

4ヶ月ぶりに都響の演奏会があり、7月12日はベートーヴェンの1番、19日は2番がプログラムの中心だった。ベートーヴェンの初期の交響曲を2週続けて丁寧に弾く機会はあまりなく、とても興味深かった。
この2曲をたどると、ベートーヴェンが様々な試みをしていたことがよくわかる。そして、次に書かれた交響曲が「英雄」で、もちろん1,2番の後の3番なのだけれど、その間には信じられないくらい大きな跳躍があることに思い至った。人間の素晴らしい能力に触れることがある。「英雄」の作曲はその一つだと思う。この曲が書かれた後、交響曲の世界はまるで違うものになったのではないだろうか。

F2d6ade9a50549cbb14fe139da640bd6

和声がなかなか主調に到達しない第1番の交響曲の始まり方に驚く。当時、どのくらいインパクトがあったのだろう。こういうことを最初の交響曲の冒頭で書いてしまうなんて。(同じような書方を思い起こしてみると、ラズモフスキーの1番や第九、そしてチャイコフスキーの弦楽セレナーデ、「フィレンツェの思い出」、・・・。)
4+2の、6小節フレーズのような第2楽章に続き、'Allegro molto e vivace'(!)と指示された第3楽章メヌエットを弾くと、「英雄」の3楽章はすでにここにありましたね、と思う。そしてこのような速い3拍子は第九の2楽章にも、もう少し広げると田園の3楽章、7番の3楽章にもある。1番の終楽章では「運命」のモチーフが早々と現れ、第2主題は提示部と再現部で見事に変化し、そのスムースさはまるで熟練の職人技のようだ。

演奏会の後、改めて楽譜を見ながら1、2番を聴いた。1番には穏やかな感じが、2番にはボディブローを喰らうような重さがある(幸い喰らったことはないけれど)。

僕が初めてベートーヴェンの2番を弾いたのは学生時代、アレクサンダー・シュナイダーの指揮だった。当時カザルス・ホールと桐朋学園が提携した演奏会がいくつかあり、その一つだったと思う。シュナイダーは強烈な人で、曇った分厚い眼鏡の奥の大きな目をぎょろりと動かし、練習が始まると「Out of tune!」と怒鳴り、二言目には「Go home!」だった。ひたすら怒鳴られていた。
僕が最もよく聴いた録音の一つが、カザルスがケネディ大統領の招きに応じてホワイトハウスで弾いた1961年の演奏会。その中にシュナイダー、ホルショフスキー(奇跡のように素晴らしいピアノ)と演奏したメンデルスゾーンの三重奏があり、僕はCDのライナー・ノーツへのサインをシュナイダーに求めた。するとサインをしたシュナイダーは、君はこのCDをたくさん買わなければならない、と言い、なんだか狐につままれたような気がした。
ベートーヴェンの2番を弾くと、今でもシュナイダーのオーケストラの情景が目に浮かぶ。

A02bac079a66459cbc63acf79abede1d

この曲の、腹にこたえるような暗さはどこから来ているのだろうか。主調のニ長調に対して出てくるニ短調かもしれない、と思った。第九の第1楽章がずっしり重いのも、一つにはニ短調という調性があるのかもしれない。そして32分音符で始まる2番の冒頭からは、32分音符が特徴的な第九の第1主題を思う。
身の周りのことで言うと、2番の特徴は、ヴィオラ、チェロ、コントラバスがよく一緒に動くことだ。大人数で同じ音符を弾いて、これはちょっとうるさいんじゃないの、と思う時もあるけれど、スコアを見ると、全体的に声部があまり分かれていないことに気付く。もう一つ、いつも不思議な感じがしたのが、2楽章の、第2ヴァイオリンとチェロがユニゾンで旋律を弾いた後の、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの動き。提示部と再現部でも違っていて、何だか腑に落ちない。
1番の交響曲のコントラバスは、まさにダブルバス(1オクターヴ下の音域)で、ほぼチェロと同じ動きをしている。それが2番のこの箇所では、うまくフィットする異なる動きを探しているように見える。こうしたことを知ると、「英雄」のオーケストレーションはとても洗練されている、と感じる。

E12e77d22c3947a7af8af9c2fc00e02b

2番の交響曲はごつごつしている。むきだしの骨組みに触れているようだ。弾き終えた後、3番を聴くと、乗り心地のいいサスペンションのついた、しかも座席にはクッションまである上等な車に乗っている気がする。これまでは風を切って進んでいたのだけれど、3番はなにか特別なものをまといながら滑らかに進む。7月12日が1番、19日が2番だった。もし翌週に3番の演奏会があったら、いっそう心を動かされただろうと思う。

2つの公演の模様は7月29日から、医療へのチャリティとして有料配信されます。(https://www.tmso.or.jp/j/news/9136/) また、9月16日の都響演奏会には「英雄」があります。

2020年6月30日 (火)

6月の日経新聞から

今月をふり返ってみる。

6月29日日経夕刊から、
『米ジョンズ・ホプキンス大学によると、世界の新型コロナウィルスの累計死者数は29日、50万人を超えた。欧米各国に加え、ブラジルやメキシコなど新興国でも増加している。・・・
 新型コロナの世界の累計感染者数も1千万人を突破した。先進国を中心に経済活動を再開する動きが見られ、感染ペースが鈍化した国では渡航制限を一部緩和する動きも出てきた。ただ再開を急ぐあまり感染が再拡大する懸念も広がっている。
 感染の再拡大を防ぐための動きも出ている。・・・』

712ace518f3946ad913cb48c7189169f

6月5日日経夕刊から、
『英製薬大手のアストラゼネカは4日、英オックスフォード大学と開発する新型コロナウィルスのワクチンについて、今年から来年にかけて20億回分の生産が可能になるとの見通しを発表した。』

6月11日日経夕刊から、
『米政府が支援する3つの新型コロナウィルスのワクチン開発計画が今夏にも治験の最終段階になどに入ることが10日、分かった。・・・
 報道によると、7月に米バイオ医薬ベンチャーのモデルナがワクチン開発の最終段階に当たる治験の第3段階に入る。
 米ジョンソン・エンド・ジョンソンは9月に予定していた初期段階の治験を7月後半に前倒しすると10日、発表した。
 8月には英オックスフォード大学と協力する英製薬大手アストラゼネカも第3段階に入る。米政府の支援を受け、各社は約3万人を対象にワクチンとプラセボ(偽薬)を投与し、新型コロナ発症率の差を確認する。通常、同段階では数千人が治験対象となるが、開発を加速するために規模を拡大する。
 これらとは別に、米政府が100億ドルを投じた「ワープ・スピード作戦」の支援対象となっている米ファイザーのワクチン候補は7月にも第3段階の治験に入る準備を整えている。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、今後、仏サノフィが開発するワクチンも大規模な治験を政府が支援する可能性があるという。
 米紙ニューヨーク・タイムズによると、新型コロナのワクチン開発計画は世界中で135に上る。しかし、第1段階以上に進んでいるものはごく少数に限られる。』

6月13日日経朝刊から、
『第一三共は12日、新型コロナウィルスに対するワクチンを開発すると発表した。2月から東京大学と研究を進めてきたが、効果が確認できたことから開発に乗り出す。今後は動物試験などを実施。2021年3月ごろの臨床試験開始を目指す。』

6月18日日経夕刊から、
『大阪府の吉村洋文知事は17日の記者会見で、大阪大発のバイオ企業「アンジェス」が開発を進めている新型コロナウィルスのワクチンについて、10月に400~500人規模の臨床試験を実施すると説明した。
・・・
 ワクチンは大阪大の森下竜一教授が中心となって開発。吉村氏は治験や国にの認可を経て、2021年春~秋の実用化を目指し、数百万人分の製造が可能としている。』

6月24日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの「第2波」に備え、欧州各国がワクチンの調達を急いでいる。ワクチンはまだ開発段階だが、米国が先駆けて欧州製薬会社と契約を結んだことに対抗する。各国政府が製薬会社と直接交渉し、今秋にも供給されるワクチンを確保しようと躍起だ。』

6月18日日経朝刊、「史上最大のワクチン事業 仙台医療センター・ウィルスセンター長、西村秀一氏に聞く」という記事から、
『ワクチンは流行が来てみないと効くかどうか分からないんです。頻度は低いかもしれないが副作用もあるし、因果関係が不明でも接種後に偶然亡くなる人が出ることだってあります。たとえば心筋梗塞など。多くの人が接種するほどそうした報告が頻発する。すぐに大量のワクチンが用意できないときは、接種の優先順位を決める必要があります。医療従事者か、高齢者か、基礎疾患のある人なのか。小児はどうするのか。
 こういうことを接種事業を実施する前に国民に説明しなければならない。副作用事案に備えてきちんと調査をする期間を整えておく必要もあります。何事もリスクはあります。』

秋以降、欧米でワクチンの接種が始まり、日本では来年になって一部の人に、ということだろうか。そして来年の春にはワクチンの効果や副作用について、検証や報道がされているのだろうか。

36fe29f6b1b4457786a34be8e58ca69f

6月5日日経朝刊から、

『新型コロナウィルスに感染した子供で、発熱や発疹、腹痛などを患う『川崎病』に似た症状になったとの報告が欧米で相次いでいる。』

6月6日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染者が重い合併症を患う症例が、世界で相次ぎ報告されている。心臓や脳、足など肺以外でで重篤化するケースが目立つ。世界では300万人近くが新型コロナから回復したが、一部で治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクも指摘され始めた。各国の研究機関は血栓や免疫システムの異変など、合併症のメカニズム解明を急ぐ。』

6月12日日経朝刊から、
『新型コロナウィルスの感染が拡大していた4月、「特定警戒地域」だった13都道府県のうち11都府県で平年より死亡数が大きく上回る「超過死亡」があったことが11日、日本経済新聞の集計で分かった。・・・
 東京都は11日、緊急事態宣言が発令された4月分の死亡数を公表。死亡数は1万107人で、平年より1056人(11.7%)増加した。都を含め埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡の計7都府県は平年より1割以上増えていた。』

わからないことばかりだ。

Ac010df3726d4983856c111ce1d2a429

6月17日日経朝刊、「唾液の抗原検査 重要」という専門家会議副座長、尾身茂さんの記事から、
『PCR検査と組み合わせる検査として期待を示したのが唾液による抗原検査だ。この検査は唾液に含まれる新型コロナウィルスの一部の物質を検出する。現状では、遺伝子の量を調べるPCR検査に比べて感度が劣る。企業が精度の検証をしている段階で、まだ実用化していない。
 尾身氏は予備的な調査を元に、精度の問題をクリアして利用できる見込みを示唆した。』

6月22日日経朝刊から、
『専門の技師や検出器を使わず、30分程度で新型コロナウィルスを判定する検査法が実用に向けて動き出す。日本大学の桑原正靖教授らが作ったウィルス検査で、月内に塩野義製薬と量産向け検査キットの開発でライセンス契約を結ぶ。インフルエンザのように病院で医師や看護師が検査してすぐ結果を知ることもでき、経済再開に向けた環境整備につながる。
 塩野義は検査キットが診断に使えると判断すれば、厚生労働省に薬事承認を申請し、今秋の実用化を目指す。』

人類の叡智を結集して、リトマス試験紙のように、誰でも手早くできる検査方法を開発できないのだろうか。外出前、5分くらいで陰性か陽性か調べられるようになったら、ずいぶんいいのに。


6月10日日経朝刊から、
『ソフトバンクグループは9日、グループの社員や医療従事者ら4万人を対象に実施した新型コロナウィルスの感染歴を見る抗体検査の結果を公表した。抗体を保有していた陽性率は0.43%だった。』

6月16日日経夕刊から、
『厚生労働省は16日、東京、大阪、宮城の3都府県で実施した新型コロナウィルスの抗体検査の結果を公表した。過去に感染したことを示す抗体保有率は東京0.1%、大阪0.17%、宮城0.03%だった。いずれも公表ベースの感染率を上回ったものの、海外と比較して低水準だった。・・・
 一方、米ニューヨーク州が実施した検査の抗体保有率は12.3%、スウェーデンのストックホルムは7.3%に達しており、海外の感染拡大国に比べると低水準だ。
 同省も「大半の人が抗体を保有していない」と結論付けた。現時点では抗体がどれだけの期間持続するかや、抗体保有者に再感染リスクがないかは分からないとしている。』

6月4日日経夕刊から、
『スウェーデン政府で新型コロナウィルス対策を担う疫学者のアンデュ・テグネル氏は3日「我々がやってきたことは明らかに改善の余地がある」と述べた。同国はロックダウンをせず、多くの人が感染して『集団免疫』を獲得することを目指す独自路線を取ったが、死者数が増えて批判が強まっていた。』

6月26日日経朝刊、「集団免疫 終息のカギ」という記事から、
『集団免疫は感染者の割合がどれくらいになれば得られるのか。これは1人の感染者が新たに何人に感染させるかを表す『基本再生産数』という値などから割り出す。欧州の感染例を参考に基本再生産数を2.5として感染の広がりを求めると、全体の6割程度の人が免疫力を持てば感染は収まるとされている。・・・
 スウェーデンのストックホルム大学などは免疫を持つ人が4割程度で集団免疫が獲得できるとの試算をまとめ、英科学誌サイエンスに発表した。外出する機会などが多い13~39歳の若年層が感染した割合が7割に達すれば、高齢者などの感染した割合が3割前後に留まっても再流行しないと分析した。
 英オックスフォード大学などのグループは人口の1~2割が感染するだけで流行が拡大せず終息に向かうとした。感染しやすさや接触頻度がばらつけば、感染は広がりにくいという。
 ・・・・ ただ集団免疫の推定を巡る研究は実際の社会で実証されておらず追加の研究が欠かせない。また感染者でも免疫が長期にわたり保たれず集団免疫は期待しにくいとの指摘もある。』


6月24日日経朝刊から、
『空港検疫のPCR検査で新型コロナウィルスの感染確認が相次いでいる。入国制限により検査対象は全国で1日1千人程度にとどまるが、ほぼ連日新たな感染者が見つかっている。・・・
 政府は2月以降、水際対策を順次強化し、23日時点で入国拒否は111カ国・地域に及ぶ。現在入国できるのは日本人の他、早期に再入国の手続きをした上で日本を離れていた永住者や日本人の配偶者に限られる。症状の有無にかかわらず全員がPCR検査を受ける。
 ・・・
 政府は経済活動の回復に向けてビジネス目的の往来に対する制限を緩和していく方針。』

30509cea6a0b40688397afda5bd82f15

6月15日の夕刊に掲載された日本フィル理事長、平井俊邦さんの記事から。

『 ー 危機に瀕する各オーケストラが存続する上での課題は。
「制度上の問題が大きい。多くの楽団が公益財団法人という形態をとっているが、年間の収入と支出をトントンにしなければならない『収支相償の原則』がある。利益を出し、積み立てておくことが難しいため、今回のような危機への備えができない。一方、2年連続で純資産が300万円を下回ると、法人資格を失い解散を迫られる」
「日本では、文化芸術は余裕がある人の道楽や教養ととらえられてきた面がある。だが心がカサカサになったときに、芸術がどれだけそれを潤わせ、和ませることができるか。長い自粛生活で痛感した人も多いのではないか。社会と経済、文化は一体のものだ」』

6月16日日経夕刊に掲載された作家、堀川惠子さんの『「不要不急」は人生の糧』という文章から
『劇場は連日、補助席も足りないほどの大入り満席。俳優は白銀のバックライトに唾を飛ばして熱演し、観客は肩寄せ合う熱気の中で物語に浸った。そんな舞台の「熱」を取り去らねばならぬコロナ対策は、あまりにむごい。
「不要不急」のレッテルを貼られた文化や芸術が先を見通せず、解を求めて苦しんでいる。演劇界でもネット上の試行錯誤は行われているが、劇場の一期一会の緊張感と臨場感は他には代えがたい。その空気感は、どんな精巧なカメラで撮影してもとらえきれぬ無二のものだ。
・・・・・
「文化は良き時代にのみ享受される贅沢品ではない。芸術は生命の維持に必要な存在だ」
ドイツの文科相が国民に語りかけた言葉に、一縷の希望を見出す。が、ここでなぜ遠い海外の大臣の言葉を引用せねばならぬのか、それもまた歯がゆい。』

大編成が必要なマーラーなどの交響曲や、大きな合唱団が入る第九の演奏会は難しそうだ。それだけでなく、演奏が終わった後、客席からの「ブラボー」も、舞台上で演奏者同士が握手をする習慣も、しばらくなくなるかもしれない。
都響は来月、予定を変更し、規模の小さな公演を開く。一方、ニューヨーク・フィルは来年1月5日までの公演中止を発表した。https://nyphil.org/plan-your-visit/how-to-prepare/health-and-safety 日本では様々なことが動き出しているけれど、この報道に接して、有効な治療法もワクチンもまだないことを思う。

2020年6月22日 (月)

若い演奏家たち

仕事に最低限必要なだけしかクラシック音楽を聴かない時期がずいぶん長くあった。ラジオもニュース以外はJ-waveかInterFMのみ。最近はNHK-FMもよく聞くようになった。ごくたまに朝早く目が覚め、ラジオからバロック音楽が流れてくると、この僕にも何だか素晴らしい一日が訪れそうな気がするし、そのほかの時間帯でも、興味のなかった演奏に触れ、思いがけず心を動かされることがある。

グイード・カンテッリという指揮者を知らなかった。日曜日のラジオから流れてくる音の素晴らしさに心奪われた。古い録音にもかかわらず、オーケストラの音が信じられないくらい生き生きしている。きっとカンテッリがいると、奏者たちは自分の能力を十二分に発揮できたのだろう。1920年生まれだから、例えば1919年生まれのバーンスタインや20年のノイマンと同世代。大変残念なことにカンテッリは航空機事故で若くして亡くなった。

ユリア・フィッシャーという若いヴァイオリニストも知らなかった。ブリテンやブルッフの協奏曲の素晴らしい演奏を聴き、調べてみると、彼女は演奏会の前半でサン・サーンスのヴァイオリン協奏曲、後半はグリークのピアノ協奏曲(ピアノで)を弾く、ということもするらしい。ロストロポーヴィチがモスクワ音楽院の試験でラフマニノフのピアノ協奏曲を弾いたり、歌手である夫人のピアノ伴奏をしたりしていたことを思い出した。

Dsc_2170

オーケストラの活動がままならない中、パリ管が新しい音楽監督を発表した。なんと1996年生まれのクラウス・マケラ。この4月、都響は彼の指揮でショスタコーヴィチを演奏するはずだった。マケラは素晴らしいチェリストでもある。

先日久しぶりに上野駅でJRを降りたら、ホームで流れる音楽は変わらずマイスタージンガーだった。その前に流れていた「誰も寝てはならぬ」には少々うんざりしていたけれど(プッチーニさん、ごめんなさい)、マイスタージンガーは、簡略化されていても素晴らしいと思う。予定としては、今はオーケストラピットに入ってマイスタージンガーの音楽にまみれている時期だった。

より以前の記事一覧